娘はやはり強かった
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「今日もうちの娘は可愛い」
朝目が覚めて最初に思う事がそれというのもどうかと思うのだが、それでも実際ミドリンが可愛い過ぎるので仕方ない。
可愛いは大正義なのである。
洞窟内に置いてある水瓶から水を掬い顔を洗う。
意識を覚醒させる為に。毎日の日課である。
丁度そのタイミングで奥の部屋からミドリンが起きてきたようだが、まだ目覚めていないのか半分しか目が開いておらず足取りもゆっくりである。
「おう!ミドリン今日は早いじゃねぇか」
「おはようございますお父様」
いつもの丁寧な挨拶だが寝起きの為か年相応の子供らしさである。
普段は子供らしくなくしっかりしている愛娘だが今日はいつもより早起きの為かいつもの様な快活さは見られない。
「かなり早いみたいだが俺に何か用事でもあるのか?」
ガラハドは早起きが珍しいミドリンに話しかける。
最近は森の中へ朝早くから行っているのを知っては居たが、気付いて居ないフリをしていたのでその様に振舞った。
「お父様に聞きたい事がありまして。お父様は朝早くに出て行かれる事が多いので」
「分かった。話は聞いてやるから先ずは完全に目を覚ましてこい。今日はいつもよりは出発は遅いからな」
「分かりましたお父様」
ミドリンはフラフラと歩きながら自分の部屋に戻って行った。
「一体何の用だ?まさかまさか男か!男なのか!」
お父様紹介したい人が...などとあらぬ考えが暴走し
「ぶっ殺してやる!」
ガラハドは腰に挿してある業物の短剣を抜き出すと慌てて自分の部屋に戻り研ぎ石を探す。
毎日手入れはしているので切れ味に問題はないのだがそれでも存在しない相手に憎悪を燃やしひたすら短剣を研いでいく。
我を忘れ短剣にこれでもかと憎悪を練り込み魔剣にでも注ぐかの様な研ぐ作業に没頭しそうになるも急に冷静さを取り戻し娘はまだ10にも満たずこの洞窟から森にしか行ってない事を思い出す。
「俺は朝から一体何をやってるんだ・・・・・・」
自己嫌悪に陥るのだった。
我に返った後研ぎ澄まされた短剣をしまい
朝食の用意をしていると完全に目を覚ましたミドリンがやってくる。
ガラハドはミドリンに朝食を食べながら話す事を促すとミドリンも首肯する。
「で、聞きたい事とは?」
一瞬先程の妄想が頭を過ぎるもそんな事は無いはずと動揺を表に出さない様にする。
『お父様は一体何に怯えているのだろうか?』
翠は全く心当たりがない為、ガラハドの不自然な態度を訝しむも本題から話が逸れそうなので気付かなかった事にして頭から振り払う。
ガラハドの態度などバレバレであった。
翠は外見こそ10に満たないお子様然としているのだが中身は17歳である。
父親の不自然な態度などお見通しであった。
日本に居た時の父親の遠回しな彼氏が出来たのかを探ってくる様な不自然な態度を思い出し少しおかしく思うと共に元気にやっているのだろうかとも思う。
今目の前に居る父親とは別の元居た世界の父親に対してではあったが。
「お父様、聞きたい事なのですが」
翠は話を進める。
「森に遊びに行ってるのはご存知だと思いますが、森の先にある山の方へ遊びに行ってみたいと思っています。木の実や草花を採取したり魔物の素材などを集めたいと思っているんですが、それを入れる袋の様な物が欲しいのです。」
あくまで遊びに行っているという翠
内心でそうは思われていないとは分かっているのだがそこは子供らしさをアピールする事にする。
「袋というのはマジックバッグやマジックポーチみたいな収納道具の事か?それと山は森と違い危険な魔物も多いぞ」
翠はガラハドの話から元の世界で読んだ小説にあったような便利な収納具が存在している事を確信する。
ただし、読んだ本ではかなり稀少なアイテムであったり普通の人では使う事が出来ない高度な魔法道具であった事を思い出す。
「はいお父様。そのマジックバッグやマジックポーチというのは高価なものなんでしょうか?」
収納具が伝説級のアイテムや高度な魔法使いしか扱えない様な道具では無い事を願いながら翠はガラハドに問い返す。
「サイズにもよるが普通の収納レベルの物なら何処でも手に入るぞ。それこそ街の道具やでも売っている。まぁそれこそ収納に限界のない物や魔法で空間に保存する様な物は俺も見た事が無いが。その辺りの高度な物は噂でしか聞いた事がないな。」
翠は手に入る様だと安堵するもその手に入れる手段が無い事を思い出し落胆する。
「なんだミドリン、マジックポーチ欲しいのか?」
まさかのガラハドの何でもない事の様な言葉に翠は満面の笑みを浮かべる。
「はい、私の大好きなお父様ならお持ちだと思いまして」
目を輝かせてわざわざ大好きの部分を強調してガラハドを強請る
「好きなだけ持っていくといい」
ガラハドは奥の部屋から大小様々なマジックポーチが入った箱を持ってきて翠の前に置く。
『お父様ちょろ過ぎる』
内心で呟くも顔には出さないで敬愛の眼差しを向けガラハドを見る。
箱の中に入っているマジックポーチの中から比較的好みの形の物を手に取ってガラハドにこのポーチが欲しいとアピールをする。
「お父様、私このポーチが気に入りました」
その仕草、余りの破壊力にガラハドは意識が飛びそうになるも娘にそう言われて断る事など出来る訳もなく二つ返事で了承するのだった。
一つ咳払いをして
「マジックポーチについてはそれでいいとして、山に行きたいみたいだが先も言ったが森とは違い危険な魔物や毒を持つ虫やら下手したら空から襲ってくる魔物も居る。ミドリンにはまだ早いと思うんだが」
心配した目を向けているのが分かる
ガラハドのその言葉に翠は先程使ったのと同じ手段が有効と考えガラハドを落としにかかる。
「お父様、ダメでしょうか?」
物凄く悲しそうに視線を落とし消え入りそうな声で返事をする。
本来なら娘を危険な目に合わせる事など有り得ないのでいかに娘に甘いとはいえここは断固反対すべきなのだがこの勝負は翠に軍配が上がる。
娘に頼まれて反対する素振りは見せるが本気で頼まれると断り切るのは不可能であったからである。
何より機嫌を損ね嫌われたり悲しみに沈む姿など見た日には自分が自己嫌悪から部屋に引き籠りかねない。
「分かった。可愛い子には旅をさせろともいう。山へ行くのに必要な物一式をマジックポーチとは別にマジックバッグに用意しといてやる。
但し期間は7日以内に必ず帰ってくる事だ。それを破ったら今後は俺の同行無しには森にも行く事は許さない。守れるか?ミドリン」
「勿論です。お父様」
翠は最高の笑顔をガラハドに向け返事をしたのだった。
『こりゃ反対出来ねぇな』
何処までも愛娘にはダダ甘いガラハドであった。
次回は感動の旅立ち編(但し7日だけ)