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第1話 異世界を私に


「うんうん、同伴って難しいよねー。」


「でも大丈夫。 鍛冶屋のおじさんがここまでここまで運んできてくれたんだから。」


 誰かの声が聞こえる。さっきまで銃声と悲鳴が聞こえていたのに対して話し声しか聞こえない。


「わたしはこの人を介抱しなきゃだから、じゃあねー。」


 目を開こうとしてみるが、光が思ったより強い。あまりに眩しすぎて目を開こうにも開けない。


 薄目で目を鳴らしながら少しずつ目を開けていく。


「・・・んん?」


 目を開けてみると、目の前には女優のように美人な顔立ちをした、橙色の髪の女性が私を見下していた。


「おっ、気がついたね!―――でも、ちょっと待っててね。」


「おばあちゃーん、おばあちゃーん! この人、目を覚ましたよー!」


 女性はそのまま少し大きな声で誰かを呼びながら、部屋の出入り口とおぼしき扉の先へ行った。


 状況を整理してみよう。


 上半身を起こしてみると、どうやら私はベッドの軽い掛け布団で寝ていたようだ。 目をこすりつつ辺りを見回してみると、今私が寝ていた部屋は3畳ほどの大きさがあり、部屋の隅に女性が出て行った扉がある。おそらくここは寝室なのだろう。


 しかし、「どこの」寝室なのかはまったく分からない。刑務所病院か? いや、もしそうなら目の前には鉄格子があってもいいはずだ。


 しばらくベッドから上半身を起こしながら辺りを見ていると、扉からさっきの女性が呼んでいたと思われる老婆が入ってきた。


「目が覚めたかいボウヤ?」


 老婆は寝起きの私に向かってそう話しかけてきた。 


「ボウヤ、自分の名前は分かるかい?」


「えーっと・・・エムシー、エムシー・セロスタと申します。」


 老婆の質問にすかさず私はそう答える。


「聞きなれない名前だねぇボウヤ、北国から来たヤツかい? まぁいいさ。あんさん海岸でずっと倒れてたんよ、覚えてるかい?」


「あー・・・そこんとこ全然覚えていないし分かっていないです。」


「ふぅん。ま、とりあえず今はここでゆっくり横になって休んでな。」


 そういい残すと老婆は、部屋から出て行った。


 んん? さっき私は何の言語で話していた?


 普段私はいつも英語を使って暮らしているのだが、さっきの老婆と女性はあからさまに別の言語で、まるでアラビア語と日本語を混ぜ合わせたような喋り方だった。

 しかもその言語を私は当たり前のように理解できていたし、話すこともできた。どうなっている?


「あー、あー、テストテストテスト。」


私はのどに左手をあてながら声を出してみた。確かによくわからない言語を喋ることができる。こんな言葉、いつ覚えたんだ?


「《8匹の猿が8つのりんごを食べた。》・・・。」


 英語で早口言葉を言ってみる、これはいたって普通だ。 でもなぜ私はあんな意図的に喋ることができたんだ? 考えれば考えるほど余計分からなくなる。


 ベッドの上でただただ考えても仕方ない。ここがどこなのかを確認するためにも外に出てみよう。


 掛け布団を目の前に押し出し、下半身をベッドからずらして、背伸びをする。


 自身の姿を見てみると、上半身は真っ黒なスーツで、ボタンは全部留めてあるし、若干返り血が薄く染まっている。手を見てみると白い手袋で指紋を隠しているのが分かり、下半身は若干破けている。


 姿といえば、さっきの女性と老婆も変わった衣装だった。まるで中世ヨーロッパにありそうな貧乏臭い、農民のような格好をしていた。


目の前にある扉を開けると、壁は岩壁で出来ており、台所と思わしき流しが排水溝まで繋がっていて、そこにさっきの老婆が腰を低くしながら、かまどでパンを焼いていた。多分ここがリビングなんだろう。


「おや、さっき休んでなと言ってたのに勝手に起きるなんて自分勝手なボウズだねぇ。 水でも飲むかい?」


「いや、遠慮するよ。」


私は首を振ってそう言った。そんなことより、ここがどこなのかをはっきりとさせたい。私は老婆にそう聞いた。


「そんなことより、ここはどこなんだ?ナイジェリアか? それとも南アフリカ共和国か?」


「ここはスーデン国のシースタドトって街だよ。」


「・・・は? 」


「随分驚いたって顔してるね、外に出て確かめて見なよ。」


老婆は中腰の姿勢で、かまどでパンを焼きながら玄関と思わしき扉を指差した。

私は老婆に言われた通り、指を差した扉を開けてみる。


そこは、人生今まで見たことがない光景だった。


まず、電柱も信号も辺りには一つもない。額縁に剣を飾っている石造りの店、木箱やら樽やらを馬車で運ぶ老男性。そして目の前に見える、ナポリを想像とさせる広大な海。まるで産業革命以前の16世紀の中世ヨーロッパのようだ。


もしかしたら違うかもしれないが、おそらくこう考えていいだろう。


「これって、いわゆるアレか・・・。『異世界』ってヤツだな・・・。」


第1話です。そういえばタイトルの意味がよくわからないって人のために解説を。


「アンダー ウェルト」というのはドイツ語で「異世界」で「ロバー」は英語で「泥棒 強盗」の意味を指します。 何となくですが察しがついてましたか?

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