第九話:結婚報告
通貨などの単位が現代日本を基準にしているのはお約束です。分かりやすさ重点!
むしろ日本じゃないからと言ってフィクションなのに、なぜ単位を変える必要があるだろうか。
さて、ちょっとばかりニーティの可愛さに脱線した感はあるが、今日のあたしは食事をするためにギルドへと来たわけだ。
冒険者ギルドは食事も出来るため、ご飯時には一般の客もよくやってくる。
モーニング、ランチは1000円以内で豊富なメニュー。自炊をするあたしだが、それでもギルドの食事はちょくちょく食べにくる。むしろ食事以外でギルドに来ることは少ない。
そして朝食をギルドで食べる時のあたしの食事はこれまでずっと同じメニューだったのだが、今日は麦飯と塩じゃけ。それに豚汁と漬物。
ふふふ、あたしもニーティと暮らすようになって変わったもんだな。
「まったくもう! インフィはいつもギルドで朝を食べる時はギルド嬢の腋おにぎりと決めていたのに!
恋人が出来た途端、食べないだなんて信じらんない!」
「ふふふ、それが家庭を持つ女ってやつさ。悪いな♪」
ギルド嬢たちは百合の街だけに美人でやはりレズい娘ばかりであり、あたしは来るたびに彼女たちの腋で握られたおにぎりを食べていた。
でもな、恋人と一緒に来ての食事でまで腋おにぎりを食べるだなんて、そりゃ無いだろう。
今日の腋おにぎり担当のギルド嬢はマリカちゃん。今年から大学を出て新卒でギルドに入ったばかりの新人さんで人気者だ。
ニーティは恋人の余裕なのか、あたしの隣でお新香をポリポリと食べている。時々向けられる周囲の羨望の眼差しにはドヤ顔で返し、男女問わず百合眼力でノックアウトしていっている。可愛い♪
「まぁ、いいわ。それよりニーティちゃん。
私はこのギルドの新人にして一日200個の腋おにぎりを売り上げたマリカっていうの。
インフィさんが取られるのは悔しいけど仲良くしましょ♪」
「あ、はい。どうもです。ニーティって言います。
見ての通り、淫魔としては出来損ないですが、インフィさんを満足させられるように努力していきますです」
未成熟な四肢に宿る百合力。そして恋心。
その健気な様子のニーティにマリカ嬢もあっさりと陥落したようだ。
「ちょとちょと! インフィさんッ!!
ニーティちゃんって淫魔としては幼い姿だけど無茶苦茶可愛いんですけど♪」
「だろ? むしろ何でこの儚げ幼げロリロリなニーティの魅力が同族には効かないのか分かんないよな?
あたしは別にロリコンじゃなかったのに、ニーティだけは特別だぜ♪」
がっしりとマリカ嬢と手を組んで分かり合う。だよな。ニーティって可愛いし、こんな娘がとびきりえっちぃ女の子だったら興奮するわな♪
「でもインフィさん。この子と結婚するつもりなんですよね?」
「ん? そりゃまぁ~な。
結婚式はまだ未定だが挙げるつもりだし」
「じゃあ女遊びも控えたり……しちゃいます?」
「そりゃ独身の頃みたいに毎晩遊びまわったりは出来ないだろうよ。
悪いな、あたしの本命はニーティだから、それを純愛で示したいんだ」
そこでマリカ嬢はため息一つ。
「……あのですね、インフィさん。
遊ばないってのは、あなたが賢明に口説いていたクラレさんとも遊ばないってことですよね?
あと、私も?」
「ふふふ、クラレちゃんやマリカちゃんだけじゃないさ。
リジレちゃんとも、リスモちゃんとも、エライドちゃんとも、スドリちゃんとも、チロキちゃんとも、合意が取れても関係は持てないんだ」
ニーティと出会って街へと帰還して一日。それだけのじかんがあればそれまでのあたしだったら何人かと遊んでいたと思う。
でもずっとニーティと一緒だ。正直に言えばかなり悩んださ。
この街でこれまでに関係を持ってきた女の子、それに関係を持ちたくて誘いまくって来た子たちと、さらに身体だけの関係を続けてきた女性は多い。
そうして老いさらばえていくと思っていたし、それを誇らしくも思っていたんだが、ニーティの隣にいるにはそれではダメだと気づいてしまった。
「あたしが生涯愛することを誓ったのはニーティなんだ。
他の誰でもない、ニーティだけがあたしの心を埋めてくれる。
そしてあたしもまた、ニーティの心の隙間を埋めてあげたいんだよ」
あたしのことだから、ふざけた回答をすると周りの誰もが思っていたんだろうな。
でもさ、純愛を貫くってのはこういう時こそ真面目に答えなきゃ意味がないと思うんだ。
周りの連中は感嘆したり拍手したりと、周囲の誰もが驚いた顔しているのが分かる。
って、おいニーティまで驚くなよ。お前はあたしの嫁なんだろ!
「いや、すいませんインフィさん。
嫁とか言って、そこまで愛されているだなんて思わなかったもので
インフィさんモテモテですし」
「そうだよねぇ~、インフィさんってば本命が居ても誰彼構わず股を擦り付け合ったりしそうだもん♪」
がっしりと握手して絆を深め合うニーティとマリカ嬢。おいおい、初対面でそこまで仲良くなるだなんて二人も相性がいいじゃないか。
「まぁ、そういう訳だ。
心の隙間は誰かを“好き”って気持ちで埋めるためのスペースなんだからさ。
その隙間を全部あたしだけで埋めたくなるんだよ」
それだけニーティには惚れちまったのさ。
サッと朝食を流し込んだあたしは、とっくに食べ終えていたニーティを連れてギルドを出ると、直後に大歓声がギルドの外にまで聞こえて来た。
おそらくあたしとニーティのカップル誕生を誰もが喜んでくれているのだろう。
中には喜んでくれない子もいるかもしれないし、ニーティを狙う不埒者だっているかもしれない。
それでも、あたしの愛するニーティを大勢に認めてもらえたことが堪らなく嬉しいんだ。
「インフィさん、私これからもインフィさんのことだけを愛し続けます♪」
花のように笑うニーティの幼いながらも強い笑顔にあたしも誓おう。
「あたしも、ニーティだけを愛することを誓うよ」
堪らなくなったあたしは、人目もはばからずに大通りのド真ん中でニーティを抱き上げてキスをした。
この子を生涯愛し、幸せにすることを改めて誓うのだった。
しかし考えてみると一番遊んだレースゲームは『ロックマン バトル&チェイス』だったかな?