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未来は時計塔が知っている  作者: チカガミ
1章 夏の記憶【時雨レイ メイン】
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【1-8】ユマside

「作戦を無視して退避したと聞いたが」

「……申し訳ございません」


 煙草をふかしながら、神霧(かんむ)校長は私を見る。半ば八つ当たり気味に投げ渡された書類には謹慎命令と書かれていた。

 

「全く、お前のせいでこちらは大変だったんだぞ。これで学園の名に傷が付いたらどうするんだ」

「……」


 ため息をつきながら、灰皿に煙草を押し付ける。どかりと椅子に座り、不機嫌そうに私を手で払う。

 私は無表情のまま頭を下げて校長室を出る。すると目の前には緒鉢(おばち)がいた。


「緒鉢……」

「大丈夫ですか」

「ええ大丈夫よ」


 そう言うが彼の表情は変わらない。

 私よりも一つ学年が上だと言うのに、敬語で目上の様に接してくる彼は、いつも以上に気をかけて接してきた。

 

「緒鉢。申し訳ないのだけど、明日から一週間私は学校を休むわね」

「それって……」

「まあ、貴方なら察してると思うけど」


 緒鉢は校長室の扉を睨む。

 とはいえ、命令を無視したのは事実なのだから、仕方ないといえば仕方ないのだが。

 小さく息を吐いて、廊下を歩き始める。その後ろを緒鉢が付いてくる。


「でも流石に謹慎だなんて……」

「罪が重いと? いえ、これで十分よ。寧ろ反省文だけでは軽すぎる」

「……あの」

「何?」

「あの時、何故。あんな事を仰ったのですか?」

「何の事?」

「ウィーク学園の生徒を撃とうとした時です。お言葉ですが、何故あの青年を庇ったのですか?」

「……」


 緒鉢の目は真っ直ぐだった。だから尚更答え難い。戦場に私情は持ち込まない。それを常に言ってきたというのに。


「ごめんなさいね。私情を持ち込んでしまって」

「いえ。俺こそ出過ぎた真似をしてしまい申し訳ございません」


 情けないな。そう思いながら頭を押さえる。頭痛を感じくしゃりと前髪を掴みながら、目を閉じる。

 その様子を見ていた緒鉢は、着ていた上着を私の肩にかけてくる。


「だいぶお疲れのようですし、今日は早退したらいかがですか?」

「そうね。そうする」


 背中を押されて自分の教室に戻る。

 神霧学園は生徒数が少なく、それ故に教室も少ない分情報が回るのも早い。故に人々の視線の痛さに必死に気づかぬ振りをした。

 が、それでもやはり陰口は聞こえてしまう。


「作戦失敗したのに、リーダーの座は降りないのね」

「そりゃそうよ。だって霧嶋(きりしま)派閥の娘だもの。きっと贔屓(ひいき)されているんだわ」

「そういえば、事故の時も贔屓されていたんでしょう?」


 事故。それを聞いて立ち止まる。同時に緒鉢が拳銃を手にすると、一発天井に向けて放った。


「神霧学園の生徒たるもの、陰口を言う暇があるならば力を磨いてはどうだ」

「っ、やば……」

「行こう……」


 生徒達が離れていく。無意識に耳を防いでいた手を緒鉢は優しく触れて「大丈夫ですよ」と囁いた。


「貴方は俺が守ります」

「……う、ん」


 フラッシュバックを起こしかけ、過呼吸になりそうになりつつも、ゆっくりと息を整える。

 あんな陰口、普段ならば気にせずにいられるのに、今ははっきりと聞こえてしまう。

 これじゃダメだ。ダメなのに。そう自分に言いかけ続けるが、それ以上に嫌悪と恐怖がごちゃ混ぜになって押しつぶされていく。

 そうして耐えているのも辛くなって、身体が拒否反応を起こすと、口を押さえてその場から逃げ出した。

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