初めての王都は違和感がなさすぎるようだ
「ところでハク様は、なぜこちらにいらっしゃたのですが?トレット様のお連れではないとおっしゃってましたが。」
「う~ん、それを聞かれると難しいんだけどとりあえずは目的地は同じなんだと思うよ。」
「あぁ、お連れではないんだが、連れではあるというか。これが難しい話なんだが。」
「はぁ・・・そうですか。別に無理には聞きませんのでご安心ください。トレット様と一緒にいらっしゃる時点で、少なくとも悪人ではないでしょうし。」
王女がハクを向いて微笑んでいる。ハクもお返しとばかりに笑顔で返す。先ほどから若干、初めての馬車でソワソワしていたが、今はもう落ち着きを取り戻している。無事自己紹介を終え、馬車の護衛を引き受け一緒にスキーラ王国に向かうことになったのだ。ハクはトレットに確認したが、目的地はそれであっているらしい。
--2時間後--
残念ながらコミュニケーション能力のないハクはこれといって目的地まで何かしゃべるわけでもなく到着してしまった。王都に入る際の検問だが、王族専用ルートというものを使って入国した。普段は検問の必要があるが、ハクの盗賊との一件による功績によりこれぐらいは免除してもいいだろうということになった。もちろん事前にトレットの口からハクには事情があって、身分証がないことを説明したようだ。こちらの王国でつかえる身分証は、ギルドカード、入国証、商人ギルド所属証などが一般的らしい。ほかにも特記事項的に使用できる書類があるらしいが、それにつては説明の必要がないとハクはトレットに言われた。
「この度は本当にありがとうございました。今後何かお困りのことがございましたら一度私に頼ってください。」
「ありがとうございます。こちらとしても王都まで簡単に来れてよかったです。」
一応門をくぐったら、王国内だし敬語のほうがいいよな。なんたって、国王の娘だしな。それにしても道中特に何もなくてよかったなぁ。
「トレット様、お構いもできず申し訳ありません。また王城に来られた際は私をお呼びください。盛大に歓迎させていただきます。」
「いや、それはそれで逆に困るんでやめてくれ。ハクを王都内に入れてくれただけで充分だ。正直それが一番の難関だったからな。それに宿屋まで紹介してもらって、もう十分助かってるよ。」
移動中にトレットと王女はある程度必要な情報交換をしていた。宿屋の情報もその一つだ。
「いえいえ、お気になさらず。それでは私は盗賊の件をお父様に伝えないといけませんので、失礼します。」
華麗な身振りで馬車に戻っていくシルエラ。馬車は王城の方向へ走り去っていった。
「じゃぁハク、まずは宿屋に行くぞ。詳しい話もしたいしな。」
「あぁ、俺もこの光景を見て聞きたいことがいっぱいできたよ。」
ハクとトレットは宿屋に到着した。建物自体には違和感がなく、無事入室した。もちろん問題はたくさんある、一番は違和感なく入室できたこと、そしてそれはそれまでの街並みにも関係あることだ。
「だろうな。この世界について、まだ質問したいことが山ほどあることだろう。とりあえずハクの話から聞くぜ。」
無事宿屋でソファに座って話が始まった。
「ありがとう助かるよ。まず最初に聞きたいんだが、異世界って聞いてたんだけどさ、ほとんど俺のいた世界と変わりがないんだけどもそれはなんでかな?」
そう、ハクの言う通りこの王都には車も普通に走っているし、ビルも普通に立っている。ほとんど技術レベルが現代日本つまり地球と変わらないのだ。ハクも最初は少し動揺したが、異世界だからと言って技術レベルが低い方がいいか、と聞かれたらもちろん答えは「いいえ」だろう。そういったこともあり比較的動揺も少なくここまでこれたわけだが、もちろん一番の動揺は連れてこられた瞬間だったが。
正直連れてこられた瞬間はいろいろ焦ったし、いろんなことを考えたが俺がいなくなっても困る人も地球にはいないしな。なんだかんだで、なんてことのない毎日だったし、それはそれで受け入れよう。
「まぁ気になるところだろうな。それを説明するにはまず、異世界というか世界の仕組みから説明しないといけないんだ。聞くだけなら簡単な話だから、聞いてくれ。」
そういうとトレットは身じろぎするように姿勢を少し変えた。
「世界と世界の関係性について考えるとより話が簡単になるんだが、そもそも異世界に転移するにはいろいろな条件があってだな。その条件をクリアできる奴も非常にごく少数だがな。第1は異世界に渡る手段を持っていること。第2は世界同士が、その手段で限定される階層以内であること。第3は異世界に渡ることに耐えられる肉体を持っていることだな。先に質問されそうなことに答えとくがお前に関してはその肉体を持っていたということになる。普通は無事じゃすまないはずなんだがな、俺もちょっと驚いたぞ。」
「そうなのか・・・ていうか無事じゃすまない可能性があったのかよ!そこに驚きだよ!」
「そいつは悪かったな。話を戻すぞ。」
そんなんで許すわけないだろ!普通に無事だったからよかったけど無事じゃなかったらどうなってたんだよ。続きの話が聞きたいから、言わないけどさ。理不尽極まりないな畜生めっ!
ハクは怨嗟の瞳でトレットをそっと睨みつけるにとどめた。
「つまりだな結論を言うと世界の階層が近ければ近いほど、その世界どうしは似てるんだ。階層が離れまくると全然違う世界になるらしいぞ。俺たちの世界はそこまでたどり着いてはいないが、人間という概念があるか怪しいらしいから開発はあまり進んでないな。」
「ふ~ん。なるほどね、なんとなく理解できたよ。ちなみにトレットはどうやって世界を渡ったんだ?」
「詳しいことは言えないが俺の場合は魔法だな。そもそもこの世界では二種類の技術が発展しててな、魔法学とハクのいた世界を参考にした魔法化学がある。車とかは魔法化学にあたるものだぞ。まぁそれ以外にもいろいろあるがそれに関しては実際にこの世界を見ながら学んでくれ。」
なるほどな、世界に渡った手段にはおそらく【救世の大魔女王】とかいうのが絡んでるんだろな。いろいろ気になることは多いけど、呼ばれたんだから会う機会もあるだろう。
「この世界のことはいろいろわかったよ、ありがとう。この後ってどうすればいいのかな?」
「相変わらず順応性の高い奴だな。この後に関してだが実は俺もハクをこの世界に連れて来る目的とかを知らなくてだな、それを尋ねに魔女王様に会いに行こうと思ってるんだ。」
「シルエラの反応とかを見るにそうとう偉い人なんだろ?そんな簡単に会える人なのか?」
「うーん、シルエラ達王族とはまた違った意味で偉いだけだから、それに関しては問題ないぞ。王族のは立場からくる偉さであって、あの人は悪く言えば実績があるだけなんだ。会うことに関しちゃ王族より全然簡単だぞ。」
「なるほどね。それならよかった。俺も何をすればいいとかよくわからないから、早く会いたいよ。」
いろいろと情報の整理が終わったところでハクたちは今日は眠ることにした。話していたらいつの間にか、夜も更け眠るのにはちょうどいい時間になっていた。