小さな旅の同行者
誤字、脱字等ありましたらご報告していただけると幸いです。
白蜥蜴が目覚めてから数時間後
「う〜ん」
何故か顔の付近にピリピリとした物を感じて目を覚ます翠。
まだ頭は完全に覚醒してないが目の前には白い物体が浮かんでいる。
「幽霊っ!」
慌てて起き上がるとその白い物体と額がぶつかって目から星を飛ばす。
「痛った〜〜〜い!!!!!!」
余りの痛さに思わず声を上げる。
どうやら白い物体に額を打ち付けたようだ。
寝起きで頭が働いて居なかったのでしっかり確認は出来ていなかったがどうやら翠の顔の上を飛んでいたのは昨日キメラアントから回収した白蜥蜴だったようだ。
「蜥蜴って空飛べたかな?」
過去の知識の中からそんな事を思案するも思い当たる事は無かった。
とは言って目の前に居る白蜥蜴は浮いており何やら帯電しているかのようで手を近付けようとするとピリピリするのだ。
「寝ている時はこんな事は無かったんだけどな」
確かに昨日は普通に触る事が出来たのだ。
「目を覚ますと発動するスキルでもあるのかな?」
翠は更に思案するも図鑑にも載っておらずまたこの異世界に来てから特に幅広く活動した事もなく魔物に詳しい訳ではない。
この異世界への知識が乏しい為、目の前に居る白蜥蜴については全く分からない状態であった。
これ以上考えても答えは出ない。
また山へ向かってから帰るまでの期限もお父様と約束しており決まっている。
こんな所でいつまでも時間を浪費している訳にはいかないのだった。
取り敢えずテントから外に出てテントや寝袋をマジックバッグに収納する。
そして目の前の山の中に入っていく前に今後の事について考える必要があるのだ。
主に目の前に浮かんでいる白蜥蜴について。
白蜥蜴は眼を覚まして居るが、触る事が出来ない(触れ無くはないがかなり痛い)為、これから山の中に入っていくにしてもどうにかしないといけないのも事実。
飛んだまま付いてくるなら問題はないが、近付かれるとかなり痛いのだ。
魔物に言葉が通じるなどとは思わなかったが
一応白蜥蜴に聞いてみる事にする。
「白蜥蜴さん、私はこれから山の中に入るつもりなの。白蜥蜴さんは身体の周りに何かピリピリする物を纏っているようだし、私はこのままでは白蜥蜴さんを連れて行く事が出来ないの。幸い眼を覚ましたみたいだし元気そうだから自由に何処かに行ってもいいのよ?」
「ガァッ?」
白蜥蜴は一鳴きすると身体の周りを纏っていたピリピリする物を消しさった。
これでいい?とでも聞いてるように翠の前で再び一鳴きする。
「言葉通じてる?白蜥蜴さんはこれからどうするの?」
翠は言葉は通じているという仮定を元に再度問い掛ける。
「ガアッ、ガガッ、ガアッ」
白蜥蜴は翠の頭上を一周した後翠の肩に止まったのだった。
白蜥蜴は身体も大きいわけではなくカラス程度の大きさである。
特別重いわけではないので取り敢えず翠は付いてくるつもりなのだと思い肩に乗せたまま山に向かって足を踏み入れて行くのだった。
山の中に入り探索しながら山を登っていく翠。
肩の上に乗っている白蜥蜴は特に暴れる事もなく大人しくしている。
翠も肩の上で大人しくしている上に身体からピリピリしている物も発していない以上特に気にする事もなく図鑑を手に持ち山の探索を続けながら頂上を目指し山を登って行く。
山自体は特別高いわけでもないので、今日中には頂上に着けそうではあったが、山の中を探索しつつ素材を採取するのが本来の目的なので自然と頂上へ向かう足取りはゆっくりした物になっているのだった。
山の頂上へ向かいながら珍しいキノコや草花を採取していく翠。
途中魔物に出会す事もあったが、魔物は翠の肩に乗っている白い蜥蜴を見ると慌てて逃げ出していくのだった。
『なんでだろ』
それが翠の正直な感想
白い蜥蜴は魔物に出会した所で特に反応する事もなかったのだが。
順調に素材を採取しつつ山への中を進んでいると
翠は後ろから何かが付いてきている様な気配を感じる。
「何か着いてきているのかな?」
気配を感じ振り返るも何も見当たらないし肩の上にいる白蜥蜴も気にした様子はみせてはいない。
白蜥蜴に何かついてきてる?と視線を向ける
「ガアッ?」
どうしたの?とでもいった様な感じで全く警戒した素振りもなくリラックスしている。
「白蜥蜴さんも警戒していないし気のせいかな?」
翠は気にはなるもののもし本当に危険が迫っているなら肩の上にいる白蜥蜴が何らかの反応を示すだろうと思いそのまま進む振りをして前を向き一歩進む様に見せかけて急に後ろを振り返る。
翠からはそれなりに距離は離れては居るが
道の真ん中辺りに不自然に置かれた青い美味しそうなゼリーの姿があったのだった。
「スライム?」
翠は先程感じた気配がスライムだったのかと納得する。
魔物として戦う事になっても自分が苦戦する事はないと判断してそのまま放置していても問題ないと
再び頂上を目指し進んで行くのであった。
その後も翠は山の中を探索し素材を採取していく。
図鑑は本当に便利であった
心の中でお父様に感謝する。
『お父様ありがとう』と
時には木陰に隠れ森には居なかった魔物の素材をスキルを使い収集していく。石を投げるのも忘れずに。
肩の上の白蜥蜴のせいか魔物が翠達を避けていたのかは分からないが余り魔物に出会す事もなく頂上まで後少しの所で日も落ち出した為、本日の探索は終了し早目に野営の準備を始めるのだった。
テントの横で魔物の除けの魔道具を設置した後
鹿に似た魔物から採取した脚の一部をマジックポーチから取り出し、短剣で捌き串に刺して焼いていく。
焼き上がってくると肉の香ばしい匂いが鼻に付いてくる。
翠は食べ物について特にこだわりが無かった為、特に味付けをする事なく素焼きのままかじりつく。
味は焼いたお肉その物だった。特に変な臭いがするわけではなくまんま焼いた肉である。少し味付けした方が良かったかなと思うものも不味いわけではなかったのでそのまま食べ続けていたのであった。
翠の横では自分の分は?と視線で訴えかけている
様に見える白蜥蜴に
「食べる?」
と声を掛けると
「ガアッ!」と嬉しそうに鳴くので焼けた肉を串から外し白蜥蜴の口元に持っていってやると美味しそうに食べるのであった。
翠は身体も小さい事もあり今は小食なのだが
白蜥蜴はその後も食べ続けた為、白蜥蜴の為にマジックポーチから追加で鹿の脚を取り出しては捌いて焼くという作業を数回繰り返し白蜥蜴に肉を与えていく。
どうやら白蜥蜴も満足した様に見えたので後片付けをして寝る準備に入るのだった。
テントに入ると白蜥蜴は当然の様に寝袋に入り直ぐに眠りについた。
「もう、仕方ないなぁ」
翠は自分の寝所を占有されてはいるものの小さな旅の同行者に悪い気はしていないので寝袋の横で毛布に包まり眠りつくのだった。
次回はブレーメンの音楽隊!?