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どうも私は本条 小鈴。
最近第5世代に覚醒して、祖父の直属の軍人候補になった者です。先日、パートナーの燐とドンパチやって色々と吹っ切れました。お陰で私の心は軽くなり、燐ともいい関係になりそうです。
………燐と玄角さんは私のことを歓迎してくれた。それが何よりも嬉しかった。
「小鈴ッ!走って走ってッ!早くしないと捕まるよ!」
「わ、わかってる!わかってるけどッ」
そして現在、私と燐は森の中を走っています。原因は……………。
「ゴラァ!!待てやガキ共がァ!!!」
「「ヒィィィ!?!?」」
鬼の形相で木々を薙ぎ倒しながら迫り来る玄角さんから逃げているからです。
どうしてこうなった…………。
ーーーー時は少し遡りーーー
私がこの家にやって来て、ひと月が経った。
鶏の声で目を覚まして、朝食を作り、燐と一緒に特訓してたまに雑魚ヴィランを倒していく毎日。
ヴィランとはここ数十年で確認される様になった敵性生命体で一昔前の映画に出てくるエイリアンみたいな見た目をしている。
生態などわからない部分が多く、死骸を調べようにも死ぬと原型を留めず水の様になるから調べようがない。ただ、わかっていることが1つ。ヴィランは私たち人間を視認すると襲い掛かってくるということだ。
まぁ、そんなこんなで比較的、のんびりとした生活を送っているわけだ。
………………いや、のんびりか?
今日も畑で取れた野菜を洗い、台所へと持っていくと燐が蹲って何かしていた。
「………………燐」
「うぉ!?…………びっくりしたぁ。脅かさないでよ小鈴」
「今度はなにしてるの?」
私は少し不安になりながら聞いた。
このひと月で私が学んだ事は燐は行動力が強い問題児であること。
思い至ったら吉日と言わんばかりに実行する。子供の悪戯で済むものから始まり、下手すると大怪我するものまで種類は様々。
……………それに巻き込まれたせいで私は何度も気を失った。
故に私は警戒する。
「なにって……………食べてるだけ」
「昼ならさっき食べたでしょ」
「………小鈴。私の異能はタンパク質などエネルギーを消費しなきゃ発動できないんだよ。だから万が一に備えてこうやって食べてなきゃ」
「いや、それはわかるけど………。というか、その異能用にカ○リーメイト支給されてるよね?」
燐の異能である『熱を発生させて身体能力を強化する異能』は身体内部のエネルギーを消費して熱を発生させる。このエネルギーは生きていく分とは別腹らしく、貯蔵は無限大。しかも燐はその異能ゆえか食べても食べても太らないそうだ。
………………羨ましい。
「あれ美味しくないの!もそもそしてるし、口の中パッサパサになるんだよ!そんなんだったらこっちがいい!」
そう言って燐が私に突き出してきたのはどら焼きだった。
「ちょっとそれ、玄角さんが絶対食べるなって言っていたやつじゃない!?どうするの!?」
「別にいいよいいよ。ほら小鈴もお食べ〜」
「いや食べないよッむぐ」
私はこれから起こるだろう未来を想像して、退散しようとしたが、それよりも早く燐にどら焼きを口にぶち込まれた。
「どう?美味しいでしょ〜♪」
「…………確かに美味しいけどって、どうしよう!食べちゃった!?」
「まぁまぁ、そんな慌てなさんな。ほれ、証拠が無くなればゲンさんもなにも言えなくなるでしょ?」
燐はそう言ってニマニマと笑って、どら焼きを差し出した。
………………………………………………………。
「確かにそうだね。よし食べよう」
私は燐の提案に乗り、どら焼きを受け取った。別にどら焼きの誘惑に負けたわけではない。そう負けたわけではない。あくまで証拠隠滅の為なのだ。うん。
そうして私は燐の隣にしゃがみ込んでどら焼きにパクつく。
「おー……、尻尾がもふもふになってる。触ってもいい?」
「駄目」
「むー、ケチ」
そうして私たちはどら焼きを食べていく。久しぶりの甘味に自然と尻尾がぱふぱふとなる。
………………………と、急に辺りが暗くなった。
そして…………。
「おいお前ら、いったいなにしてやがるだぁ?」
ドスの効いた声が頭上から降ってきた。
「「……………………」」
私たちは反射的に息を潜めた。出来るだけ身を小さくして圧倒的強者から逃れる様に…………
「その菓子、俺が絶対に食うなって言ったやつだよな?なんでそれを食ってんだ駄猫に子狐?」
がっしりと頭を掴まれてそのまま持ち上げられた。そしてそこには子供が見たら確実に泣き出すだろう凶悪な笑顔を浮かべた玄角さんがいた。
「ーーーーキュ」
あまりの凶悪さに思わず喉から変な声が出た。一方で燐は慣れているのかどら焼きを食べる手を止めない。
「え、えっと、ご、ごめんなさ『猫騙しッ!!』ヒギャッ!?」
素直に謝ろうとした瞬間、燐は両手を勢いよく叩き閃光を発生させた。その閃光に玄角さんは怯んで手を離したことで私たちは解放された。
「逃げるよ小鈴ッ!!」
「えっ、ちょっとぉ!?」
燐に手を引かれ、私たちは玄角さんから逃げることになった。




