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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
銀狐と炎猫の出会い
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02

「はぁ……抜き打ちテストとか最悪。また宿題増やされる」



「そう言いながら小鈴、この前は免れてたじゃん」



「ギリギリね。点数微妙だったから家で怒られた」



「え、わざわざ親に見せてんの?」



「バッグ置いてたら勝手に開いて見られたの」



「うーわ、最悪」



「お姉ちゃんも冷めた顔で私のこと見てたし……あーあ、私ってあの家に居場所ないんだよ。消えて無くなりたい」



「口癖みたいに言うのやめなよ、それ」



「事実だからしょうがないよ。消えたいの、私」



「聞く人が聞いたら痛い子だからねぇ。というか死にたいとは思わないんだ」



「自覚はある。でも変えられない。それに死ぬのはなんだか怖い。だから消えたいと思う」



「そこまで言うならもう遺書でもしたためておきなよ。気が晴れるかもよ」



「…………いい案かもね。でも、そんなことして何の意味もないから」



「だったら肯定するな。ほんともったいないよねー、鈴は」



私の数少ない友達はそう言って、私の伸びた前髪を退ける。



「何してんの」



「いや小鈴は前髪整えて、ちょこっとさっぱりすれば超美人だよ?お姉さんとはまた違う美人さんでさ」



「お世辞はいい。だからやめろ」



「はいはい。わかったよ」



毎日のように鏡は見てるんだから、自分の顔のことぐらい自分が一番よく知ってる。



元が悪くては、どんなに頑張っても無意味だ。



いや、むしろ頑張れば頑張るほど、その結果が姉に届かなかったときの絶望は大きくなる。



知ってる。わかりきっている。



私はそのことを、よく知ってる。




***




私が住むこの世界の住民には必ず2種類の異能力を授かる。



1つは外見から見てわかる外見異能。



もう1つは超常的な能力の内面異能。



外見異能は俗に言う猫耳や犬耳といったものや完全にトカゲ人間といったものまである。



内面異能は一昔前では超能力と呼ばれた力でメジャーな所だとサイコキネシスやテレパシーでその種類は年々増えている。



どちらも持たないのが第1世代、外見異能のみが第2世代、両方を持つのが第3世代、そしてそれらに加えて更にとある能力(・・・・・)を持って生まれたのが第4世代である。



…………………一応、私もその第4世代である。



と言うのも私は内面異能が上手く使えない。使おうとも思わない(・・・・・・・・・)。だって、危険なんだから。



学校が終わり、帰路につく。



この間が、私にとって最も憂鬱な時間だ。金曜ともなるとなおさらに。



…………特別、学校が好きというわけじゃない。



部活だってしていない、やる気もない、万年帰宅部だ。



けれどそれ以上に、家という空間が苦痛すぎた。



あそこは、姉の居場所だ。



何をしたって褒められるのは姉で、私なんて彼女の踏み台にすぎない。



私の姉…………本条(ほんじょう) 美也子(みやこ)は頭脳明晰、文武両道の完璧人間だ。



容姿はそれこそ芯の入った完璧美人。それに加えて、外見異能により狐耳と尾を生やしているから更に拍車を掛けている。



内面異能は『物質変換』という触れた生物以外の物をその質量に見合った物に変換するという超レア物。



そして、第4世代である証の《魂武具(ソウルウェポン)》を持っている。



第4世代は10歳前後になると身体から武器が顕れる。それらが発現した第4世代は非常に強く、今では多くの警察や軍隊に引っ張りだこだ。



姉もいくつかの場所からスカウトが来ている。



完璧人間の姉を親が贔屓するのも当然だ。



親は私のことなんて褒めない。



物事は過程が大事とうそぶく悪い大人たちは、この事実からどうして目を背けるのだろうか。



そういう奴らに限って、平然とした顔でこう言うのだ。




『なぜもっと頑張らないんだ』




なら、お前たちはどうだったんだ?




『人のせいにするな』




都合のいいことだ。



過程が大事なら今の私は過去の過程で出来た。



お前たちは私の努力を褒めたことなんて一度もないくせに、どうして平気な顔をして、私が努力しないと決めつけて責めるのか。



お前たちは私の存在を褒めてくれたことなんて一度もないくせに、どうして、もっと自信を持てと白々しく言えるのか。



出来のいい姉が出来よく育ったのは自分たちのおかげで、出来の悪い妹が出来悪く育ったのは私のせいだというのか?



だから嫌いなんだ、私はあの空間が。そこに暮らす人間が。



私自身も大嫌いだ。




***




私は何も喋らずに家に入る。



リビングからテレビの音が聞こえてくるから、母がいるのだろう。最近、母はもうじき生まれてくる弟か妹を楽しみにしている。それは父も姉もそうだ。



私?もちろん嬉しいよ。だって、新しい命が生まれるんだから。



………………あそこに私の居場所はない。



「あら?帰ってたなら挨拶ぐらいしないよ」



リビングから出てきた母に気づかれた。



「……………ただいま」



私はそう言って2階の自室に戻る。



「あ、ちょっとーーーー」



母が何か言っていたが、無視する。どうせ小言かなんかだろう。聞いてるだけ無駄だ。



そうして部屋に入り、ベッドに倒れ込んでため息をつく。



「………………………」



私の部屋は机やクローゼット、ベッド、身だしなみ用の姿見などがあるだけだ。他は必要ない。年頃の女の子ならもっと部屋にこだわるだろうが、生憎私にはそんな趣味はない。



ふと私は昼間友達に言われたことを思い出して、鏡を見る。


ストレスにより白のメッシュが入った肩口まで伸びた黒髪、伸びた前髪から覗く金眼に、姉とよく似た顔をむすっとさせている。首には昔、姉が買ってくれた黒いチョーカーをしている。そして、私の外見異能である黒い狐耳で中から白い体毛が少しだけ顔を出す様に生えている。腰からはふわふわとしたラグビーボールの様な黒い尾が生えている。



これが私、本条 小鈴だ。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 黒いキツネ耳少女、良いですよね!
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