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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
新たな同胞との出会い
25/33

2ー7

長距離人材輸送砲というのは案外乗り心地が良かった。



鳥型ヴィランに運ばれた時は揺れるわ風が煩いわで最悪だってけど、これは包まれているから静かだし、そんなに揺れはしない。



下を見てみると凄まじい勢いで景色が流れていき、もう既にちらほらと建物が見え始めている。前方にはビル群が見えていることからそろそろ首都に着くだろう。



(……………近衛局か。遠目から見たことあるけど、一体どんなとこなんだろ)



近衛局の建物は首都の中心部にあり、首都の端でも見えるくらい大きい。首都住まいだった私もほぼ毎日目にしていたからよくわかる。



首都は近衛局の建物を中心にドーナツ状に何重にも広がっており、かなり広大だ。北方に住宅街、西方に工業地帯、東側に商業区、南方に学園及び研究区と大まかに分けられている。



更に首都から離れると旧市街地や農地などが広がっているのだ。



と考え事をしていると私を包んでいた球体がどういう原理かわからないが、音も無く砕け散った。



轟々と唸る風。叩きつけるような風圧。そして、陽の光に反射してキラキラと輝くビル群の窓。



私は今、真っ逆さまにフリーフォールの最中である。



そして私と同じく空中でフリーフォールする人影が5つ。



「ぎゃあああああああ!?!?!?」



「叫んでる場合かくずっちゃ!!早う煙出せ煙ぃ!」



そのうち2つは手足をバタつかせて涙目で叫んでいる葛葉と同じく涙目で葛葉にしがみ付いている彩芽である。



「あっはははは!!いいねいいね!やっぱこれ楽しいよ!」



「……………………」



とアルジェントは狂った様に笑い、身体の空気抵抗を減らして落ちるスピードを上げており、ノワールもそれに追尾してスピードを上げていた。



「さーて………どうする小鈴?」



と私と同じく逆さまの状態で腕を組みながら落ちている燐は私に聞いてきた。



「どうするって…………そりゃあ、いつも通りでいいんじゃない?」



私は燐にこの手合いでいつも助かっている方法を提示した。



「なるほど!さっきの軍人さんが被害は気にしなくていいって言っていたからね!というわけで小鈴お願い!」



「了解ッ!」



燐の号令に私は異能を発動させる。



まずは"材料"となる武器の生成をする。出来るだけ大きく含有金属が多い物を生成し、砕く。全ての武器が砕き切ったら、今度はそれら全てを私と燐を包み込む様に操作して整形する。形はお椀ががいいだろう。底の部分は分厚く、衝撃を少しでも逃がせる様に下に緩衝材代わりの柔らかい金属を何重にも付けて。



「出来たよ燐」



「ほい来た!そこの2人もこっち来る?」



「行く行く!行きます!!」



「早く早く!マジで死ぬぅ!!」



「わかった」



と私は葛葉と彩芽をチェーンで捕まえて引き入れた。



…………まもなく地面である。



「燐。わかっているとは思うけど、しっかりやってね。初日早々に病院とか嫌だから」



「わかってるって!そんじゃ全員掴まっていてよ!!」



そうして地面に激突する寸前、燐は瞬発的に体内温度を上げて身体能力を上昇させて全力で金属のお椀の底を殴り付ける。すると爆音と共に地面は爆ぜて少しの停滞を得て私たちが乗ったお椀は着陸した。



落下による衝撃が燐の打撃が相殺されて一気に減速し無事に着陸できた。まぁ、そのせいで地面は大きく陥没してしまったが。



「ふぃ〜〜…………。みんな無事?」



と燐は少し赤くなっている手をぱたぱたさせながらそう聞いてきた。というかこのお椀かなり硬い筈なのに拳型の窪みが出来てるってどゆこと?



「私は平気。あの2人は……………」



「「ーーーーーーー」」



はじめての衝撃だった為か葛葉と彩芽は泡を吹いて気絶している。当の私もいつもよりも大きかった爆音のせいで頭がクラクラする。



「……………まったく。来て早々ド派手な演出をしたねぇ君たち?」



と少し暗くなったかと思うと頭上から声が聞こえてきた。



見上げてみるとそこには顔色が悪そうな女性がお椀のふちに立っていた。



背は170くらいの猫背であり、髪は銀と黒の半々に別れた奇妙な色合いをしたボサボサのアシンメトリーヘアで瞳は感情が無さそうな黒い目をしている。服装は高そうな金縁の黒いドレスの様なスーツを着ており、その上から黒い羽根があしらわれた外套を羽織っている。



そして、頭から角の様な飾り羽根が生えており腰からは扇状に広がった長い尾羽が生えていた。



「まぁ、渚が地面を破壊しても問題ないと言っていた様だし、なによりこのじゃじゃ馬達と互角にやり合えるだけでも異能が強いんだろうねぇ………。ほら起きんかチビども」



と女性は疲れた様な声色でそう言うとお椀の縁から足をつけた状態での滑り台の様に滑ってきてそのまま気絶している2人の頭を蹴飛ばした。



スコンッという良い音と共に葛葉と彩芽は飛び起きて辺りを見渡す。そして、自分達を起こした人物に目が止まると一目散に逃げようとした。



「おやおや?なんで逃げようとしてるのかね〜?」



が、それよりも早く女性は2人の頭をがっしりと掴み逃げられない様にした。



「いやだってボス絶対書類押し付ける気でしょ!?そういう顔してるし!」



「書類整理は嫌じゃああああ!!!!」



「泣き言言ってもこれはペナルティだよ。2人揃って気絶したまま帰還したからねぇ?」



とぎゃあぎゃあ騒ぐ2人にボスと呼ばれた女性はニィィっと不気味な笑みを浮かべそう言った。



……………………なんなんだろうこの状況。



「……………ん?あぁ、自己紹介がまだだったね。ーー私は夜神(やがみ) 。ここ炎帝国軍近衛局治安部隊隊長でつまりは君たちの上司だ。宜しくねぇ、本条 小鈴に日暮 燐。私のことは気軽に"ボス"と呼びたまえ」



と夜神隊長はそう歪な笑みを浮かべたまま私と燐の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。



「ど、どうも……宜しくお願いします」



「…………よろしくお願いします」



あまり考えが読めない行動に困惑する私たち。



そして夜神隊長の手はそのまま流れる様に私の腰から生えている尻尾のほうへと行き…………



「………フシャーッ!!」



と文字通り目にも止まらぬ速さで私を抱き寄せて私の尻尾を自身の股の間に入れて髪も耳も尻尾も逆立てて夜神隊長に威嚇する燐。



あまりの行動に私を含めた全員が固まってしまった。夜神隊長も目を丸くしてきょとんっとした表情をして葛葉と彩芽はまるで魔王に立ち向かう勇者を見る様な戦慄とした表情を見せていた。



「……………え、えっと、燐?どうしたの急に」



「フゥゥゥ………ヴヴヴヴ………」



私が声を掛けても唸り声を出すだけで燐はなにも答えない。ただ、後ろから抱き締める力だけは強くなってきている。



……………熱いしちょっと苦しい。



「………………アハ、アッハハハハハハ!!そうかそうか!なるほどなるほど、そういうことか!アハハハハッ!!」



としばらく私と燐を見ていた夜神隊長は何か納得したのか急に大声で笑い出した。



「え、えっと………」



「いやはや、すまないねぇ。いい毛並みだったからつい触ろうとしたのだけど、相当お気に入り(・・・・・)なんだねぇ。もう許可無しに触れようとはしないよ。ほら、そろそろ移動しようか。職場に案内するよ」



と夜神隊長はのっそりと立ち上がると葛葉と彩芽の首根っこを掴んでそのままスタスタと行ってしまった。



「……………一体なんだったんだろ。ねぇ、燐。そろそろ離して?移動しなきゃいけないしさ」



「……………やだ」



私が離して欲しいとお願いすると燐は拒否して抱き締める力を強くした。燐は機嫌が悪くなるといつもこうなる。



まぁ、こうなったら宥めて機嫌が治るのを待つしかないんだけど。



3年経って私たちの身体は当然成長しており、私の場合、体格はそんなに変化していないが燐の場合はかなり肉付きが良くなっている。なんというか…………がたいがいいのに身体全体が柔らかい。



「いや、嫌じゃなくて。このままじゃ移動できないよ?」



「………わかった」



今回はすぐに機嫌が治ってくれたと安堵した瞬間、燐は私を横抱きつまりはお姫様抱っこしてお椀から出て、そのまま歩き出した。



「ちょ、ちょっと!なんでこれ!?下ろしてよ!」



「やだ」



恥ずかしさに叫ぶ私を無視して燐はやけにいい笑顔をしながら先を歩く夜神隊長のあとをついて行った。

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