親バカは世界共通らしい
更新については出来る限りしていく予定です。
蒼井翠 普通の高校二年生
つい先程迄は普通に高校生活をエンジョイしていた筈だったんだけどな・・・・・・
部室で寝落ちして気付いたら盗賊の娘になっていたなんて中々どうして。
普通では経験する事なんて万が一にもいや、億が一にも無い筈。
「これが初体験なのか」
何処かズレた事を考えながら現実逃避をしても
全く現在の状況が変わるわけでもない。
だからといって「今日から盗賊頑張ります!」
等と前向きな心境になれる程、平和な日本で生まれ育った翠にとっては余りに想定外であり
現実を直視しても未だ解決策は分からず
心ここにあらずといった具合である。
運動神経や頭脳に関しても平均よりは上位であったものの大会に出れる程の運動神経や世界で屈指の頭脳の持ち主であったわけではないので盗賊としてこの先どの様にして生きていく事が出来るのかと考えると憂鬱な気持ちにもなってくる。
ましてや17歳時よりも明らかに幼児化しており体力や走力、腕力について考えてみてもこの世界で盗賊として生きていけるビジョン等全く見えてこない。
ただただ不安の種が加算していくばかりである。
大学の件も含め暫くは順風満帆に見えた翠の人生が
大気圏を超えて宇宙の彼方にまで吹っ飛んで行ってしまったそんな気持ちにもなる。
「一寸先は闇とはよく言ったものね」
翠自身が身を持って体験する事になろう等とは夢にも思わなかった。いや、夢であって欲しかった。
このままいつまでも現実逃避をしていても元居た世界に帰れるわけでもないので、この先どうしようかと考えていると先程話をしていた盗賊のダンがそんな翠の考え込む様子を見て声を掛けてきた。
「お嬢、まだ寝惚けてるんですかい?見張りなら俺の方でやっとくんでお嬢はもう一度休んで来たら良いですぜ」
どうやら現実逃避しているのをまだ寝足りないと思われた様で気を遣われてしまったようだった。
確かに翠は精神年齢17歳ではあるものの現在の姿は鏡を見たわけではないが身体的な特徴から客観的に鑑みても10歳にも満たない幼児だと思われる。
辺りは未だ暗闇に覆われており、空には半分に欠けた月は出ているもののどう見ても夜中であるのは間違いない。
そんな時間に幼児がフラフラと洞窟から這い出て来て何処か心ここにあらずといった様な状態で居たらそれは寝惚けていると思われても致し方ないのだった。
現状解決策が思い浮かぶ事もなく考えが纏まらない以上今は出来る事がない。
再び寝ると選択し翠はダンに伝え再び洞窟の奥へ戻る。
翠は洞窟の奥へ戻り先程目を覚ました場所に横になる。
岩肌の地面になめした皮の様な物を敷いてはいる物の
地面は硬く決して寝心地が良いといったわけではない。
住環境の整えられていた日本とは比べるものではないのは事実しかし、今日は色々とあり過ぎた為、精神的な疲れからそんな硬い岩肌の地面でも直ぐに眠りにつく事が出来たのであった。
昨夜はそのまま寝てしまった翠は早朝洞窟の外から聞こえる賑やかさで目を覚ます。
目が覚めたら元の世界に戻っていた等と少し期待した物の目の前に映っているのは光景は昨夜眠りについたのと同じ硬い岩肌に包まれた洞窟であった。
「世の中そんなに甘くないなぁ」
そんな事を呟きながら身体を起こす。岩肌の上になめした皮を引いただけの地面で眠った割には不思議と身体中痛いなどという事はなかった。
取り敢えず身体を解し、賑やかな声が聞こえている洞窟の外へ向かう為出口に向かって歩いていく。
出口からさす朝の光に『この世界にも太陽と似た様な物はあるんだろうな』とそんな事を思いながら
洞窟の出口から出ると大量の布袋や貴金属、見た事がない金貨や銀貨らしきコイン?みたいな物の上に座ってお酒を飲んで騒いでる盗賊の集団が視界に入る。
盗賊達の様子から上機嫌なように見える。
歌を歌っている者、踊っていたり布袋を抱えて恍惚な表情を浮かべている者など様々だ。
不思議だがその集団の翠を見る目には優しさが含まれていたのだった。
異世界の言葉が通じるのがが1番の懸念ではあったが
盗賊達の話している言葉を理解する事は出来た。
昨夜見張りのダンという男と普通に会話を交わせていたので今更な懸念ではあったのだが。
『言葉はどうやら通じるのは分かった。文字は読めるのかな?』
そんな独り言を呟く。
「我が愛娘ミドリン起きてきたのか?」
喜劇の様な大業な動作が付いていた。
突然盗賊の集団の中の1人のイカツイおっさんからそんな声が上がる。
「ミドリン?」
身に覚えの無い呼ばれ方に一体何の事を言っているのか一瞬首を傾げるもその声を発したガタイのいい盗賊が再度声を掛ける。
「おいおい実の親父の顔を忘れちまったのか」
からかう様な口調ながら目は慈愛に満ちていた。
先程ミドリンと声を掛けて来たかなりガタイのいい男の口から父親であるという事実を知らされる。
今日初めて見た父親というのも何とも不思議な感じだけど、相手は何でもない日常の様な感じで翠を呼んでいたのでどうやらこの世界において翠の父親という設定なのは間違いないのだろう。
いつまでも首を傾げているわけにもいかず話を合わせる事にした翠は挨拶を返す。
「おはようございます お父様」
朝の挨拶に付けて以前読んだ[貴族の嗜み]なる本に載っていた挨拶を思い出し優雅な一礼を行う。
父親と名乗った男は目を見開き時が止まった様な状態で固まっている。
数瞬のち我を取り戻したのか満面の笑みを浮かべ言い放つ。
「ミドリンはやはり天才だ!!!!!!」
何処の世界でも『親バカっているんだな』とそんな事を思う翠であった。
誤字。脱字、設定矛盾等ありましたらご報告頂けると幸いです。