第5話〜苛立ち〜
〜前回のあらすじ〜
SBCに加入することができた。
そして最初の仕事が入った。
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「お前の両親は麻薬販売をしていたよ。確定だ。
しかし両親の日記から『レイを巻き込むことだけは絶対にあってはならない』
という文章が出てきた。
お前の疑いはすでに晴れている」
「チェ、チェイサー!? 知ってたのかぁ!?」
「常識だろ。お前の報告が遅いのはな。もう2時間前に疑いは晴れてた」
自分の疑いは晴れていたことを改めて実感した。
いや、受付の人がすんなりと受け入れてくれた時点で確定してはいたが……
受け入れた時の言い方とテストの答えが変だったので
わかっていながら受け入れたのかと疑っていた。
「最初の仕事だ。レイ。高級住宅街連続強盗事件に関係がある。
資金を『洗浄』してどこかの組織に献上するつもりらしい。
下っ端が一瞬で吐いた」
「場所は……?」
「町から出て草原を通り、森の中に入るんだ。
強盗した金を運ぶトラックと護衛部隊がそこを通るから待ち伏せする」
「……これ、どう使うの?」
レイがSBCの紋章付きリボルバーをチェイサーに見せた。
「これか。まずはセーフティーを外して……
撃鉄を起こし、引き金を引く。それだけ。
ここを覗いて敵を狙うんだ。
弾が切れたら左下にシリンダーを出して弾をこめる。
あと、狙う時は片目を閉じないほうがいいぞ」
「なるほど……」
「わかったらすぐに準備しろ。動きやすい服を選んでやる。」
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選んでもらった服は分厚い布でできた、
紫色がメインの真ん中が切れている軽い防具のような上着だった。
「内側にナイフや弾薬をしまっておけるスペース付き。
さ、そろそろ時間だ。ファッションを楽しんでる時間はないぞ。」
「わかった……うん」
大柄の男が近づいてきた。
「チェイサー! 車の用意ができた。
言われた通りにそこらへんに売ってあるバンを持ってきたぞ」
最初の仕事の幕開けだ。
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「ここが例の森か……」
「レイと例をかけてんのか?しょーもねぇぞ」
「えぇ……?」
森というだけあって道路の以外は木だらけで、
バンを止めるスペースを探すのに苦労した。
「変な雑談をしてる暇があるなら気に隠れとけ。
そろそろターゲットが来る時間だ」
大柄の男が話し始める。
「作戦の再確認だ。
人数は6人。
新入りのレイ、剣士のチェイサー、
同じく剣士の俺・ブロウ、暗黒魔法使いのダース、
ガンマンのチェスター、同じくルゴー。
チェスターがあらかじめ仕掛けておいた爆弾を発破。
トラックを止める。
それでチェイサーと俺が一気に突撃し護衛の数を減らす。
チェスターとルゴーは後ろからついていき援護を、
レイとダースは遮蔽物に隠れたまま後ろから援護しろ」
「「「「了解」」」」
「り、了解!」
「おや、そろそろお出ましだぜ」
トラックが通り掛かる。ターゲットの特徴と一致していた。
「チェスター!!」
「イエス! ポチッとな!」
チェイサーの呼びかけでチェスターがスイッチを押す。
そして小さな爆発が起こる。小さいがタイヤを破壊するのには十分だ。
チェイサーと大柄の男……ブロウが敵に突撃し、
ルゴーとチェスターがそれについていく。
「どうしたんだい……? 人を撃つのは初めて……?」
ダースが話しかけてくる。
レイの手は震えていた。
「大丈夫。僕たちは狩をしている……賞金首が動物で、
しかも人を殺せるどう猛な獣。
それを撃とうとしている。それだけのことさ。
引き金を引いてみてよ。危険な生き物から人間4人を救えるんだ」
レイは勇気を出す……というより恨みの念を込めて、
引き金に指を当てる。
「ダース、君のいう通りだよ……
両親を殺した危険生物の仲間を人間と重ねていた……
ぶち殺す……!!」
「あっ……待って! 殺さないように……」
レイの放った銃弾は眉間の、それもど真ん中に命中した。
撃たれた護衛は声を上げることもできず倒れていった。
「おい! 何やってんだ! 殺すな! 賞金が半減するだろ!
アタシたちのほとんどは金のためにコレをやっている!
そこんとこ考えろ!」
チェイサーが怒っているがレイにはほとんど聞こえていない。
気持ちいい。スカッとする。動画サイトに上がっている
「スカッとする話」
より100倍気分が良くなる。両親の仇を取れたのだ。
麻薬を販売していた?何それ。巻き込んだのはお前らだ。
両親の人生をめちゃくちゃにした奴らが、今まさに……
頭から血出して倒れている。死んでいる。
もっと傷つけてやりたい。奴らを殺してやりたい。
「レ……レイ! これ以上反感を買う行為はやめろ!
もうやめろ! 撃つな!
みんなお前を睨んでいるのに気がついていないのか!」
レイは気がつかないうちに屑どもを3人撃ち殺していた。
「頼む! 頼むからやめてくれ!
お前ために言ってるんだぞ!」
チェイサーの言葉には一切耳を貸さずレイは撃ち続ける。
あの屑どもはビビってこちらに攻撃を一切当てられていない。
何もできずにただただ殺される。きっと両親もこんな目にあったんだろう。
倍にして返すなんてことはしていない。そのまま返してるだけ。
「お前が首謀者か……?」
「ひ……や……やめて……」
「質問がある。何のためにこんなことを?
何のためにあんなことを?」
「クルミ盗賊団に献上するため……
クルミ盗賊団は偉大だ。
俺らなんて弱小ギャングなんて目じゃない強さを持ってる……
復讐心が奴らに強い力を与えてるんだ……
彼らのリーダー、クルミ=リシッダーはこう言った。
『手段は問わない。金を集めろ。その金で復讐計画を温める』
奴らの意志の強さに魅了された俺たちは……」
「ありがとな。もういい……サヨナラだ」
レイは引き金を引き、首謀者らしき人物の額に穴が開いた。
そうして全てが終わったのだ。
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「どうだ! コレで……俺の両親は……」
「何が『どうだ!』だ!
何のために俺たちはリスクを負ったのか分かってるのか!?
チェスターなんて片足を失ったんだぞ!」
「……え?」
「レイ……頭を冷やせ。もう二度とこんなことをしないでくれ。
頼む……お前のために言っている……こんなことを続けたら
恨まれてしまう……」
レイは何も言えない。
口から何も出ない。
自分のしたことをもう一度考える。
何が悪いのかわからない。
「僕の勇気付けかたが悪かったよ。そこは謝る。
だけど……!! おかしいよ! 君は!
他の人のことを考えたことはないのかい!?
命がけで金を勝ち取りにきて、それをほぼ無にされた!!
残るのはたったの……SBCの取り分を考えて4分の1!
命をかけてたったの1人当たり3万とかあるのか!?
しかもそれを6人で分けるんだ!割りに合わなさすぎるよ!」
「……」
自分の欲望に従った。それだけだ。
「俺の……俺の片足はどうなんだよ!
義足を買うことすらできない!!
あんまりだ!! こんなの……!」
「同感だ。このクソガキが……」
そんな……そんな……何が悪かったってんだよ!!
俺は復讐を果たした、ただそれだけだ!!
レイは心の中で叫ぶ。本当に喋ると殺されかねない。
そんな雰囲気を本能で感じ取っていた。
「……分かっていなさそうな顔だな。
レイ、休め。とにかく休めよ。頭を冷やす時間が必要だ……
SBC支部の空き部屋を手配してやる……
わかったらバンに乗るんだ。戻るぞ……」