【1-3】ユマside
場所は変わって———。
ウィーク領域の中心街にある大きなホールの控え室。そこで今夜出場する女性の歌手達がそれぞれ打ち合わせやおめかしなどをしている中。
「………」
私は奥の席である写真を見つめていた。
まだ幼い自分。そしてそれを囲む様に写る両親の姿。だがその写真はずっと持ち歩いていたせいかぼろぼろになっていた。
「ユマ様」
「! ……何かしら、エビノ」
「いえ」
メイド兼マネージャーのエビノは、じっと私の手に持っている写真を見つめる。その表情は複雑そうだった。
「あの。神霧校長からの連絡です」
「校長が? ライブ前に一体何なの?」
嫌々ながら渡された携帯を受け取る。
周りに迷惑をかけないようにと、控え室から出て少し離れた搬入口付近に移ると、渋々電話に出た。
『大事な時にすまないね』
「……いえ。ご用件は」
『先程密偵からウィーク学園が聖園側についたんじゃないかと言う連絡をうけてね。ほら、今夜同じ会場にいるだろう? 九恵サナが』
「ハァ……」
ため息が出てしまった。要するに九恵サナから情報を引き出せというだろう。聞かなくても分かる。
『情報は早く得た方がいいだろう?』
「わかりました。ですが、あくまでも聖園側についたという情報が正確でない限り、九恵サナから引き出せる可能性は極めて低いです。その情報の出処を明確にお願いします」
『あぁ……そうか。ならいい』
「………」
面倒そうに言われる。それだけでもイラっときてしまったが、平常を装って返した。
「では、時間なので切ります」
『ああ』
半分乱雑に切った後、ため息を吐き重い足取りで控え室に戻る。するとその途中でばったりとあの女に会った。
「あ……ユマさん」
「九恵、サナさん」
何とか気持ちを切り替え無理やり笑みを作ると、察せられないようにお辞儀をして、そばを通り過ぎる。そしたう
そのまま振り向かずに逃げるように去った後、控え室に入るとエビノが待っていた。
少し乱れた衣装や髪を整えると、タイミングよくスタッフに呼ばれる。
「いってらっしゃいませ。ユマ様」
「……ええ」
背筋を伸ばし、スタッフについていく。向かう先に聞こえる観客の声援を聞きながら、私は『偽りの笑顔』を作ってステージに飛び出した。