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今家に帰ります  作者: tomoji
開かれた目と口が呼んでいる。
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トム

豚男戦決着

 突如、地面の下から突き上げるような衝撃が走った。それはトムには身に覚えのない出来事だった。


トムは警戒を強める。そしてここで気付く。地面に無造作に落ちていた喋る鬼の面が無くなっている。嫌な予感が頭をよぎり池の水面に目をやる。


すると池の中央にアライが水面からゆっくりと浮かび上がり、水面の上に佇んでいた。


顔は、見えない。


瞳孔の開いた山吹色の六つの眼が光る鬼面を被っている。昨日の歩兵戦とはまた違う模様を浮かべていて、より一層禍々しさが増しているように思える。口の部分が形作られていない面の向こうから酷く喉がかすれた人間の呼吸の音が聞こえてくる。


面もさることながらトムが注視していたのはアライが右手にもっている武器。暗く、黒く、形が定まらない、脈打つ刀。それはオケラが使う『カゲ』と類似したものだった。人間の鬼人化によるカゲの使用は聞いたことがない。あれは本来、オケラが第八界から来た時に持ち込んできたものだ。鬼人化した程度であれを解析、使用まで出来るはずがない。


トムはマキの反応をみる。主人が生きていて安心しているような顔ではない。むしろ自分と同じように警戒した様子で水面に立っている男を睨んでいる。あの勇者の姿は神使にとっても想定外の事のようだった。


「・・・随分と派手な顔を被って帰ってきたな。会話は出来るのか?」


アライは返事をしなかった。出来ないのかもしれない。


トムは更にアライの姿を注視していると奇怪な面とカゲの刀に気を取られていて分からなかったがアライはもう片方の手にも何かを掴んでいた。それは白く光沢のある折れたジャイアントウルフの牙だった。その事に気づいたとほぼ同時に先ほどまでアライと戦闘中だったジャイアントウルフの首と胴体、手足がバラバラにされた状態で水面に浮かび上がってきた。池の水は一気に血の色と化し、トムの焦燥を煽る。


「ッ・・・!チィッ・・・!!」


トムは身構えながら後ろに下がる。人の力で行われたものではない。明確に、人外の業だった。警戒心を強める。


アライは手に持っていたカゲの刀とジャイアントウルフの牙を足元に捨てると腰に差している直刀に手を伸ばす。居合の構えから、水面を蹴り、トムに向かって跳ぶ。マキはこの瞬間、身の危険を察知しトムと歩兵から離れる。


トムも当然危機的のようなものは感じていたがまだ落ち着きはあった。

(こいつは速ぇ。だが直線的すぎるぜ勇者様ぁ!)


「ッラァ・・・!!!」


トムの口から放たれた灼熱威吹。例え屈強な勇者でも触れた瞬間掻き消える程の熱の塊。それがアライに直撃した。


「ハッ・・・!!悪いな、ちゃんとこういう魔物っぽい技もあるんだよォ!!」


勝った。生き残った。トムはそう思っていた。


だがアライは生きていた。それどころかトムの攻撃を直に体に受けながらひるむことなく真っすぐに突き進んできていた。トムは理解出来なかった。例え強化された勇者でさえも殺すには十分すぎる一撃のはずだった。


だが灼熱地獄の中削られていくアライの体を見てトムは合点がいった。アライの裂けた皮膚、欠けた面の下からあのカゲが露出して見えていた。


アライの体はそこからトムの前で四体に分裂。それらは上下左右の四方から同時にトムに斬りかかる。


(おい、そいつは・・・オケラ(あいつ)の得意技・・・ッ!)


トムの反応は間に合わなかった。頭部、首、みぞおち、下腹部。成す術なく斬られたトムの体は力なくその場に崩れ落ちる。残心まで終えた四体のアライの体は形を無くし、トムの背後でゆっくり溶ける様にその場に消えた。


消えゆく意識の中、トムは血で染まった池の水面が目に映った。そこには居合の姿勢のまま静止しているアライの姿があった。既に面は無くなっており、眉間に皺を寄せ肩で息をしていた。


示玄(じげん)・影武者。

カゲで形作られた影武者を使用した遠隔操作攻撃。影武者の完成度もさることながら入れ替わりのタイミングも完璧だった。


(・・・クソ、なんてこった。・・・どうやら一番注視すべきは・・・お前だったみたいだな・・・。あ~死にたくねえ。もう撮影会出来ねえのかよ・・・。悲しいなぁ。さらば・・・・・・・・まだ見ぬ、可愛い女の子た・・・ち・・・よ)


トムが倒れたと同時にアライも力尽きてしまい、再び池の中に沈んでいった。


「・・・ッ!」


マキがアライを助けるために池に向かって飛び込もうと走っているところを二体の成金化した歩兵が道を塞いでくる。


「・・・邪魔ですよ・・・ッ!」


四つん這いの二体の歩兵の背中に生える鋭触手がマキを襲う。目にもとまらぬ速さと数で圧を掛けてくるがマキはすべて紙一重で躱す。上着のジャケットにすら触らせないその身のこなしで敵の攻撃を躱しながら前進していく。そして背中からの鋭触手が届きづらい腹部付近まで一気に間合いを詰めると歩兵の鎧に向かって掌底を打ち込む。すると鎧の中で肉が引きちぎれるような音が聞こえるとその後、鎧の隙間から大量の体液が飛び散りそのまま動かなくなった。


力の差を見せつけられ、もう一体の歩兵が警戒しながら後ずさりしていると背後から忍び寄ってきていたモリノに気が付かなかった。不意を突かれた歩兵はモリノに周辺の地面ごと一瞬で喰われた。わずかに残った手首と足首がしばらく痙攣した後一切動かなくなった。


マキは一部始終を確認した後、急いで上着のジャケットと靴を脱いで池の中に飛び込んだ。

見てくれてありがとうございます。また頑張ります。

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