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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
新たな同胞との出会い
26/33

2ー8

いくら暴れようとも肉体派である燐には敵わないのでもうどうにでもなれといった感じで私は大人しくお姫様抱っこで運ばれた。



「いや〜、随分と気に入られてるのぉ」



とずるずると引き摺られている彩芽が私たちを見ながらそう言った。



「気に入られてるって…………まぁ、そうなのかな?」



「いやそうじゃろ。誰からどう見てもそうとしか見えんじゃよ。なぁ、くずっち?」



「確かにね〜。というか燐ちゃん凄いねぇ?ボスに向かって威嚇するなんてアルジェ以来だよね?」



「確かに私も面向かって威嚇されるのはあの狂犬とヴィラン以外にいないからねぇ。久々に驚いたよ」



「なんか…………すみません」



私は申し訳なくなって謝った。というかアルジェントが威嚇したというのは納得というか。まだ会って2日しか経ってないがなんとなく彼女の雰囲気は感じ取ることができた。



「そういえばボス?あの2人どこ行ったの?」



「あの2人にはお使いを頼んだのさ。あの2人なら早いしセンスもいいからねぇ。…………さて着いたよ」



と長い廊下の端に『炎国治安保全課本部』と書かれた看板がかけられた扉についた。



「さて、おふたりさん。ここが君たちの職場だ。これから色々とあるだろうが、楽しくやっていこう」



そうして夜神隊長の案内で私たちはその扉をくぐった。




***




室内に入るとまず目に付くのは書類と小さな空瓶が山積みになっている巨大で豪華なデスク。ただ、そのデスクの周りにはダンボールやらが散乱しており、かなり汚い。そして何故か近くに高そうなソファが置いてある。



壁にはいくつかの賞状や絵が飾らせており、ファイルが大量に入っている扉付きの棚が向かい側の壁に置いてある。あとは職員室で見る様な机の配置がされており、それぞれがその机の主を表している様な有様だ。



脇の方には小さな厨房設備とトレーニング用器具が置かれたスペースに来客用のスペースがあった。



「ほら、あそこが君たちの机だ。必要な物は揃っているし、他に必要な物があるなら自分で揃えな」



夜神隊長はそう言い残すと机の脇に置いてあったアイマスクをつけてソファに寝転がりいびきをかいて寝始めた。



「「…………………」」



言葉を失う私たち。



「ボスはいつもあんな感じだよ。いつも寝不足だから元の性格も合わさって不気味な感じになるんだよ」



「「へ、へぇ…………」」



「さて、早速やって行こうか!まずは備品と部屋の確認だね」




***



机は業務用の事務机であり、机上には書類作業に必要な小物類に小さな棚があり、備え付けの引き出しにはいくつかのファイルとクリアカバーがあった。



「まぁ、基本的にはここの備品で事足りるよ。ここはそんなに書類整理とかないからね〜。あるのは現場調査とそこで出た証拠整理くらいかな?」



「保全課ってそういうもんなの?」



「そういうもん。なんか私たちって近衛局の武闘派勢らしくてね?そりゃあ、第5世代が集まって出来てるんだから仕方ないんだけど。書類関係が少ない代わりにその分現場がきついんだよ」



「ふーん、なるほど」



「それであっちのトレーニングスペースとか厨房設備は好きに使っていいよ。冷蔵庫は共用だからね」



と葛葉と燐はとんとん拍子に話を進めていった。



「それからこの保全課にはいくつかの決まり事があるんだ。まずはボスが今寝てるソファは使っちゃいけないのと冷蔵庫にあるプリンを食べちゃダメ。食べるとボスが般若になるから」



「………………燐。絶対に食べちゃダメだからね」



私は以前からよく玄角さんの菓子を隠れて食べていた燐に忠告した。



「いや食べないよ!?なんでそう言うのさ!」



「…………常習犯」



「……………………」



私がそう言うと燐はあからさまに視線を逸らした。



「あとは匂いのきついものは置かない。私たちはそんなでもないんだけど、アルジェの様に鼻がいいのもいるからね。小鈴は匂いとかは大丈夫?狐だし」



「まぁ、確かに香水とかちょっと嫌だね。ニンニクとかも苦手だし」



「了解〜♪…………そして最後にこれが1番大事な決まり事。"保全課の仲間は家族として扱い、助け合う"だよ。これから先何があるかわからないし、命の危険だってある。だから、お互いを助け合い、尊重し合う。わかったかな?」



葛葉の言葉に私は少し思いに深けた。



私にとって"家族"は姉の居場所で居心地が悪かった。



燐に関しては3年経った今でもわからない。家族なのか友人なのか随分と曖昧だ。



だけど……、側にいるのが当たり前になっている。一緒にいるとなんだか胸の内がぽかぽかと暖かくなっていく存在。そして守りたい居場所。



なら燐は家族?…………わからない。



「ーー小鈴」



ふと私の名前が呼ばれたかと思うと後ろから優しく抱きしめられた。見るといつもの明るい表情の燐だった。



「別に難しく考える事じゃないよ。要するに困った時はお互い様というわけだよ」



「……………そういうもの?」



「そういうこと。そうでしょ?葛葉」



「まぁ、簡単に言うとそうだね。とにかく仲間は大事!が私たち保全課のモットーなのさ!」



と元気よく笑う葛葉を見て、"そういうもの"だと感じ取った。



「ボスー!!買って来たよーー!!」



とその時、部屋の入り口が勢いよく開き、アルジェントとノワール、それにここに来る前に会った時雨さんが入って来た。



「お、どうやら無事に着いた様だな2人共。空の旅はどうだった?」



と時雨さんが私たちに聞いて来た。



「案外快適でしたよ」



「揺れないし、静かだったからねぇ。鳥とは大違いだよ」



私たちは素直に感想を言った。どうやら燐も同じ様な事を感じた様だ。



「あー、やっぱり?ボク達も同じ意見さ。もっともボク達の場合は貨物飛行機だったけどね」



「……………飛行機うるさい。玉静か」



「君たちどんな生活していたの…………」



アルジェ達も似た様な意見だった。



「それで2人は何をしに行っておったのじゃ?ボスが言うには御使いを頼んだとか」



と先程まで静かだった彩芽が2人にそう聞いた。よく見ると手には麩菓子の袋が握られていた。つまりはずっとそれを食べていたという訳だ。



「ん?あぁ、それは………はいこれ。開けてみてよ」



とアルジェントは私たちに小さい箱を手渡して来た。



開けて見るとそこにはマグカップが入っていた。私のはデフォルトされたキツネのマグカップで燐のは黒猫のマグカップだ。



「隊長の決め事でここでは新人は先輩から個人用のマグカップを貰うんだ。つまりそれは仲間の証っというわけだ。………改めて、ようこそ保全課へ。私たちは君たちを歓迎するぞ」



と時雨さんはそう言って握手を示し、私たちはそれに応えた。



そうして私たちの近衛局での生活が始まった。

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