異世界に来たが戦闘の基本はあまり変わらないようだ -2-
前話をお読みいただきありがとうございます。頑張りますのでよろしくお願いいたします。
少女は思った。この男は誰なのだろうと。長身で全体的に細長い。目や顔の色合いで彼があまり健康的な生活をしていないのはだれが見ても理解できる。道を歩けば彼のことを3人に2人は避けて歩くことだろう。前髪が長く、片目は隠れてしまっている。黒色の長そでを着用し、白色のズボンの履いている。
この男に私は見覚えがない。助けられる恩も何もないのに、突然数十人いる盗賊の前に立ち、戦っている。心底謎でしかない。さらに言えば瞬く間に盗賊4人を瞬殺してしまった。当初自身が助からないのであれば、せめて護衛の騎士だけでも助けたいと交渉しようとしていた彼女に希望を与えるには十分な光景であった。
くそがっ。何者なんだこの男は。奴らの仲間には思えない。依頼の成功まであと少しだったのに。突然乱入してきたと思ったら、化け物みてぇな強さじゃねぇか。笑わせるぜ。ここは一旦撤退した方がいいのか?今後今以上のチャンスが訪れるとは思えなねぇ。くそがっ、くそがっ、くそがっ。どうすればいい。
盗賊のお頭は必死に考えを巡らしていたが、おそらく何を考えてももう間に合わないだろうということは理解できていた。そして図らずとも部下とファイヤーボールの衝突が、第2ラウンド開始の合図となった。
今度は13人の盗賊に一斉に囲まれた。最初の油断はもうなくなってしまったみたいだ。非常に残念だ。先ほどファイヤーボールという魔法にぶつけた盗賊はやはり着弾箇所が爆発していた。想定通りファイヤーボールという魔法は着弾時に爆発するらしい。ただの火の玉ではないだけに少し厄介だが対応できる程度の威力だったので、少しほっとしている。後ろから接近してくる盗賊を蹴り飛ばし、その横にいる盗賊の持つ剣に突き刺した。悪手だな。取り囲んでいる有利な状況で息も合わさず一人が突っ込んでくるとはな。これでは陣形を崩せと言っているようなものだ。
盗賊たちが瞬く間に数を減らしていく様子をトレットは遠くから観察している。
正直俺はあの時ハクを連れてくる前にハクが何者か聞いておかなかったことを非常に後悔している。あれはどういうことだ。異世界の人間はみんなあれくらい強いのか?
「ははは、こいつはすげえや。あの人が気に入るわけだ。」
トレットの笑みは、犬がこんなにも感情表現できるのか?というレベルで引きつっていた。
5分もしないうちに残りの盗賊はお頭と魔術師だけになった。ハクはゆっくりと歩いて盗賊に近づいていく。
「下がってろお前ら。魔術師は接近戦では不利だ。ここは俺に支援魔法をかけ、随時支援を頼む。」
「あぁ実にいい判断だ。無駄に命を散らす必要はない。今逃げたら見逃してやるぞ。」
「馬鹿がっ!お前はこれから俺になぶり殺しにされて死ぬんだよ!支援魔法もなしによくやった方だがな。魔法なしとありでは天と地ほどの差があるんだよ!ぶっ殺してやるよ。」
「馬鹿はお前だと思うけどな。もともと天と地以上の差があるのにそこから一歩二歩前進したところで、何の意味もない。」
「スピアド!パワアド!マジアド!」
「あぁ~いい感じだ。これでやっと邪魔なお前をぶち殺せるぜ。」
「たかだか魔法くらいでたいそうな自信だな。」
ほぉ。こいつはなかなかだな。ほかの盗賊と比較したら圧倒的な速度で盗賊が突っ込んでくる。どうにもスピアド、パワアド、マジアドのどれかにはスピードを上げる効果があるようだな。
盗賊が剣を振り下ろしてきた。ハクは冷静にほかの盗賊から拾っておいた剣でその攻撃をはじこうとした。だがそれはかなわずハクの剣は折れてしまった。
先ほどの魔法のどれかは力を上昇させる呪文か。なるほど、一撃でも貰ってしまえば残念ながら死んでしまいそうだな。自身のことなのにまるで他人事のようにハクは冷静に考えていた。
「くらえっ!マジックウィップ!」
ハクの右足ににツタのようなものが絡まる。だがハクは続く盗賊の連撃を上半身の動きだけでかわす。スピードでは完全に負けてしまっていたため、最低限の動きとテクニックでかわしていく。たまらなくなった盗賊が左から剣を横にないだ。それを読んでいたハクはこの攻撃を逆手に取り、左膝と、左肘で敵の斬撃を挟み、勢いよく右足中心に回転、盗賊の剣を空にはじいた。そのまま盗賊のボディに左拳を一つ、くの字に折れた盗賊の体。そのまま右でフックを顎に決め、盗賊は前のめりに倒れた。
「ファイヤーボール!」
残った魔術師たちが一斉に魔法を放つ。ハクの足には依然ツタが絡んだままだった。
「キャっ!」
直撃したと思った少女が悲鳴を上げた。が、次の瞬間落ちてくる盗賊の剣をそのまま右手に取り、ツタを切り裂いた。そしてその遠心力に体を任せ横になるような姿勢で空中で回転。すべてファイヤーボールをかわす。最後の回転をしながら剣を投擲、一番後方にいる魔術師の心臓に刺さり一人が倒れた。それを確認するようにほかの魔術師が振り返ってしまった。そのすきにハクが接近。もともと接近戦が得意ではなかった魔術師たちは一瞬で倒された。
「ふぅっ。何とか勝ちましたな。」
それにしても最後は危なかった。何とか回避が間に合ってよかった。もしもを想定して、剣を空にはじいておいてよかった。
騎士達、少女、並びにいつの間にかそばまで来ていたトレットはあんぐりと口を開けて驚愕していた。正直お頭以外の掃討が終わった時点で勝機とみて騎士は手伝おうとした。だが補助魔法などでお頭の隙がなくなり、男が倒れると同時に奇襲を仕掛ける作戦を脳内で展開していたのだが、それは無駄になった。
「あぁ~ハク。」
一番初めに口を開いたのはトレットだった。
「普通はな、魔術師たちの補助魔法に対してお前が何もしなかった時点で勝負が決まるし、もろもろの事情を知っている俺としては夢でも見ている気分なんだが。」
「わ、私もです。あ、あの助けていただいてありがとうございます。」
「気にすることないよ。まぁギリギリだったから正直ハラハラしたけどね。もう少し早く助けに来れたらよかったんだけど、少なくない犠牲が出ちゃったね。」
「突然すみません。そこで私から提案があるのですが、良ければこのまま私共の目的地に一緒に来てはいただけませんか。護衛が減ってしまったのもそうですが、あなたほどの強者ならば安心です。」
「あぁ、まぁそれを決めるためにお互い情報交換をしない?実際名前も知らないしさ。」
「それもそうでね。私共としても一度騎士の埋葬や生きている盗賊の処分などがあります。その時間を使いましょう。」
馬車は無事だったのでその正面で女性と一人の騎士とハクとトレットが集まる。それ以外にもいる騎士はそれぞれ作業に移っている。
「まずはわたくしから自己紹介させていただきます。わたくしの名前はシルエラ・メル・スキーラと申します。王座継承権はほとんどありませんが、一応スキーラ王国の王族です。」
ブロンズの髪をした典型的なお嬢様といった感じの顔が微笑む。きれいなエメラルド色の瞳をしている。スタイルもよくとても美人で、身長は女性にしてはやや高い程度だ。服は右肩に白いバラの飾りのついたきれいな青色のドレスを着ている。ハクは王族という言葉を聞いたとき少しだけ苦い顔をしたトレットを見逃さなかった。
「続きまして、私の名前は・・・。おっとその前に一度ヘルムを取りますね。それでは私の名前は、エルミラと申します。お察しだとは思いますが平民出身の騎士といったところです。」
ヘルムをしていて気づかなかったが、こちらも女性だった。髪は茶色で、目も髪と同じ色をしている。日本風にいうと活発スポーツ美人といったところだ。割と長身でハクくらいある。完全装備の防具を着ていたら、この長身では性別不明になるのも仕方ないのかもしれない。
「俺の名前はトレットだ。一応こいつではないが主人のいる使い魔だ。」
数秒後本日何度目かの驚きが上がる。
「やはりあなたがあのトレット様だったのですね!?世界最強の魔女、【救世の大魔女王】の3番目の使い魔にして大魔女王の代弁者。国王とそれ以外のごく一部とのみまれに会われると聞いておりましたが、どおりでお連れの方がお強いわけだ。」
エルミラは納得した様子でうなずいている。トレットも普通にうなずいている。ハクは状況が理解できずにトレットを二度見している。シルエラは無言で土下座をしている。それを見たエルミラは焦り、止めている。
「この度はわたくし如きを助けていただきありがとうございます。」
「やめてくれ、そもそも勘違いしているが、そいつは俺の連れではないし、助けたのもこいつの独断だ。」
おいおい嘘だろ。王族が土下座するほどの奴だったのかよ。このパグが。唖然だね。というか【救世の大魔女王】だっけか?文字どおり世界を救っているってことなのかね。そうすると王族の土下座もギリギリ納得できるが。
「それはそれはありがとうございました。」
「い、いやいや気にすることないよ。つ、ついでに言うと俺の名前は黒城 白だ。」
唐突の展開に隠していたコミ障が若干発動するハク。
「コクジョウ ハク様ですか?か、変わったお名前をしているのですね。」
若干引かれてしまったようだ。
物語が、全然進みませんが、すみません。