トムは勇者を追う
「・・・タランティーノが帰ってこない」
撮影会の片づけを終えて次の村に訪問する準備をしているトム。三ツ星とジントニックの二匹はすでに食事を終えて帰ってきていた。何事もなく食事を終えて満足げな二匹とは対照的にいつまで経っても三匹目のタランティーノが帰ってこないことにトムは腹を立てていた。
「ふざけやがって・・・何処で道草食ってんだあの駄犬は・・・。飼い主を待たせるとはいい度胸じゃねえ・・・ッか・・・ッ!」
残りの二匹に八つ当たりで鞭で叩くトム。鞭が余程痛いのか怯えたように地面に伏せ震えている。しかし怒りが収まらないトム。チャリオットに乗せていたモーニングスターを二匹に向かって投げつけようと振りかぶった。しかしその時、トムの手が止まった。
そして思考する。
「・・・まさか・・・・・・・・勇者か?」
トムは現在ノッポが戻ってくるまで先日取り逃がした槍使いの女勇者の捜索も兼ねて好きに近隣の村々を訪問していたのだ。第六界上位生物であるジャイアントウルフを殺せる人間はこの世界では限られる。必然的に勇者が近くに来ている事を予感させた。
トムは暫く固まった後振り上げ上げたモーニングスターをゆっくりと下ろし、タランティーノの後を追う準備に入った。
(・・・それはあまり得策とは言えません)
ふと、オケラにそう言われたような気がした。常に笑みを浮かべ見透かしたような眼をしている男の顔が脳内に浮かんでくる。
だがトムは一蹴するように笑い飛ばす。
「はっ・・・!止めるなよオケラ。俺は待つのが嫌いなんだ。・・・おい、いつまで寝そべってるんだ!!とっとと起きやがれクソ犬共!!」
二匹のジャイアントウルフをたたき起こし、タランティーノの臭いを追わせる。トムの乗るチャリオットが勢いよく走り出した。