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〜side日暮 燐〜
小鈴ちゃんは泣き疲れて寝てしまった。
とりあえずは成功といったところかな?
小鈴ちゃんが自分を押し殺す様になった原因は家族の過度な期待に応えるため。なまじ姉が優秀だったから小鈴ちゃんの両親も小鈴ちゃんに期待した。いや、期待し過ぎた。
結果、本来なら必要であるガス抜きや甘えが出来ずに成長してしまい、今の小鈴ちゃんとなった。
第5世代は"普通"に生活していれば能力は覚醒せずにただ強い第4世代として過ごすことができる。だけど、精神的又は肉体的苦痛が長期にわたって感じると"覚醒"する。
私の場合は後者。あの孤児院は酷かったからなぁ。鞭打ち平手打ちは当たり前で酷い時は熱い鉄を押し付けられたし。
「おーい!無事かー!」
とゲンさんがこっちに走って来ているが見えた。
「大丈夫ー!ちょっと動けないだけだよー」
小鈴ちゃんが抱きついて寝ているということもあるけど、さっきの模擬戦?でオーバーヒートしちゃっているからねぇ。湖の水で幾分か冷めたけど、まだ本調子じゃないし。
と近くの茂みが揺れて、現れたのは服を着たヒグマ……じゃなかったゲンさんだった。
「しっかし、随分デカかったなぁ。お前の爆弾か?」
「いや、小鈴ちゃんがあの辺りに金属粉をばら撒いて、それが粉塵爆発を起こしたの。この子、捨て身の特攻仕掛けて来てヒヤヒヤしたよ」
「マジか…………んで?今はどんな状況だ?」
「私は異能の出力誤ってオーバーヒート。小鈴ちゃんは泣き疲れて寝ちゃった。心の枷は外れたみたいだし、あとはこの子次第だよ」
「そうか………だとよ龍善」
とゲンさんが言うと本条爺ちゃんが遅れてやって来た。
「ちょっと本条爺ちゃん。爺ちゃんの家系ってみんなこんな感じなの?嫌なこと溜めに溜め込んで暴発するってさぁ。もうちょっと考えを改めたら?」
私は本条爺ちゃんに文句を言った。今回の件は以前から小鈴ちゃんに心の膿の捌け口を設けていれば、起きなかったことである。
「こればかりは血筋じゃからのぉ…………。気難しい気質の者が多いんじゃ。…………しかし、小鈴の場合はそれが謙虚に出てしまった。儂も気づいた時にはもう既に押し込めてしまっておった。………………ありがとう燐。小鈴の枷を外してくれて」
「別に私がやりたかったからやったまでだよ」
「それで燐。彼女はお前のお眼鏡に適ったか?」
とゲンさんは私にそう聞いて来た。
………………わかってる癖に。
「気に入っていなければ、こんなことはしないよ。相性に関してはそれは追々だね」
私は別に小鈴ちゃんがパートナーでいいと思う。理由は私の直感だ。
「そうかそうか!なら、今日は歓迎も兼ねて牡丹鍋だ!」
「おぉ!マジで!よっしゃ、早く帰ろう!ほら、小鈴ちゃん!起きて起きて!」
寝ている小鈴ちゃんには悪いけど、イノシシはそんな頻繁に食べれないから早く食べたかった。
「ーーーーぅにゅ?…………あれ、わたし、寝てた?」
と眠りが浅かったのか小鈴ちゃんはすぐに起きた。尻尾をゆらゆらと揺らしてぼんやりと寝ぼけ眼の小鈴ちゃんは本来の歳よりも幼く見えた。
「よし起きた!さぁ、小鈴ちゃん!……私動けないから運んで?」
「運ぶ?……………異能の副作用?」
「そう!野郎に運ばれるのはなんかやだからお願い!」
「…………わかった」
小鈴ちゃんはそう言って、私を背負って運んだ。器用に9本の尾で私を包んで落ちない様にしてくれている。
「よし、それじゃあついて来いよ」
そうしてゲンさんを先頭に私たちは歩き出した。
その道中……………
「ーーーー日暮さん」
と小鈴ちゃんは私を呼んだ。
「なぁに?」
「………ありがとう。褒めてくれて」
「別に大したことじゃないよ。私はただ、自分がやりたいと思ってやったことだから」
「それでもだよ。普通は見ず知らずの人に出来ることじゃない」
「ふーん。でも、もう見ず知らずの人同士じゃないでしょ?これから一緒に住むんだし、パートナーとしてもお互い協力し合うんだから」
「わかったよ。…………その、これからよろしく日暮さん」
「燐でいいよ。私も小鈴って呼ぶから」
「………ん、わかったよ燐」
「それで良し!これからよろしくね!小鈴」
こうして私は後に一生を共に過ごすことになる無二の存在のパートナーをこの瞬間、見つけた。
 




