【1-5】ユマside
ウィークの海は綺麗だった。
水面がキラキラしていて、潮風が肌を撫でていく。
海を見渡せる場所にあった、赤煉瓦の建物が並ぶ聖園とウィークを結ぶ鉄道には、いくつもの蒸気機関車や見た事のない豪華な客車があった。
『ウィーク領域は楽しかったかい?』
『うん、楽しかった』
『そうか。そりゃよかった』
『………うん』
膝を曲げ、視線を合わせながらお父さんの弟で、運転手のおじさんは笑う。でも、何となく。何となくだが。おじさんは辛そうな表情をしていた。
※※※
「大丈夫ですか? ユマ様」
「……私」
「倒れられたのです。帰る時に……その」
「……うん、分かってる」
起き上がり、息を吐く。悪夢にうなされたのか、髪は汗に濡れ頭が妙に痛かった。
「念の為、医者には診てもらいました。疲れとストレスだろうと」
「………」
「ユマ様。その、ご無理をなさらないでくださいね?」
「無理? 大丈夫よ、してないわ。でも今日は疲れちゃった」
「喉が渇いちゃった」と呟けばエビノが頷き、部屋を出る。
一人になると、不意に頬を涙が伝う。そして次に胸を覆ったのは怒りと悲しみだった。
「何も知らない癖に」
それが誰に向けられた言葉か自分でもよく分からない。けれども、少なくともこの場にいない誰かに対してだった。布団を引き裂かんばかりに握りしめ、唇を噛みしめる。
「ゆるさない」
そう呟くと、パリンと棚に飾っていた花瓶が割れる。電気が消え、椅子が倒れた。