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プロローグ


 「強盗様のお出ましだ!」


「動くんじゃねぇ、マヌケども!」


「イヤァァァァァァァ! 撃たないでぇぇ!」


「皆さん伏せて下さい! 刺激しないように!」





 仲間との強盗は楽しい。人々が知らぬ間に金が盗まれていると考えるとさらに楽しく感じる。


 黒いマスクを被り、黒いスーツを着て、客人、という名の人質達を古臭い拳銃を片手で持ちながら向けるだけで、奴隷のように私たちの言うことを聞いてくれる。 まるで中世の国王にでもなった気分だ。


 さらにいえば、ここ銀行で強盗をすれば一札ずつ数えると何分かかるか分からないほどの大金が手に入る。 こんな楽な仕事で大金が手に入るなら、バイトなんてクソくらえだ。


 私ならぬ「M」は、怯えながら床に伏せている人質に拳銃を向けながらそう思った。


「MとL、金庫室に向かえ。 こいつらは俺が見張っておく。」


今回強盗をしている黒人でリーダーの「B」が、私と相方の「L」に向かって言った。


「オーケイ、B。」

「ガッテンだぜ!」


 二人で「B」に返答し、私と持参の散弾銃を人質たちに向けながら「L」は、二階にあるとされている金庫室へと向かった。


 二階へ上がると、殺風景にテーブルやイスがある先に鉄で頑丈に守られた黒い金庫があった。 おそらくこの先に大金があるだろう。


「爆薬を仕掛ける、タイマーで起爆するぞ。 隠れろ!」

「おう、『耳を塞ぐ』ってのも忘れんなよ、M。」


 金庫を爆破させようとする私に、テーブルで身をしゃがみながら隠していた「L」が付け加えた。

 背に担いでた、金を詰め込む用のバッグから、掌より少し大きい爆薬を取り出し、金庫の表面に張り付け、あたかも「押せ」と言わんばかりのスイッチを軽く押す。


爆薬にランプが点灯し、私はすぐに少し遠くにあるテーブルに耳を手で塞ぎながら隠れた。




5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・




ドォォオオン!




 物凄い地響きでも起きたかのような音が、身体中に響きわたる。 耳を塞いだというのに肌が振動する。金庫近くの観葉植物は植木鉢が割れ、壁は地震後の後のような光景になっている。金庫の扉は人が入れるほどの大穴が開いていた。


 また、それと同時に警報ベルがやかましく鳴り響く。 さっきの爆発といい、耳に負担ばかりかかる。


「よぉし、やるか!?」


「ハッハッハー、金とご対面だぜ!」


「焦るなよ、L。 ゆっくり慎重にな。」



 派手なものが好きな「L」は、金庫を爆発できたことがとても楽しそうに見える。 普通の人からして見ればただのサイコパスだ。


 二人で爆発させた金庫の大穴へと向かう。足元を見ると壁の破片、爆発で崩れ落ちた天井の破片がバラバラに落ちている。


 転ばないよう少し警戒しながら大穴へ入ると、目の前には10年は働かずに生活できるほどのどでかい札束が置いてあり、その後ろにはズラリと並んだ壁面収納庫がある。


 私たちはその大金たちの隣にバッグを置き、ゴム手袋を被った手で鷲づかみできる札束達をを一つずつ手に取り、バッグに入れていく。 これの作業が中々面倒くさいが、札束を掴んでいると考えればそれなりに楽しい。 スーパーのバイトで店長から封筒に入ったチンケで貧乏くさい金と比べればまるで夢のようだ。


「使い切れねぇほどあるぜ、これなら豪邸な別荘を買うのも夢じゃねぇな。」


 私と同じ作業をしてる「L」が言った。 確か「L」はこの強盗が終わったら豪邸を買うとか言っていたな。


「そいつは考え方次第だ。」


 あらかた金をバッグに入れ終え、チャックを閉め、肩に担いだ。 さっき爆薬しか入れてなかったバッグの重さと比べると格段に重い。 まるで中学校の頃の教科書を全部持ち運んでるような重さだ。


「出るぞ、M。」


 警報ベルが鳴り響く中、金庫の爆破した大穴で大金を担いだ「L」が急かすように言った。急ぎ足で地震でも起きたような光景の二階から一階へ降りると、「B」が銀行内入り口で人質達に新品の突撃銃の銃口を向けながら待機していた。


「B、サツ共の『退職金』は回収したぞ!」


 私は肩に負担がかかるバッグを担ぎながら「B」に伝えた。


「おい二人とも、聞こえるか? サイレンだ。」


 「B」が入り口の鉄製ドアで耳を澄ましながらそう言った、確かに警報ベルほどでもないがうるさい音が外から聞こえる。ベルがなってからまだ40秒ほどしか立ってないというのに。いつものことだがこんな展開は予想外だ。


「税金泥棒がなんだ。 M、ドアを開けろ!」 


「了解、どりゃあ!」


 「L」の言うとおり、私は鉄製のドアを思いっきり脚で蹴り開けた。外は夕方で、太陽があと数分すれば沈みそうだ。

 辺りを見回すと、どうやらパトカー一台がちょうど来たらしい。また、周囲に一般人は居らず、駐車場とその先にやたら長い道路がある。 やはり「B」の選んだとおり田舎の銀行のほうがする価値はあったようだ。これならお構いなく後ろ腰に担いでる突撃銃を乱射できそうだ。


「動くな! おとなしく降伏しろ!」


 パトカーに乗っていた警察達が銃撃してきたのをいいことに、私たちも手に持っている突撃銃で警察に向かって構え、前進しながらひたすら乱射する。


「ゴー、ゴー、ゴー! 邪魔者は始末しろ!」

「カモーン! タフガーイ!」

「やっちまえ!」


 突撃銃のトリガーを引くだびにグリップを握ってる手が震える、歩きながら撃つこの感覚は最高だ。中世の兵士たちも戦争で弓を撃ったり剣を振るときも皆こんな気分だったんだろうか。


 拳銃を両手で撃っていた警察二人は私達によってで撃たれ、次々と前から二台目、三台目と増援がやってきた。


「車はすぐそこだ! 行くぞ!」

「進め! 早く!」


 「B」の言うとおり、もう見える範囲で黒色をした逃走車両が見える、あと少しだ。

 「L」は堂々と目の前で敵たちを散弾銃でなぎ倒し、「B」は軍兵のようにしゃがみながら背を低く体制を保ちつつ応戦している。敵を撃つたびに敵の血しぶきが出て、映画のように倒れていく。

 

「邪魔だ、どけぇ!」


 「L」の散弾銃が最後の一人を倒したようで、ようやく逃走車両までたどりついた。ドライバーは「R」が運転してくれる、ここまで完璧な計画だ。

 車のドアを開け、後部座席に乗る。今気づいたが、もうマスクがいつの間にかすぐ頭から取れそうなぐらいにボロボロだった。しょうがない、マスクを取ろう。「B」と「L」も同じようにボロボロだったようで、車の座席にに乗った後すぐマスクを取った。


「全員乗った? 何もたついてたのよ? へリんとこ向かうわよ。」

「黙って出せよ、フゥ!」


 遠まわしに「遅い」と言うように、左ハンドル車のアクセルを踏み始めつつ、田舎の交差点のない道路を走りながらスーツを着た「R」が言った。それに対して「L」が言葉を返した。この女と男はいつもそう、口を開けばつねに乱暴口だ。だがそれが二人にはお似合いあもしれない。


「それよりオレの活躍を見たか? サツの顔面にショットガンをぶっぱなしてやったぜ。」


「ああ、まさにマッチョだな。」


 「L」の自慢話には聞き飽きたように「B」がぶっきらぼうに返答した。





「そこの車、止まりなさい。」





「マジかよ、追いかけてきた、増援だ!」


 後ろからサイレンが近づいてくると思えば、警察が二人乗ったパトカーの増援が後ろ左から一台追いかけてきた。案の定お構いなしにこちらに発砲している。


「やべぇぞ、飛ばせ、R!」

「今はこれが限界よ、L! MとB、パトカーを撃って!」


 私は突撃銃のストック部分で逃走車両のドアウインドーを思いきり叩き破った。 ガラスの破片が飛び散ってきたが、今は気にしてる場合ではない。 パトカーに向かってとにかく乱射すし、「B」もそれに向かって発砲する。しかし・・・


「なに!? 弾が切れた!」

「シット! 弾が詰まった!」


 よりにもよってこんな死にそうなタイミングで銃がジャムを起こした。 さっきまで強盗した分のツケが帰ってきたのか? などと思ってる暇はない、なんでもいいから反撃するすべを見つけなければ――。


「ヤバイ、あいつらあたしに向かって撃ってきて―――――」



ドシュッ



 その時だった。 敵の銃弾が運悪く「R」の頭部を貫通したのだ。 先ほどまで必死に握っていたハンドルは人形のようにガクッと離れ、前を向いていた首も力が抜けたように真下を向けて、頭から血が出ている。


「おい、R! R! くそっ駄目だ、死んでる!」


 「L」が人形のようになった「R」の肩を掴み、何度も呼びかけるがまったく動かない。しかたなく隣席にいた「L」は警察の発砲が続く中、前左ドアを開け、「Rの死体」を運転席からほうり出した。

 「Rの死体」は流れるように運転席から落ち、勢いにのったまま道路に転がっていった。


「クソがぁ! よくもオレのダチを殺りやがったなぁ! 死んじまえぇ!」


 「L」は激流に怒りを任せたまま運転席に移り、ハンドルを持ち思い切り左へ曲げ、パトカーに自身の乗っている車をそのままパトカーへぶつけた。 

 そのぶつけた「ガツン」という鈍い音とともにパトカーはバランスを崩し、そのまま近くにあった電柱に激突した。 あの様子だともう追いかけることはできないだろう。


「ザマミロこの税金クソ泥棒が!」


 大声で暴言を吐いた「L」の次に休む暇もなく「B」が言った。


「おいおい見ろ、目の前にスパイクベルトだ!」


 「B」の言った通りに、前を見てみると、目の前にはなぜかスパイクベルトがポツンと仕掛けてあった。 なぜだ? 辺りを見回しても仕掛けたような奴は見当たらないし、サツもさっき「L」が潰したのが最後に見かけた奴だ。


「うおおおおお! 衝撃に備えろ!」


 私たちが乗っている車は目の前にあるスパイクベルトに突っ込み、タイヤはすべてパンクしたうえ、まるで川に流されるように横回転し、最終的にヘリ近くの目印である黄色い電柱に横転した。 ウインカーは外れ、ボンネットはへこみ、右後ろのドアもはずれ、もはや私たちの車は車と言えるものではなくなってしまった。

 だが運がいいのか悪いのか、ちょうどヘリ降下地点まで到着した。


「はぁ・・・はぁ・・・M、L、無事か?」


「あぁ、なんてこった・・・一応大丈夫だ。」


「クソ、Rが死んじまうなんて・・・。」


 どうやら私たちは「まだ」無事らしい、一人犠牲になってしまったが・・・。 気がつけばみんなボロボロだ、私は破壊したドアガラスの破片が左腕に刺さって血が出ているし、「L」はさっき横転した車の衝撃で顔に擦り傷ができてスーツは破れているし、「B」も同じだ。

 


「おい、車を捨てるぞ、この道を行けばヘリがある。」


 散弾銃を手に取ったまま、「L」は車を捨てそのまま真っ直ぐヘリ地点まで向かうらしい。 だが駄目だ、計画ではこのルートは通らない。


「駄目だ、計画に従えよ。」

「は?」

「計画に従えってんだよ! 行くぞ。」


 「L」を引きつれ、三人で計画したルートと歩き通り始める。辺りはかなり暗く、上を見ると天気は曇っている、もう夜近くだろう。ここまでくればあと少しで金持ちだ。



「一体ヘリはどこだ?」



 「B」が言った。おかしい、本来のヘリ地点にヘリがどこにも見当たらない・・・。


「俺は後ろを見てくる。 お前たちは前を探して・・・ぐァああぁああ!」

「クソ! スナイパーだ、隠れろ! 誰かチクリやがったな!」


 とうとう運が尽きてしまったのだろうか、スナイパーに胸を撃たれた「B」はそのまま地面に銃を落とし、胸を抱えたまま倒れた。


「ア・・・・・がッ・・・ちくしょう・・。」


 私はただただ苦しんでる「B」に近づき、自分の左手を胸に当てた。


「まだ心臓は鳴っている・・・。待て、ブラボーは大丈夫だ。」

「んなことは後だエムシー! さっさとどっかに隠れろ!」

「シット・・・早くここを離れないと・・・ぐオァっ!」


 急に肺に今までに知らないほどの激痛がはしった。


「ぐぇえええぇえ! ああああああ!」


 痛い、今の自分にはそれしか感じられない。痛すぎて地面に倒れてるのかすらも分からない。


「あああああああ! ガッ・・・、逃げろ・・ランス・・・。」

「ダメだ! 見捨てねぇぞエムシー!」

「わた・・しはもう無理だ・・・出血で死・・・ぬ・・。」


 激痛が走る中、パトカーのサイレンが聞こえてくる。私の人生はこれで終わりなんだろうか・・・。


「クソッタれぇぇぇぇぇ! クソやろうどもがぁぁぁぁぁ!」


 ランスの叫び声、散弾銃の銃声、パトカーのサイレンが激痛とともに聞こえてくる、それもしだいに小さくなり、なぜだが肺の痛みも少なくなってきた。目の前がボヤけて黒くなってくる。今どこにいるのだろうか、血だらけの地面にいるのか自宅で寝ているのか検討もつかない。もうよそう、いっそここで寝てしまおう。












エムシー・セロスタ、強盗逃走時に肺を撃ち抜かれ、出血多量で死亡。 27歳没。


 

















第一話です。え? 異世界要素はどこだって? それは次回から本格的に行います。あくまで経緯ってことで。

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