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山岳の舗装されていない道を祖父が運転する大型の軍用車が駆け抜けている。かなりスピードがある為、乗り心地は最悪で少しの石で面白い様に飛ぶ。
「あばばばばばッ。や、ややっぱり、これ、慣れないぃぃぃぃッ」
と荷台で面白い様に飛び跳ねる葛葉はそう言う。同じく小柄な体型の彩芽も身体を丸めてピンポン玉みたいに跳ねている。
「そうかなぁ?こんなの戦場じゃ当たり前だよ?………ほらノワールだって平気だし」
「…………………」
アルジェントは足を組んで余裕といった感じでノワールはアルジェントの足元の影に潜っている。
そして私はというと……………
「き、きもち、わるいぃぃぃぃ……………」
「昨日飲み過ぎたからだよ。ほら、外に吐いちゃいなさい。楽になるから」
二日酔いと車酔いのダブルアタックにより顔を真っ青にしている燐を介抱している。
私?私は問題ない。だって朝はこれに備えてなにも食べてないから。
「おーい、お前たち!そろそろ着くぞ!」
と何故か平気そうにして助手席に座る玄角さんが私たちにそう声をかけて来た。
そう言われて窓から覗くと前方に山の中では不自然な建物が見えて来た。長い煙突らしき物が突き刺さっているだけのシンプルな建物だ。
………………………嫌な予感がする。
その形はまるで大砲の様な……………
「………………ねぇ。あれ大砲に見えるの私だけ?」
と私と同じことを思っただろう葛葉がそう言った。
「奇遇だねぇ。ボクもそう思ったよ」
「………………同意」
とアルジェントとノワールも同意した。
ちなみに燐と彩芽は地面に突っ伏したまま動かない。
「おーい、お前たち!早くこっち来い!」
と玄角さんがそう呼びながら祖父に続いて建物の中に入っていった。
私たちはしばらく顔を見合わせた後、2人の後をついて行った。
ちなみに未だに立ち直らない2人については放置するわけにはいかず、仕方なく私が燐を抱えて連れ出す。……………いや2人は無理だよ。流石に。
彩芽の方はパートナーの葛葉に背負ってもらう。
そうして中に入るとそこには人が1人入れる6つの巨大なボールとが置いてあり、そこには1人の女性がいた。
背は160くらいの青と灰色のメッシュの巻き毛の髪をしており、瞳は水色。厚手のパーカーに短パンといったこの辺りでは随分薄着をしており、腰からは光沢のある髪と同じ色の太い尻尾に頭にはちょこんと角みたいなものが生えている。
「どうも。私は炎帝国軍近衛局治安部隊副隊長の時雨 渚である。早速だが、全員アレに乗れ」
と時雨と名乗った軍人は巨大ボールを指差してそう言った。
………………………猛烈に嫌な予感がする。
現に………
「あーー…………私、歩いて帰るよ〜。じゃあね!」
と青い顔をした葛葉が背負っていた彩芽を放り投げて出口へとダッシュし出した。しかし、その唯一の出口は電撃の壁により塞がれていた。
「逃げても無駄だ葛葉」
「なんでぇ!?なんでよりにもよって大砲なの!?車で行けばいいじゃん!」
「隊長が速くするようにと言いましたので。手っ取り早く砲撃で送ることにした。そこの新人2人を除く全員は経験済みだろ?」
「だから嫌なんだよ!あ、待って入れないで嫌ぁぁぁ!?!?ーーーー」
駄々を捏ねる葛葉と大人しくしている彩芽を時雨さんはヒョイっと担ぐと例のボールに放り込んだ。アルジェントとノワールは2人と対象的に楽しそうな雰囲気を出しながら自ら入っていった。
「……さて、2人共。質問はあるか?」
「はい。…………あの、これってなんなんですか?」
と二日酔いから復活した燐が時雨さんに聞いた。
「これは長距離人材輸送砲といってあそこの球に人が入って打ち出して目的地上空で割れてそこから急降下する仕組みだ」
「パラシュートとかは?」
「そんなもの異能を使えば必要ないだろ。君たちの異能はそういった使い道もできるからな。……………一応これもテストだから気を引き締めてやれ。やらなければ地面の染みになるぞ」
「「…………………」」
なんと無茶苦茶な……と私は思ったが、他に手段は無さそうだし乗り込む事にした。幸いにも私と燐は鳥型ヴィランに掴まれて地上から1000メートル近いパラシュート無しバンジーを何度か経験済みだ。
ボールの中は意外と息苦しさは無かった。身体を丸くすれば案外いける。
「さぁ、いくぞ!!気を引き締めていけッ!!」
と時雨さんが全員が入ったのを確認すると壁の端末を操作し出した。すると鈍い駆動音と共に私たちが入ったボールが動き出した。
そして、
「発射ッ!!」
「いやぁぁぁぁぁーーーーー………………」
『ドパンッ!!』
はじめに最後までぐずっていた葛葉が打ち出された。続いてなにやら諦めた顔をして丸くなっている彩芽が打ち出された。
「ほんじゃ、みんな生きてたらまた会おうねぇ♪」
「………………グッドラック」
と最初の2人とは対象的に明るいアルジェントと親指立てて気合い入れた様な無表情のノワールが打ち出された。
そして最後は私たちの番になった。
「着陸の際の地面の損傷は気にしなくていいから自分の身を守る事だけを考えろ。いいな?」
「「り、了解……」」
そうして私たちも打ち出された。




