第三話:茶飲み話として聞いちゃくれねぇか?
サバナの街――それは、あたしのことを紙一重で天才と呼んでくれる人間が何人かいて最強のS級冒険者の暮らすホームタウン。ちなみに、あたしのことな?
人口はおよそ46万人。国内で二番目に大きな都市であり、かつて伝説と謳われた空賊団との友誼の証として百合の花が街中で育てられている百合の街(二つの意味で)。
そんな大きな街で有名なあたしなのだから、行きは一人だったのに帰りに小さな女の子一人を連れ帰ってきても「あぁ、またこいつは女の子を引っかけて来たのか」と好意的に受け止めてもらえるはず!
……そう思って特に何も考えずにニーティを嫁にするべく連れて帰って来たあたしだが、街へ入るための審査で引っかかってしまった。
「ちょっとインフィさ~ん。ロリ誘拐はまずいっすよ~?」
「うっせ! この子はニーティ。あたしが森で拾った嫁!
他はよく知らんから説明しようがない。それでいいだろ?」
門番をしていた衛兵は顔見知りなのだが、だからこそ止められてしまった。
あたしが女の子に優しいのは知っているはずなのにな?
「インフィさんのことは知っていますが、身分証もない怪しい魔族を入れるのはちょっとね~。
別に魔族排斥なんて時代錯誤は言いませんがね? 魔族って子どもでも成人した大人よりも強かったりするから正規の手続きくらいはしてもらわないと、ね?」
あとは、万が一にもあたしが劣情のままに攫ってきた可能性も捨てがたい、とまで言われてしまう。
あたしはそこまで信用がないのだろうか?
隣で様子を伺っていたニーティに視線を向けてみると、
「もう、インフィさん。手順はきちんと守らなくちゃ駄目ですよ?
この門番さんが言っていることは正しいですし、普通は森の中で幼い女の子が一人でいたから連れて来た、なんて信じてもらえるはずがないですもん」
「いや、その普通じゃない方法で恋人探してたニーティが言うか?」
「私もまた、普通じゃありませんから(フッ)」
とのこと。
「はいはい、お二人が恋人同士なのは分かりましたから、きちんと入街審査の用紙に記入してくださいね?
事情は分かりましたが、万が一……本当に万が一インフィさんが嘘言ってたら未成年者略取になっちゃいますからね?」
「あたしが守るのは法律よりも百合の心さ!
伝説の百合である、あたしの母さんや婆ちゃんの名に懸けて、この子があたしを伴侶と言ってくれる限り一国の王だってぶん殴ってやるぜ♪」
背中に「百合ッ!」という効果音が後光と共に出てくるようなセリフ回し。
ふふっ、遠巻きにあたしらの様子を見ていた可愛らしい百合の花たちも瞳を潤ませているぜ♪
あぁ~、このままつまみ食いに行こうかな~♪
「……インフィさん?
私と婚約してすぐに浮気ですか?」
「ニ、ニーティ……さん?」
何故だろう。笑顔であたしの袖をつかんでいるニーティが、大魔王もかくやという恐ろしさをにじませている気がする。
こ、これが、もしや嫉妬!? うわっ、遊びでしか肉体関係持ってこなかったからちょっと嬉しい♪
ロリ嫁の怒りの炎で燃やし尽くされてぇ♪
「ふぅ……、これで喜ばれるだなんてインフィさんは変態さんですね」
「ぐはっ! 幼女の一言が心を抉る!
しかし何だろう……、少し快感を覚えてしまう♪」
ニーティと出会ってから、あまり時間も経っていないのに初めての感情が沢山湧いてくる。
勇気凛々! ハートバクバク! 当方に百合心あり! 覚悟完了、辛抱堪らん♪
「ニーティ~~~♪ ここで抱かせろぉ~♪」
「うわぁ!? こんな往来でえっちなことはダメですよ!!」
構うもんか! あたしはこの子の伴侶として何時如何なる時も愛することを誓ったのだから、真面目な空気でも発情して愛することを誓う……って、アレ?
不意に頭に何だか強い衝撃を受けて振り返ると意識が闇に沈んでいくのを感じた。
「スタァァァップ! 幾ら百合の街とはいえ、人目のある場所で幼女を脱がし襲おうとするのはS級冒険者でも罪! 覚悟せよ!」
下っ端門番では埒が明かないと思われたのか、あたしは門番隊隊長に脳天をチョップされ、四方を衛士たちに囲まれたところで意識を手放した。
最後に、ニーティの柔肌をむにゅりと揉んで、その薄くも確かにぬくもりを感じさせるちっぱいに心を躍らせながら……。
「(お、ニーティめ、こんな時でもお胸のぽっちがえっちな主張をしてるぜ♪)」
次に目を覚ました時には自宅できっちり抱きしめようと思うのであった。
~キャラ紹介:サバナの街の衛兵たち~
S級冒険者インフィのみならず、高ランク冒険者が多く暮らす街の衛兵であるため練度はかなり高い。
隊長格の衛兵は特に筋骨隆々のマッチョマン揃いであり、岩をも砕くチョップはインフィであっても眩暈を起こす! 抜群の破壊力!
インフィは強いとはいえ身内には弱いのでこんなもんですね。この辺がギャグ補正。
なので気絶中に剣や槍を叩きつけても傷一つ付かない。