第4話 カネとファッション
あの海岸からじいさんと一緒に歩いてざっと10分ほど、じいさんの服屋が見えてきた。
とりあえず第一印象は「田舎の服屋」ってとこだろうか。ぶっちゃけ前世界の服屋と変わらん、まぁこれなら今まで通りに使えるってわけだ。私は「テヌー」と、店の名前がかかれてある看板を見ながらそう感じた。
服屋の名前にしちゃあオシャレすぎないか・・・?
「さあ入りたまえ、遠慮はいらない。」
馴れ馴れしいじいさんに背中を押され、しかたなく木製のドアを開けて店内へ入ることにした。
店内の大きさはざっとスーパーの半分ほどの大きさで、前にはカウンター、奥にはファンタジー感ある服が飾ってあり、着替え室と思わしき個室もある。見た感じいたって普通だ。
「いらっしゃいませー、今日はどういったご用件で・・・って、あ! あのときの人じゃん!」
カウンターで私を出迎えてくれたのは、あの時私をベッドの上から見下していた、橙色の髪の女性だった。
「あー・・・はじめまして、かな? 会えて嬉しいよ。」
私は橙色の髪の女性に軽く挨拶した。
「シドニーよ、よろしくね!」
「・・・エムシーだ。」
女性は返答してくれた。なるほど、シドニーか。この世界じゃ名前の方は別に飛び抜けた変な名前でもなく、いたって普通そうだな。
「おや、知り合いだったのかね二人とも? それはともかくシドニーくん。この方が今着てる服を売ってくれるから、この方に合った代わりの服を用意してやってくれ。」
「はーい、分かりましたー。」
じいさんの指示通り、シドニーは奥に飾ってある多種類の服を色々選び始めた。
「よし、じゃあ君はあそこで着替えてくれたまえ。」
そう言うとじいさんは私の背中を押しだして、個室に案内してくれた。
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「・・・意外と中世の服にしちゃシックだな。」
個室でスーツを脱いで、じいさんが言ってた「代わりの服」とやらを着てみたが、この時代にしてみてはかなり高級そうな代物だった。簡単に言えば白黒のショート丈トレンチコートで、暑さ対策に生地が薄くなっている。
ただ、ストリートギャングらしくないってのが気に食わんな、これじゃあただのビジネスマンだ。
目の前にある鏡の前で少しジャンプしてみたり腕を動かしたりと、しばらく鏡の前で体を動かしていたら、個室のドアからノックする音が聞こえた。
「着替え終わったかね? なら次はカウンターの前まで来てくれたまえ。」
じいさんが個室の外から私にそう呼びかけた。
個室のドアを開け、シドニーがいるカウンターへ向かう。
「はいこちら、あの洋服と代用服代を差し引いて12000ゼニーだよー。」
「・・・ありがとよ。」
そう言って私の手のひらに渡されたのは、大きい金貨1枚と、それよりも少し小さい金貨2枚だった。
これがこの世界でいうカネなのか? あと「12000ゼニー」ってドルでいくらするんだ?
ーまぁいい、多分小銭以上はあるだろう。なんにせよカネは手に入った、これで「ホームレス」から「バイトしてる高校生」ぐらいには良くなったか。
「そういえば、エムシーさんは何の仕事をしてるの?」
シドニーがカウンター越しに質問してきた。
またそれだ、だから返答に困るんだよこの手の質問は。
「今はなんていうか・・・引退というか・・・。」
ダメだ、返す言葉が見つからない。
「つまり今はフリーということかね?」
じいさんがいきなり私の後ろから話しかけてきた。
「まぁ・・・そんなとこだ。」
私はじいさんの方を振り向いてそういった。
「なら、このわしの仕事を手伝ってくれんかね? 好きなときにきてくれればよいし、もちろんお金も払う、どうじゃ?」
かえって好都合すぎるくらいだ、どうやら私はこんな古い世界に来てしまっても幸運はあるようだ、これが「不幸中の幸い」って言うのか。面接もない、履歴書とか出す必要もない、好きなときに働ける。働くアテも見つかったのだからしばらくはこの街で生活するのも悪くないだろう。
そういえばあのばあさんが「娘の仕事を手伝ってやれ」とかいうのを言ってたな、とにかく今は絶好のカネ稼ぎチャンスだ。逃すわけにはいかない。
「あぁ分かった、手伝うよ。」
私はじいさんにそっけなくそう答えた。
「よーし、決まりじゃの! 早速じゃがこれを運んでいってもらえないかの?」
「・・・はぁ。」
これからこんな調子でやっていかなきゃいけないのか、いつになったらギャングスタ気取りができて、なおかつゲームができる日が来るのか・・・。
こうして、私の「異世界ライフ」が始まった。
気づいたら一ヶ月立ってました・・・。
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