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第3話 こちとらチャリティーじゃねぇんだ

 これから幾晩と幾日は、辛い日々を過ごすことになるだろう。電気もない、ガスもない。周りにあるのは木製のボロイ家具だけだ。


 ただ、こういった状況はこれからも続くだろうから、文字通り慣れていくしかない。さっきばあさんにもらったスポーツサングラスはどうやら私が読めない文字を解読してくれる万能物らしいし、この世界の言語も話せる。そこまで酷い状態じゃあないだろう。


 まず私は玄関の扉を開け、外に出ることにした。悩むより行動が大切だ。


 周りを見回してみると、太陽は真上近くだった。この世界にも太陽があるってのにも驚きだがそれはさておき、ざっと10時位と考えてよさそうだ。


 こうして私は目的もなく歩き出したが、その前にまず、ばあさんが「海岸で倒れてた」と言ってたのでそこに向かってみよう。ひょっとして強盗クルーが一緒にこの現在に来ているんじゃないかという期待を、どうしても捨てきれずにいた。


 この街を歩いてみて思ったのが、貧乏くさい服を着た農民や漁師はともかく、稀に異様な格好をした男女を見かける。ファンタジーなゲームに出てきそうな服だ。後は耳が尖ってたり小さな角が生えてる者もごく稀に見る。控えめに言って気持ち悪い。しかもそいつら―――異様な格好をした男女必ず何かしら「武器」を肩やら腰やらに身につけている。中には10代後半か20代前半の若い歳して杖を持ってる輩もいる。なんかの脚の病気か?その割には両足で歩いているが。


 後は周りの建物も目に付くものが多い。額縁で剣やら槍を飾って堂々と「武器専門店」と書かれてある建物や、果物やハーブを売ってる「道具店」やら今まで見たとこない建物がたくさんある。 


 さっきから武器といい、道具屋といい、私が先週プレーしていたMMORPGのゲームにそっくりだ。もしかしたらレベルとか経験地とかそういう、うさんくさいシステムがこの世界にはあるのだろうか。


 そういった現実離れした考えをしているうちに、海岸が見えてきた。北のほうからわずかに海の波音が聞こえていたから北に進んでみようと思ってたから、この考えは正しかったようだ。もっとも「北」かどうかは私が勝手に決め付けたからそこは怪しいが。


 海岸は波の音以外、ひっそりと静まりかえっていた。あたりには、人っ子ひとりいなかった。


「ランス!」


 私は小声で呼びかけた。


「ランス!この近くにいるのか?」


 一陣の風があたりを吹き抜け、ナポリのような青い海の波音が少し大きくなった。ほかには何ひとつ、動くものはない。


「ライネ?」


 私は再び呼びかけた。


「ブラボー?」


 ――ダメだ、だれも答えなかった。


 ここで、ひとつの疑問が頭によぎった。なんで「私」だけがこの世界にいるんだ? 私はもう前の世界じゃ死人扱いで、死人だけがこの世界に来れるのか? いや、もしそうならあの時頭を撃ち抜かれた「R」だってこの世界にいてもいいはずだ。


 じゃあ、この世界は前の世界でデカイ罪をもったヤツだけが来れるのか? だったら歴史上にもっと恐ろしいツケをもった人物がここにいてもいいはずだ。その中から、2度目の人生を与えられたのがなんで私なのか?


 アルバート・フィッシュのような食人者でもなく、イルゼ・コッホのような悪趣味女でもなく、


 なんで私が選ばれたんだ?


 ―――考えてもしかたがない、一旦あのばあさんの家に戻ろう。


 スーツのポケットに手を突っ込みながら、私は海岸から引き返すことにした、その時だった。


「ちょっと! そこの君!」


 誰かが後ろから声をかけてきた。


 当然私もその声に応じて後ろを振り向いた。


「君、その洋服はどこで仕入れたのかね?」

 

「・・・は?」


 いきなり馴れ馴れしく声をかけてきたのは、50代だか60代くらいの歳で、白髪で少し禿げた身分の高そうな服を着たじいさんだった。


「上襟、折襟、ラペル・・・どれをとってもすばらしい! ぜひ我が店にもらえないかね?」


 そのじいさんは私のスーツをじっと近くで見つめながら、そう勧誘した。


 このじじい、何様のつもりだ? 突然友達のように話しかけてきて、私の服をじろじろ見た挙句、よこせと言いやがって。羞恥心ってもんがないのか?


 しかも『もらう』だと? こちとらチャリティーじゃねぇんだ、やさしいパパでもねぇ。


「タダでよこせってのか?」


「もちろんタダでとは言わない! きっちりその洋服代は払うさ!」


 よかった、話の分かるじいさんで。 羞恥心とかはともかく、カネが全くなかったからこれはありがたい、ついでにいえば変なナリで目立ってたからな。ここで小銭をもらっておこう。


「・・・分かったよ、このスーツは売るよ。」


「よし、取引成立だ! 代わりの服も用意しておくから、わしの店まで一緒に来てくれないかね?」


 カネのため、ついでに服も買いたいため、しかたなく私はこの老いぼれじいさんについていくとこにした。

第3話です。この調子だと戦闘やらドンパチやらは結構先になりますかね。誤字、脱字があったら報告お願いします。

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