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今家に帰ります  作者: tomoji
開かれた目と口が呼んでいる。
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嫌だな

久しぶり投稿。申し訳ない。

マキはトムの表情を見逃さなかった。地面を蹴り、跳ぶ。


破片が落ちていく。トムが携えた鉄球が砕け散る。その破片が地面に落ちるよりも速くトムの頭上に素早く移動し、後ろ回し蹴りを後頭部に打ち込んだ。


トムの頭は勢いよく地面に打ち付けられた。あまりの勢いにトムの巨体がえび反りになってしまう。


「ッ・・・!?ゴアッ・・・・・!!」


攻めの手は緩めない。地面に着地するとすかさずトムの腹部と背中に蹴りを打ち込む。内臓が損傷したのか口から血を噴き出した。足元の地面が血で濡れていく。


「ガハァ・・・ッ!!クソがァ・・・ッ!!三ツ星ィ!!」


名前を呼ばれたジャイアントウルフが動き出した。周りに囲まれた木々の影からアライの不意を突いて突進してきた。


「うお・・・ッ!?」


突き出た牙をとっさに刀の鞘で受け止めたものの勢いは止められず、アライはジャイアントウルフ共々池の中に沈んでいった。


「アライさん・・・ッ!」


既にアライは水の中に沈められており、マキの声が届くことはなかった。


「ぶふぅ・・・あー・・・痛ぇな・・・。これで形成逆転だなぁ天使様」

勇者が死ぬことは憑代が消えるという事。そうなればマキはこの世界に留まる事が出来ず天界に強制送還されてしまう。


「いや驚いた。まさかここまで力の差があるとはな・・・。」


トムは再び向かってくるマキの気配を感じて「動くなよ」の一言で制す。


「形勢逆転って言っただろ。俺の合図次第でお前の勇者はあっという間にぐしゃりだ」


今の一言は効果的だった。マキの動きが止まった。ようやくこちらが優位に立てたと思いトムは小さく安堵の息を吐く。


「悪いな。卑怯な手は嫌いなんだが負けるのはもっと嫌いなんだ、俺は」


トムは腹部の蹴られた箇所を2,3回さすった後足元の地面に手をかざした。同時に地面から現れたのは二体の歩兵。人間の5倍以上の巨体の西洋甲冑姿の歩兵は四つん這いになりながらじりじりとマキとの間合いを詰めていく。だが決して自分たちから仕掛けることはなさそうだった。


こちらから仕掛けたらどんな反撃に遭うか分からないトムにとっては水の中にいるアライに早々に死んでもらい目の前のマキに自動的に消えてもらう事がベストな展開だった。


だが不安要素はある。先ほどから地面に無造作に落ちている喋る鬼のお面の力。そして村の女を守っているであろう他の勇者の仲間の存在だった。女の位置ははっきりしている。が、その仲間の正確な位置が未だに分かっていない。せっかく助けた村の女を放置しておくとは考え辛い。隠れるのが上手いのかそれとも生きていないのか。よって下手に動いて退避することが出来ない。トムもまた動く事が出来ずにいた。


「そう怖い顔をするな。お互い暫く大人しくしていようや」




所変わって池の中はアライが息を止めながらジャイアントウルフの攻撃をギリギリで凌いでいる状況だった。第六界に生息するジャイアントウルフは水陸両方の活動が可能だ。池の水の中をサメか何かと見間違うようなスピードで襲い掛かってくる。アライは勇者になった事で身体能力の強化はされているが人間であることには変わらない。相手の攻撃の合間に息を吸いに行こうと水上にあがろうとするがそれをジャイアントウルフが許さなかった。行く先行く先に回り込んでくる。


完全に水の中に閉じ込められてしまった。間違いなくこちらが不利の状況だった。

(やばい・・・ッ。取り合えず息、息!!息息いいい息をさせろ・・・ッ!!)


水の中で何とか冷静を装っているアライだったが内心パニックになっていた。このジャイアントウルフは中々狡猾のようだ。最初の突進以外は大胆な攻撃はしてくることはなく水の中でこちらが弱っていくのを待っているような立ち回りを続けている。


(マズい・・・ッ!!本当にマズい・・・ッ!こいつ意外と頭が良い!!このままだとやられる・・・ッ!!くくくくく苦しい・・・ッ!!うっわ本当苦しいいいいいいい!!ああああああああああ!!)


(もしもし・・・聞こえるか?)


(ッ・・・!?ハヤシか!?)


(そうだ、直接お前の脳内に語り掛けてる。時間がないから手短に言うぞ。俺を使え)


(・・・何?!)


(俺を使えば戦況をひっくり返せる。だが誓約上それにはおまえの許可が必要だ。)


(・・・。)

ハヤシを使う。その選択肢は考えていた。だがこの期に及んでまだその気になれなかった。自分がいなくなってしまう事を予感させることによって生まれる不安、恐怖心。それがハヤシを使うことを躊躇わせていた。


息が続かない。視界が曇る。耐え切れず水を飲んでしまう。意識が遠のいていく。アライの様子を見てジャイアントウルフが大きな口を広げて近づいてきた。食べるつもりだ。アライはその様子を朦朧とした意識の中でただ眺めることしか出来なかった。


(殺される・・・。さっさと決断出来ないから・・・・・・こういう事になるんだ・・・。ちくしょう・・・・・・・・・・死んじまう。・・・・・・死んだら・・・・・・・・ヴァンを・・・・・・・・・・・・・殺せなくなるのか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・それは・・・・・・・・・・・・嫌だな・・・。)


アライの意識はここで途切れる。

トムさん負けないで~

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