嬉しさと悲しみの溢れる場所
今日の病室は慌ただしい。
『お世話になりました』
『元気でね』
『バイバイ』
と手を振ってお母さんと手を繋ぎ、お父さんが大きな荷物を持って笑顔で病棟を出てお家に帰る女の子。
何回も振り返り笑顔を見せてくれる。可愛い洋服を着て退院をしていく。
女の子を見送り病室を見てみると、既に女の子が使っていたベッドが、消毒されベッドメイキングされていく。
さすが慣れているんだなぁ…と実感させられる看護学生。
元気に退院をして行った女の子の余韻に浸っている看護学生をよそに、看護師さん、清掃担当の契約会社のパートさん。それぞれが自分のやるべき事を淡々と進めていく。
看護学生にも指導看護師より指示が出される。此処にはまだたくさんの子供たちがいる。
元気になって退院できた女の子のようにここにいる全ての子供達にも味わってほしい。
広い外の世界を知ってほしい。
同年代の子供達と今しかできない事をしてほしい。
そう願って看護にあたる。
しかし残念なことに元気に退院できる子供達ばかりではない。
『菜須さん、507号室の○○君の転科準備をしましょうか』
『はい』
看護記録をはじめとする書類、○○君に関すること全てを次の診療科へお願いするための準備。
症状が悪化してきたため転科する。退院した女の子とは真逆の出来事。
ベッド毎、たくさんの管に繋がれて移動する小さな男の子。
心の中で「頑張るんだよ。病気に負けちゃダメだからね」と小さな男の子に
エールをおくる。
モニターやたくさんの医療機器に囲まれ生きるために戦う小さな男の子。
空になったベッドを押して小児病棟へ戻る。
指導看護師から看護学生にあたたかな言葉が降り注ぐ。
『菜須さん、あなたの看護への取り組み方や患者さんを相手にしているとき等を見てきて、あなたは近い将来、まちがいなく看護師の道を歩んでいると思う。看護師になって初めてぶち当たるのか学生の内に教えてもらうのでは心の葛藤が全然違うから私は、あなたにとても期待しているから、教えておくわ』
と話を始めた指導看護師。
看『今の○○君、どう診てる?』
よ『転科ということで。専門医の治療を受けて治療頑張って欲しいと思います』
看『学生ならそれでいいと思う。でもね、検査結果も含め看護記録見た?』
よ『詳しくは見ていませんでした』
看『うん、転科だったしね。指導看護師としてあなたには育って欲しいから厳しいかも知れないけど正直に伝えるわね』
なにやら聞いてはいけないような気さえしてくる。
看『この病棟、緩和ケア専門病棟よ』
よ『えっ?』
今来た道を思わず振り返る。
看『余後説明も済ませてある。痛みを和らげてあげるだけになる。それは小児内科病棟の担当では無くなるの。他にも患者さん待っているしね。はっきり言うわよ、終末期のケア専門病棟で治療ではなく痛みや苦痛の緩和を行うの。まだまだ幼いけどね。私たちは避けては通れない道だからあなたにも真正面から受け止めて欲しい問題なのよ今の内に体験してほしかったからこの担当を菜須さんと私で行うことを決めたのよ。必ず立ち上がってくれると信じてるから、溜め込むことをしないで私に話して良いからしっかり学んでいって』
と言ってくださった。緩和ケア…。今朝までは、治療をしていたと思う。たった今からはターミナルケア?! 専門医の治療じゃないんだ・・・。心に重い何かがのしかかる。
看護師になるなら当たり前にある日常だと思います。指導看護師の私へ期待して下さってそして私を育てるために敢えてこういう現場を経験させていただいた。頭で理解していても心が直ぐに追い付いてこない。
看『今年の国試16項目の内10項目で改訂されて難易度上がっているらしいじゃない。今、私が受けたら落ちるわね、あはは。経験は臨床で積める。学力に関して言えば今の学生の方が確実に上のこと学んでいると思う。だから自信を持ちなさい。菜須さんならできるはずだから』
と、励まして下さいました。病棟に戻ると
『よつ葉ちゃん帰ってきた』
退院した女の子と同室の女の子が私の帰りを待っていたとのこと。
『ただいま』
と返事をすると笑顔で
『よつ葉ちゃんのもしもし』
ん? 私のもしもし? 何だろう。
主治医と看護師さんがナースステーションから姿をみせた。
主治医の岡崎医師が
『回診フォローが、よつ葉ちゃんじゃないと嫌って言って回診させてもらえないんだ。手伝ってもらえる?』
岡崎医師に言われた。指導看護師に確認をすると「付き添うわ、行きましょうか?」と言って下さいました。
必要な物を持ち女の子と手を繋いで病室に戻る。その後ろを指導看護師と主治医がついてきている。この女の子大物だなぁ…と変なところで感心するよつ葉。
無事に回診を終えてナースステーションに戻る。
『すごく助かったよ、ありがとう。直ぐにでも欲しい逸材だよ』
岡崎医師に誉めてもらえた。
指導看護師からのお言葉です。
『医師の行動をよく見ていて手順も悪くなかった。フォローもできていたと思います。何より患者さんに信頼してもらっていたしね』
『ありがとうございます。しっかり勉強させていただけました』
毎回、同じとは限らない病棟内の出来事に日々対応していかないといけない。
色々な経験をさせていただき、看護の現状を肌で感じることができました。
退院した女の子へ
キラキラ眩しいお外の世界はどうですか? たくさんの事を経験していってくださいね。
緩和ケア病棟へ転科した男の子へ
痛いところ無いかな?
生きる力を教えてくれました。
ありがとうございました。
小児内科病棟の医師・看護師の皆様へ
今回、たくさんの事を教えていただきました。そして、たくさんのお言葉をいただきました。しっかり心に受け止めました。ありがとうございました。
小児内科病棟のみんなへ
早く元気になあれ。