父親の威厳と祖父の威厳
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「白爺〜!少し威圧が強すぎなの。」
周りが一切動けない中、特に気にした様子は無くニコニコとしている翠。
「少しやり過ぎたかの。少し弱めるとするか」
次第に辺りの空気は軽くなっていく。
「ふむ、ミドリン元気な様で何よりじゃ」
場の雰囲気と会話の和やかさのギャップに気持ち悪くなる者も多数居る中、一人と一匹の会話は続いていく。
「そうじゃ、ミドリンの父親は何処におるのじゃ?」
白爺の言葉を受け翠はガラハドの手を引き白爺の前に引っぱっていく。
「こちらがお父様なの」
「ふむふむ。なるほどのう」
白爺は値踏みする様にガラハドに視線を落とす。
「お主がミドリンの父上か?ほほう、中々面白いのう」
周りに居る者には理解出来ないが、人ならざる超常の存在なのだ。
何か面白い物が見えたのだろう。
「初めまして。神龍様、この度は私の娘が多大なるご迷惑をお掛けしたようで」
ガラハドは神龍に対して娘の不備について頭を下げる。
「いや、構わぬ。ワシもミドリンの仲間を傷付けてしまったからのお互い様じゃ。」
神を冠するドラゴンの筈なんだがこんなに気さくで良いのだろうか?とガラハドは思う。
その力は一国をも崩壊させる事が出来る力を宿しているが、眼の前にいる神龍からは優しいお爺ちゃんの様な雰囲気しか感じとれないからだった。
「所でここに来た理由じゃが、ミドリンに呼ばれたのは勿論じゃが、ミドリンの父にも聞きたい事があったからもあるでの」
神龍に尋ねられる様な大それた知識はない筈なんだがな。
どの様な事を聞かれるのかガラハドは頭を回しどう答えるかを考える。
「ふむ。どうやらミドリンはステータスウインドが開けないようじゃが、何か理由があるのか?」
ステータスウインドに対してガラハドは答えを返す。
「教会に行くタイミングが無かった為ミドリンの職業について、ミドリンの持つであろう属性に対する懸念があります。」
ガラハドの本当の危惧は属性についてである。
実際職業が盗賊というのも余り良くはないのだがそれよりも属性についての懸念の方がより強いからである。
「ふむ属性か、ちなみに推測は出来ておるのか?」
白爺は見えてはしているものの敢えてガラハドの口から話す事を促す。嘘を付けば分かるからだ。
「神龍様、[聖属性]が出ると思っております。」
ガラハドの口から出た[聖属性]という言葉に白爺は嘘をついていないと理解する。
いや、むしろ見えていたのでわざわざ口には出さなかったのだ。
白爺は少しガラハドにカマをかける。
「ふむ。[聖属性]とは珍しいの。王侯貴族に多い属性じゃな」
ガラハドは神龍は知っていてカマを掛けているのだと気付く
やりにくい相手だなと思うと共に神龍だから知っていて当たり前なのかとも納得するのであった。
これ以上の腹の探り合いは相手が悪過ぎると観念しガラハドは神龍に真実を話そうと腹をくくる。
「神龍様、ミドリンの母、わたしの妻は王族でした。」
周りの盗賊達も今のガラハドの言葉に衝撃を受けた様子で固まっている。
そもそも今のガラハドの容姿はとてもでは無いが王侯貴族などと付き合える風体では無いのだから。
「知っておったがな」
白爺は高笑いを上げる。
数十年前、自分を討伐しようと勇者と共に現れた騎士の集団の中に見覚えがあったのだった。
「ふむ。雷を撒き散らしてやったら慌てて勇者共々山を降りて行きおったからの。」
誰に言ってるでも無いように白爺は言い放つ。
ガラハドは古傷を抉られたのか苦虫を噛み潰したような顔をしたのだった。
「おっしゃる通りでございます神龍様。エレオノールは今も存命でございます。」
翠は黙って聞いてはいるが内心でかなり混乱している。
「お母様が生きているの・・・・・・」
父親が元貴族だったというのはそれなりに衝撃ではあったが、それより母親が未だに生きていてこの世界に居るというのが上回ったのだった。
翠は会話に割込み
「お父様。お母様が生きているというのは本当なの?」
翠は転移者でありその生まれの記憶はない。
それでもこの世界で母親が生きているという事に魂が恋い焦がれる思いがするのであった。
「ミドリンがもう少し大きくなったら全てを話すつもりだった。」
ガラハドは苦しそうにそう呟く。
「お主の名前が王族と同じであるというのは気のせいではあるまいな?」
白爺は分かっていてこの茶番に付き合う。
「神龍様、おっしゃる通りでございます。私は元王族です。」
元を強調していはいるがハッキリと王族であったと認める。
「色々事情があるのじゃな」
白爺にはガラハドの心が大きく揺れているのを感じ取る事が出来た。
これ以上は無粋であるとこの話しをする事を止める。
白爺にはこの話がミドリンとガラハドのみが話すべき話でありこれ以上周りに聞かせたり追求してもミドリンの心をただ掻き乱すだけだと理解しての事だった。
翠は何か言いたそうにしているも言葉を紡げずにいた。
そんな翠の様子から白爺は助け船を出す。
「ミドリンよ、その時がくれば必ず話してくれるじゃろう」
その声色は神の名を冠する龍から放たれたものとは思えない程に慈愛に満ちているのだった。
白爺にとって種族は違うと言っても今やミドリンは自分が始めて負け認めた可愛い孫の様な物なのだ。
これ以上悲しむ様な姿を見たくはなかったのである。
ミドリンのステータスウインドを開くには教会に行く必要がある。
そしてそこで開示される属性はほぼ間違いなく[聖属性]
それだけでどうなるかは明白であるのだから。
職業は盗賊になっているというのも若干の理由ではあったのだが[聖属性]を持っているという事に比べると些細な事でしかなかったからなのだ。
「ミドリンにはワシの加護も与えておるからの」
本当に楽しそうにそう笑っている白爺。
齢10に満たない女の子が[聖属性]を持ち、加護には神を冠する名の龍[白神龍]の加護がある。
聖女として祀られ、ミドリンの名の下に聖戦と称し戦争に利用しようとする者やその血を手に入れようと貴族の子弟から王族まで大争奪戦が繰り広げられるのは自明の理である。
そんな人生が本当に幸せであるかなど元王族であったガラハドには痛い程分かっていたからだった。
「そういう理由もあり私は盗賊をやっていたのです。盗賊の子孫は盗賊になるのですから。」
白爺はガラハドの覚悟を知ったのだった。
いずれにせよこれから先の事を考えるとミドリンにはステータスウインドは必要である。
「神龍様、ミドリンのステータスウインドに関しては私の方で何とか致します。それなりにツテもありますので」
ガラハドは白爺に父親としての責任を果たすと約束する。
白爺はガラハドの眼を見据えそこに迷いは無くなったと感じる。
ガラハドに覚悟が無かったのであれば白爺がステータスウインドを開くつもりではあったのだが。
「分かった。任せよう」
そう短く答えたのであった。
その後はこの緊張感ある場から解放され、神龍様を持て成す宴が開かれたのであった。
白爺には大量の酒と料理が振る舞われた。
楽しそうなミドリンや二匹の仲間達と共に白爺は宴を楽しみ数時間後満足して飛び去って行ったのだった。
「くれぐれもミドリンを頼むぞ」
と若干に威圧を込めながら。
これからミドリンや仲間達への説明も含め、
ただ重い荷物を神龍から背負わされたガラハドだけは宴の酒の味が苦い物になったのは言うまでもない事だった。
話しが余り進んでいない気はしますが
基本的には娘が可愛い、まご可愛いのハートフル異世界冒険譚を目指しているはずなんですが。