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……………どうしてこうなった。
「さーて、張り切っていこう!」
目の前には動きやすい服を着て、テンション高めな日暮さん。手には馬鹿でかいチェンソーが唸りを上げている。
かと言う私も動きやすい服を着て、《魂武具》の大鎌を構えている。
ちらっと後ろを見るとのんびりとお茶を飲む大人2人。
私は密かにため息をついた。
ことの始まりは祖父が一度模擬戦をしたからどうかという申し出だった。私は拒否したが、向こう側は非常に乗り気でそのまま流される勢いで始まってしまった。
そりゃあ、パートナーの相性とかあるからお互いの実力を確かめなければいけない。けれど、それは今でなくてもいい気がする。
「小鈴ちゃん、元気ないねぇ。乗り気じゃないの?」
「…………あまりこういうのは好きではありません」
実際、人を傷つけるのは素の状態だと抵抗がある。
「でもまぁ、これから先はそんなこと言っている暇ないよ?私たち、一応軍人の卵だし」
「それはわかっています。けど………ッうお!?」
私が話している最中に日暮さんは切りかかってきて、私は慌てて大鎌で受け止めた。既にチェンソーは起動していて、火花を散らしながら鍔迫り合いをしている状態だ。
「けどじゃない。そうやってのらりくらり避けていたら、守るべきものも守れないよ。貴女、お姉さんを守る為にその力を使ったんでしょ?その力、今は自分を守る為に使いなさい。でないと……………マジでやばい怪我するよッ!!」
「ッ!?」
日暮さんは鍔迫り合いの状態から私の腹に蹴りを入れて、吹き飛ばす。吹き飛ばされて体制を立て直したその直後、私の中の直感が"やばい"と言った為、慌てて尾に鉄粉を纏わせてそれに包まる様に防御態勢を取った。
すると、微かな血臭がしたかと思うと熱量を持った爆発が起きた。鉄の衣を纏っていてもかなりキツかった。
「おー、やっぱり耐えたか。異能の鍛錬とかはほぼ毎日やっていたみたいだねぇ。すんごくスムーズだよ」
尾の隙間から覗くと赤い液体の入った瓶を数個持った日暮さんがいた。おそらくはあの瓶の中身は彼女の血液。それを異能で常温の空気に触れたら爆発する液体にでも変えたのだろう。
「いつまでそうやって殻に閉じこもる気?私は貴女に攻撃してるの。だったら、やり返しなさいよ」
「…………………」
「……………ダンマリか。…………… 」
「……………?」
何やら日暮さんはぶつぶつと言い出した。そして、
「貴女、実の姉に殺されかけたってね?聞くところによると姉を守ろうとしてそれを仇で返されたらしいじゃない。黙った貴女もアレだけど、それで助けてもらった恩人を殺そうとするなんてとんだ屑ッニギャッ!?」
「お姉ちゃんを悪く言うなッ!!」
私はカッとなって日暮さんを斬りつけた。
「別に悪くは言ってないよ。私は客観的にものを言っただけだよー。……………私の発言を否定したかったら全力で来な」
とさっきまでのひゅうひゅうとした雰囲気が一変し、荒々しい猛獣の様な気配へと変わった。
「……………………後悔しないでよ」
私はこの時はじめて目の前の彼女を"敵"と見定めた。
***
〜side日暮 燐〜
小鈴ちゃんの雰囲気が変わった。
はじめて小鈴ちゃんを直で見た時、彼女はなんというか感情を抑え込んで、壊れてしまった自分自身を隠してしまっていることがはっきりわかった。
しかも、タチが悪い事に自分自身が壊れていると理解していない様子だった。
自身を殺して殺して、自分の手が血塗れになっても手を止めず、もう自力で戻れなくなってしまい、ぼろぼろになってしまった心に最後の追い討ちで守ろうとした人に殺されかけて壊れてしまった手負いの獣の子供に見えた。
故に彼女の金色の瞳には感情がこもっていなかった。
元々、この模擬戦は私からの提案だ。実力を確かめるというのもあるけど、こういう子は外から叩き出すのが1番だと思った。
だから私は小鈴ちゃんを追い詰めて、煽ってみた。家族を守ろうとしたという事は、彼女にとって"家族"は大切なものだと思い、手始めに姉について煽ってみたら見事大当たり。
さっきまで燻んでほとんど感情が感じられなかった彼女の瞳は縦に収縮して殺気だった。そして、気配も真冬の夜の様なゾッとする気配となった。
さて、第一段階は終了。
これからが本番だ。




