最終話:生涯愛する
これにて最終回ッ!
あたしはこれまで、恋をしたことが無かった。
母さんと一緒に暮らしていた時も、サバナの街に越してきて一人暮らしを始めてからも、あたしの家は客が多い。
だからだろうな。何時だって騒がしくて寂しいなんて思うことは無かった。
友人たちも泊まりで朝までどんちゃん騒ぎして、ナンパして連れ帰った女性と肌を重ねて燃えるような一夜を過ごすこともしょっちゅうだ。
確かにそうした生活は楽しく、幸せを感じる日常だ。でも、たった一人の心から愛せる伴侶を求めるようになってからは物足りなくなっていた。
それがどうだろう。ニーティと出会い、あたしは恋をした。生まれて初めての感情は色々なことを教えてくれる。
一緒に暮らすようになってからの日常の輝きは、今までの人生がひっくり返るほどに驚きの連続で、恋が愛に変わるのもすぐだった。
朝起きると隣に彼女がいて、
食事の時は目の前に笑顔があり、
街に出れば手を繋いで歩幅の違いを彼女に合わせるように歩いて、
夜には一緒にお風呂に入って、
ベッドでも肌を重ねて、
……そんな日々に幸せを実感する。
魔族であり淫魔、何故か幼い容姿をしたニーティは彼女と同じ他の魔族から奇異の目で見られることもあるが、あたしと一緒にいることで彼女もまた幸せを感じていると思っていた。
それは事実だろう。あたしもニーティも、共に生きることを幸せに感じていた。
だが、ちょっと違ったのは、ニーティの過去が想像よりも厳しかったってことだろうな。
いやまぁ、ロリコンに目覚めた今のあたしにとっては些末な問題だからか、今まであえて触れないように
していたものを直視することになったって訳だ。
◆ ◆ ◆
「……ニーティ?」
「……」
朝起きて隣を見れば、布団が大きく盛り上がっていた。
着替えを布団の中で温めてから着替えているのかとも思ったが、今はそこまで寒くもない。
不思議に思って捲ってみると、中にいたのは全身から黒く禍々しい触手を生やしたニーティの姿であった。
……え? イメチェン?
「……見られてしまったようですね」
「あぁ、見たが……、それどうしたんだ?
何かの魔法か、淫魔の能力か? 淫魔って凄いんだな」
どこまでも楽天的なのはあたしの長所。とはいえ、どうにもこの返しは良くなかったようだ。
「私は淫魔……。だけど触手に全身を犯された淫魔なのですよ。
聞いたことありませんか?
少し離れていますが乱立する樹木が全て触手で構成されている危険な森のことを」
「ん、あぁ、そりゃな。“触手の森”だっけ?
海を越えた別の大陸らしいし、行ったことは無いが」
「その森の触手に捕まった女の子は、精神を壊されなければ全身を作り替えられて強くて不老になるんです。
私は、人工的に作られた……犯された触手魔族です」
なんでも聞くところによれば、その森に生えている触手を輸入して様々な種族の女性を実験体にした触手改造が行われていたらしい。その生き残りがニーティなのだとか。
これだから嫌だねぇ~、権力者ってのは。出会っていればあたしがぶっ飛ばしてやんのに。
「ほとんどの実験体は精神を汚染されて、廃人になったので処分されました。
幸いにも兵器として出荷される前に組織は壊滅されたので生き残りは助けられましたが、性欲が強くなりすぎて娼婦になっている者ばかりだそうです。
私は淫魔なので性欲の制御は得意で隠していたんですけどね」
「ふむ、それでその姿は制御に失敗したってところか?」
「そうなります。
この姿になると私は精神的にも触手そのもの。女を犯せという謎の声が響くんですよ。
インフィさんと出会う前に恋仲になった女性は何人かいましたが、みんなこの姿での行為に果てて亡くなってしまいました……」
色々と過去にあったんだろうとは思ったが、想像よりもヘビーだな。重力崩壊を起こしそうだぜ。
「インフィさん……、今までお世話になりました。
この姿になってしまったのはインフィさんへの愛が強くなりすぎたため。
愛しているからこそ、私たちの関係を終わらせようと……、思います」
「あ~、待て待て。ちょっと待てよ。
関係が終わることを前提に話しているようだが、あたしが強いのは知っているだろ?
別にいいじゃん。滅茶苦茶にあたしを犯してスカッとすればいいんじゃないか?
その姿になってもニーティへの愛は変わらないさ♪」
我ながらナイスなアイデア。ただしこれもまた良くない返答だったようだ。
「今までにインフィさんと同じことを言った恋人がいなかったと思いますか?」
なるほど、まさかあたしの全力を受け入れて毎夜よがり狂っていたニーティに余裕があったとは思わなかったな。
と、あたしの感想はこの程度だ。別に見た目が全身触手まみれだからって引いたりしないさ。可愛いし♪
全身から触手を生やしたニーティがベッドを降りようとしたが、その手を掴む。
だってそうだろ? あたしは生涯愛すると決めてんだ。掴んだこの手は決して離さない!
「なぁ、ニーティ。
前の君の彼女たちは残念な結果になったかもしれないが、それを後悔した子はいなかったんじゃないか?」
「そうでしょうね。
皆さん、私なんかを愛してくれましたし私自身も愛していましたから。
逃げ出す人もいましたが、むしろ逃げてくれた方がお互いにしあわせなんでしょうね」
「じゃあ、あたしがこの後どうするかも分かるよな?」
「ッ!? 正気ですか!? だって私はこんな化け物の姿で……」
身じろぎするニーティ。しかし彼女を掴む手は離さない。
「生涯愛するって、言っただろ?
それを証明するだけさ」
ニーティの顎に手を添えて逃げようと身をよじる彼女に強引にキスをした。
それが合図になったのか、ニーティの全身から生えた触手があたしに襲い掛かってくるが、そんなものは気にしない。
誰かを愛するってのは自分の人生をくれてやることだ。これ位は覚悟の上! 人を愛するのはいつだって命がけさ!
「離してください!
インフィさんまで殺してしまったら私ッ!!」
「あたしを信じろよ」
触手があたしの身体に突き刺さっていく。
細く針のようになった触手が皮膚を破り血管や骨にも入ってくるが、百合力を治癒力に変換して耐える。
たったそれだけで本当のニーティを抱けるなら、安いものだ。
「ん、んむぅ……」
「んはぁ、んぅ、……ニーティ、愛させてもらう、ぜ……?」
「逃、げて……」
「逃げないさ」
ニーティの下の毛は外見相応にまるで生えていない。だからだろうか? 彼女の小さなクレヴァス周りから生える触手をかき分けていくのが新鮮な気持ちにさせてくれる。
幼いけど剛毛。それもいいな♪ 手に何本も突き刺さってくるから痛いけどな。
「まぁ、変わったって言っても全身触手だらけってだけだろ?
中の具合までは変わらないだろうし、遠慮せずに快楽を楽しめよ?」
ずりゅっ、と。あたしの指が触手をかき分けてニーティの中へと入っていった。
「んぐぅ!」
「おっと、まだまだこれからだぜ?」
嬌声が漏れ出た小さな唇に、自分の唇を再び重ねて塞いだ。
「ふーっ! ふーっ!」
唾液で濡れて完全には防げていないが、だからこそニーティの荒い吐息が頬にかかって興奮する。
舌に感じるニーティの温もりは今も変わらず温かい。化け物なんかじゃない。命あるあたしの愛する伴侶――半身だ。
「ぐっ……!」
「ッ!? イ、インフィさん。もうやめてください。
全身から血が出てるじゃないですか!」
言われて気づいたが、あたしの身体は治癒力が追い付かないほどに血に塗れている。
ニーティの身体から生えた触手が皮膚だけでなく骨や血管まで切り裂いているんだろうが、筋肉を締めてひたすら耐える!
あたしにも寄生するつもりなんだろうが、望むところだ!
「いいか、ニーティ?
あたしは愛のために生きているんだ。
長生きを求めている訳じゃないが、ニーティを愛するのに種族を変える必要があるなら受け入れるさ」
ニーティの瞳が驚愕の色を見せる。
まぁ、そうだよな。触手に全身改造されて不老になったってことは、そのニーティに寄生する触手に犯されて生き残れば、あたしも人間を辞めるってことになるわな。
でもさ、これってあたしにとっちゃ本当にどうでもいいことなんだよ。
「あたしは何時だって心に隙間を抱えていたんだが、ニーティに出会って変わったのさ。
昔、誰かの残した言葉なんだが、心の隙間ってのは誰かを“好き”な気持ちを入れるためにあるらしいぜ?」
「イ、インフィさぁ、ん……」
次の瞬間、ニーティの全身から生えた触手による攻撃が一層苛烈になった。
全身が性感帯になる感覚。それを味わいながらも抱き寄せた両腕に抱える彼女の温もりは決して離さない。
重ねられたお互いの胸には確かに命の鼓動が響いている。
緊張や恐怖、そんな感情もないではないが、鼓動を早めているのは何よりも愛の力だ!
そうして意識が薄らいでいく中、それでも心の隙間が本当の意味で埋まっていくことに安堵しているのだった。
ニーティの背中に両腕を回すと、彼女もまた、震える手をあたしに回してくれた。
何度も繰り返してきた愛の絆。これまでも、これからも続いていく。いや、続けていくんだ。あたし達の愛の力で!
「ニーティ……愛してるぜ。
これでもまだ、あたしを信じられないか?」
「私も、インフィさんのことを愛しています。
ずっとずっと……、一緒に並んで生きていきたいです」
小さな身体にどんな思いを抱いて生きて来たのか。でもそれも今日までだ。
見つめ合う瞳はお互いにたった一人の伴侶のみを見つめ続け、そこで意識が薄れてベッドに倒れ込むのだった。
◆ ◆ ◆
「……いやぁ~、何かあたし人間辞めちまったな♪」
「……」
あたしの目が覚めたのはニーティとの触手プレイの次の日だった。
あの後、丸一日眠り続けたあたしは、次の日に不審に思った冒険者ギルドの友人らが発見するまでそのままベッドの上で裸で寝ていたそうだ。
ニーティの身体から生えていた触手は、あたしの肉体改造を終えると引っ込んだらしい。意識があったニーティが事情を説明してくれたおかげで今は全身の感度が増してピリピリした感覚が残る程度で普通に動けている。
普通は廃人になるそうだが、その辺は「流石はあたし!」と自画自賛しておこう。
「それにしても凄いですね。インフィさん。
私は淫魔だからですが、人間が森の触手に肉体改造されたら普通は性欲に勝てないそうですよ?」
「ん、まぁ、あたしだからな♪」
「その言葉一つで納得できてしまいます」
色々と問題もあるのかもしれないが、それでもこれはあたしが自分で選んだ未来。自分でつかみ取った現実だ。
手の届く場所に愛するニーティがいる。それだけをずっと探し求めて来たんだ。肉体改造くらい気合で乗り越えるってもんさ♪
「そ、それではインフィさん。
不束者ですが、これからもよろしくお願いします」
幼さに似合わぬ色気を纏うニーティは頭を下げてくるが、そんなもんは必要ない!
「おいおいニーティ。
あたしらは生涯愛し合う仲なんだぜ?
いっちょヤらせろよ、の軽い一言でいいさ♪」
……自分で言っといてなんだが、告白の言葉にこれはないんじゃないだろうか?
だがそんな馬鹿なことを言ったあたしにも、ニーティは笑っていった。
「はい! インフィさん、一発ヤらせてください♪」
「望むところさ♪」
これにて肉体改造の次の日も一日中ベッドから出ることは無く、また次の日に心配した連中が見に来て最高の濡れ場を目撃されてしまうのだが、その辺は割愛だ。
溢れ出した百合力は家の壁を貫通し、サバナの街中に光り輝くオーラとなって広まり住民の鼻血が用水路を赤く染めた。
この日が“血の一日”と呼ばれる祝日となった訳だが、そんなものはどうでもいい。
目の前にニーティがいる。それだけで十分さ。
◆ ◆ ◆
それからの出来事を語ると、あたしとニーティは触手を自在に操る百合カップルとして冒険者稼業でもさらなる活躍を続けた。
ニーティも触手を用いれば戦闘も出来ることが知れたのも、こうして深い関係になったからだろう。
人間を辞めたことであたしは百合の頂きに届いたのだろうか?
祖母ちゃんや母ちゃんの領域は遥か空の上だと思っていたが、どうなんだろうな?
だが、それも今に至ってしまえばどうでもいいことだ。
今はまだ先の事なんて分からないが、それでも隣をずっと歩いてくれる小さな愛しい女の子を生涯愛すると誓った言葉に嘘はない。
生涯がどれほど遠くまで続くのかは分からないが、それこそ死ぬまで。あたしが側にいる。
「インフィさん……大好き♪」
「あぁ、あたしも愛してるぜ、ニーティ。大好きだ♪」
そうしてもう何度目かも分からない濃密なキスを交わして今日も触手の性欲をベッドで発散する。これまでも、これからも。
生涯変わることなく、あたしはニーティを愛し続けるんだ。天に至るまで。百合の一念でな♪
~おわり~
どうも、ここまでお読みいただきありがとうございました。
細かい後語りは活動報告にて朝にでも投稿しようと思います。ただいまGWの疲れからか風邪なもので。
今回も色々と書きたいものを最後まで書いて完結を迎えることが出来て楽しかったです。
どうか、私の小説を書く楽しさが一人でも多くの読者の方々にとっての読む楽しさでありますように。
あと、そこから書く楽しさに目覚めて読み専から書き手へと変わっていく人もいればますますうれしく思います♪
また次回作でお会いしましょう♪