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血に塗れた銀狐が自身の幸せを見つけるまで  作者: 骸崎 ミウ
銀狐と炎猫の出会い
18/33

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あれはびっくりした……………。



まさか尻尾を枕にしたいって言い出すなんて思わなかった。いや、前から狙っていたのかな?



確かに私の尻尾はもふもふしていて枕にすれば寝心地はいいだろう。だけど、いざ枕にされるとなんだか落ち着かなくなる。



ビースト系の耳や尻尾には神経が集まっているから繊細且つ敏感な場所だ。更に言うと狐系にとって尻尾は性感帯である。



そんな家族どころか自分でも滅多に触らない部分を晒して枕にされて熟睡された。



………尻尾から感じる燐の体温は心地良かった。



微妙な力加減で締め付けられて、根元に当たる彼女の寝息に声が出そうになり、先程から変な気分になっている。



夕食の時なんて玄角さんに怪訝そうに理由を聞かれたが、私も燐も答えなかった。



そのままズルズルとなんとも言えない空気の中で私と燐は共に風呂に入っている。ちなみに言い出したのは燐だ。



最初は誰かと入るなんて抵抗があったが、ここに来てからずっとそうしているともう慣れてしまった。



この家の湯船は大柄な玄角さんでも足を伸ばして入れる様にとかなり大きめに作られている。ちょうど私たちが2人同時に入れるくらいだ。



「「……………………」」



無言になる私たち。



ふと私は隣の燐をちらっと見る。



普段は厚手の長袖に短パンと10分丈のスパッツとほとんど肌を見せないが、彼女の身体には明らかに訓練で付いたとは思えない古傷が多く刻まれていた。



何かを押し付けた様な火傷の跡や抉られた様な跡、細かい切り傷に打撲痕などが非常に痛々しい。おそらく、ここに来る前につけられた傷痕だろう。



あとは……服の上からではわかりづらいけど、燐はかなりの装甲を持っている。私のがりんごなら燐のはスイカだ。そして視線を下にやると"とある箇所"に目が行きーーーー。



「ーーーーん?どうしたの小鈴?」



と視線に気づいたのか燐は私の方を向いた。



「っ、なんでもない」



私は急に気恥ずかしくなり、視線を外した。



「ふーん………?そう」



燐はそう言ったまま、また静かになった。



「そういえば………、小鈴は私の身体見ても何にも言わなかったよね」



「………………傷痕のこと?それは聞かない方がいいと思ったからね」



「違う違う。そっちじゃなくて、こっち(・・・)



と燐は自分の下半身の"とある箇所"を指さした。



「それは…………外見異能のモデルでそういう動物がいて反映されることがあるって聞いていたからで」



「猫又は"両性"じゃないよ〜。これ(・・)は元からだってはじめに説明したでしょ」



「…………………」



そう……………燐にはあるのだ。その………アレが。最初こそは驚きはしたが、今は極力視界に入れない様にしている為、気にならない。



「まぁ、変に気を使われるのもアレだから、小鈴の反応はいいんだけどさ?………………まさか、見慣れてるとか」



「ば、馬鹿言わないでよ!燐のがはじめてだよ!もうッ!」



燐に変なことを言われて私は燐に背を向けて、湯船に身体を沈める。



「ごめんごめん。怒らないでよ小鈴〜」



燐はそう言って後ろから私に抱きついてきた。そうすると燐の巨大装甲の柔らかい感触が直に来てなんだかイラッと来る。



「暑苦しい」



私はそう言って引き剥がそうとするも、力では燐に勝てっこ無い。そうして私が諦めると燐は私を抱き抱える形となるのもお約束だ。



「…………ねぇ小鈴。私ね、小鈴が来るまでずっとひとりぼっちだったんだ」



と燐は急に私に語りかけてきた。



「急になに?」



「いいから聞いて。ここに来る前にいた孤児院でね理由は様々だけど色々とされてね。いじめやら懲罰やらで身体はこの有様だよ。んで、ここに来てからもその孤児院で受けた仕打ちのせいで他人が信用できなくてさ。よくゲンさんに当たり散らしていたよ」



それは玄角さんに聞いたことある。



昔の燐………というか保護されたばかりの燐はそれこそ警戒心剥き出しの猛獣そのものだったそうだ。その頃から異能を使いこなしていて、玄角さんも酷く手を焼いたそうだ。今ではそういったことは無くなったいるみたいだけど。



「ゲンさんに慣れてからは軍が私の力目当てでいろんな人を派遣してきてね。全員私とソリが合わなかったんだよ。なんというか、アイツらは私の事を人とは扱っていない孤児院の奴らと同じ目をしていたから」



「何十回も来ては去っての繰り返しの末に小鈴がやってきた。私が抱いた小鈴の第一印象は自分が壊れた事に気づいてない手負いの獣の子だったかな。小鈴はどう?私の第一印象は」



と燐はそこで言葉を切り、私に聞いてきた。



「……………私は、太陽みたいで私とは正反対だなって思った」



「そう?なら私は小鈴を捉えていた影を取り払ったわけだね〜」



「なんでそんな事言うのさ」



「あははっ、でもそうなんじゃない?」



まぁ、確かに実際そうだった。燐が私の心に渦巻いていた闇を取り払って引っ張り出してくれた。



「まぁ、私はそんな小鈴がほっとけなくてね。お陰でこうやって一緒に過ごすことができているわけさ。小鈴は今までの奴らとは全然違うし、それに側にいるとなんだか落ち着くんだ。これって相性がいいって事かな?」



「それはわからない。ただ、私も燐と一緒にいるのがいい」



私がそう言い返すと燐は目を丸くして、そのまま笑顔になり抱きしめる強さを強めた。



「ありがとう小鈴。そう言ってくれて嬉しいよ」



「こっちこそ。……………ねぇ燐。私のも聞いてくれる?」



「もちろんだよ。……まぁ、ここだとのぼせちゃうから風呂上がってからだね」



そうして私たちは長風呂から上がった。




***




風呂から上がり、身支度を整えた私たちは縁側へと移動した。



季節的に秋に近づいている為、夜は少し冷える。けれど、湯上がりには丁度いい冷たさだ。



「……私ね、ずっと褒められたかったんだ」



縁側に座り、私は独り言の様に話し始める。



「私はお世辞にも要領がいいって訳じゃなくてね。いつもお姉ちゃんと比べられてきたんだ。お姉ちゃんは誰からどう見ても完璧超人でなにをしてもお姉ちゃんに勝てなかった」



私が話している間、燐は黙って側で聞いてくれている。



「親がそんなお姉ちゃんを贔屓するのも当然で私なんかには興味の欠片すら無くなって、そのくせ私にお姉ちゃんと同じくらいの結果を出す様に要求してきたんだよ。おかしいと思わない?人それぞれ違うって言うのにさ?」



「確かにそうだね。人にはそれぞれ得意不得意があるからね」



「でしょ?物事は過程が大事って言うけど、両親は私を褒めた事なんて一度も無かった。それどころか"なぜもっと頑張らないんだ"とか言うんだよ。二人の口癖はいつも『お姉ちゃんはあんなにすごいのに』でそこから『どうしてこんなにひねくれてしまったんだ』って続くの」



あの頃のことは今でも夢に出てくる。両親の冷めた視線が怖かった。



「そんな環境でどうやってまっすぐ育てばいいんだって私は逆に聞きたかった。私をちゃんと見てってちゃんと褒めてって何度も何度も心の中で思った。…………………多分、そこからだね、私が壊れていったのは。そして、異能が暴走し出したのもその頃だった」



「…………暴走?」



「そう、暴走。……燐はあるかな?自分の中にもう1人の自分が現れて這い出てこようとする事。私はね、そんな感覚を毎日味わっていたんだ。自分が自分ではない別の何かに変わって、暴れ出しそうなそんな感覚を。……………今も私の中に居るんだよ。私はそれを"獣"って呼んでいるの」



「………………」



燐は私が話したことに何やら思い当たる節がある様だった。



「"獣"が出てきたら私は家族を傷つけちゃう。……私は家族が嫌いだけど大切な存在だって最近わかったんだ。矛盾しているけど、私にとって家族はそういうの。だから、私は異能を抑え込んだ。家族に危害が出ない様にして、毎日制御出来る様に特訓した。お陰で私の髪や尻尾は白くなっちゃったんだよ」



「え、小鈴って元からその色じゃなかったの?」



「そうだよ。元々は真っ黒でこの右手も普通の右手だったんだ。……………見たかったね?」



「ん〜〜…………見たいと言えば見たいし、見なくないと言えば見たくないかな?」



「なにそれ。…………まぁ、そんな毎日が続いたお陰で家族とも冷め切った関係になっちゃったんだ。1人で居心地がいいって言う自分も居れば寂しいって言う自分もいたんだ。それが積りに積もって、私の《魂武具(ソウルウェポン)》の鎖や杭みたいにしちゃったんだよ。…………そして、あの日でついに私は完全に壊れちゃったんだ」



今まで鮮明に思い出せる"あの日"のこと。



目の前には血塗れでその綺麗な顔を恐怖で歪めて手に無骨な剣を握りしめる姉、私の胸から感じる焼ける様な痛み、全部思い出せる。



「私はお姉ちゃんを守る為に力を解放した。いや、守る為なんてそんな綺麗な理由じゃないね。………………私は認めてもらいたかったんだ。化け物になった私を認めてもらいたかったんだ。そういう理由でお姉ちゃんを助けたけど、拒絶されちゃった。あの状況を客観的に見れば、お姉ちゃんの行動は別に責めるものじゃない。だから、私はお姉ちゃんを恨まないし憎まない。お姉ちゃんは"私"という脅威から自分の身を守っただけなんだから。



その日から他人と深く関わるのは怖くなった。拒絶されたら、自分を否定されたら怖いって感じでね。………………あとは燐が知る通りだよ。どうかな?燐のに比べたら大したことじゃないけど」



私はそこで話を終わらせた。すると燐は私を抱き抱えて膝に乗せた。



「な、なにさ急に」



「話してくれてありがと。これでようやく小鈴のことが知れた」



「………………私だってそうだよ。ところでなんで話そうと思ったの?」



「ん〜………なんとなく?小鈴は?」



「私もそうだよ。燐には話してもいいかなって思ったんだ」



「なにそれ〜、あははっ」



そうして私たちは笑い合い、共に眠くなるまで話をした。



ーーーーそれからというもの、お互いのことを話したことがきっかけとなり、私と燐は共に気が置ける大切なパートナーとなった。



連携も良くなり、楽しい日々を過ごした。




そして、私が燐とはじめて出会ってから3年が経過した。

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