豚男襲来
よろしくおねがいします。
魔王ヴァンの存在は東ノ宮全土に不安を撒く。それは確実に周りに感染していく。人を狂わせ、狂気へと変える。
既に先鋒壁を魔王軍に突破された今、混乱に乗じた野党達の動きが活発化し近隣の村や町が被害を受けていた。
先鋒壁近隣 イブキ村
「お頭ぁ!この娘が最後です!」
「痛いっ!離してよ!」
野盗に羽交い絞めにされて村娘のミナは涙目になりながら抵抗していた。数十分前突如村に現れた野盗達。馬車に積まれている荷物からすでに他の村もいくつか襲った後だと言う事が分かる。
「おーおー、威勢がいい娘さんだねー」
お頭と呼ばれるその男は既に村の中央広場で数人と酒盛りを初めており、ミナの友達の女の子達が泣きながら杯に酒を注いでいる。他の村人は縛られた状態で隅に固められていた。
「うっ・・・うゥ。ご、ごめんなさい・・・もう、許して・・・許して下さい・・・」
「おい、いい加減泣きながら酒注ぐのを止めろ!殺すぞっ!!」
野盗の男一人が酒を注ぐ子の肩を掴み怒声を上げる。
「いやぁ!!や、いやぁいやぁぁぁ!!・・・やめてぇ!!殺さないでぇ!!」
女の子は泣くのを止められない。イラついた野盗は顔を殴って更に言い聞かせる。ミナはその様子を唇を噛みしめながら見つめる。
「・・・もう取る物は取ったんでしょう!?ならさっさとここから出てって!!出て行けぇ!!」
恐いのを必死にこらえてミナは野盗の頭の顔を睨みつける。お頭の男は酒を飲むのを止める事無くミナを一瞥した後隣に座っている村の娘の腰に手を回し自分に引き寄せ胸を掴んだ。
「いやぁぁぁぁ!!!」
「ハツ!」
お頭は特に悪びれた様子を見せないままミナに向き直る。
「いちいちうるせえなぁ。こんなご時世なのに都に避難しなかったお前らが悪いんだぜ?分かるか?」
「何ですって!?」
「いや、悪いのはスダ王かな?いつまでもヴァンを野放しにしているから俺達が好き勝手出来ちゃうんだからなぁ。いや本当、魔王ヴァン様様ですわぁ・・・あははははははははははは!!」
「・・・あんたらなんて、第一修道教会の人達が来たら・・・」
「来ねえよ」
「・・・え?」
「知らないのか?教会の人間達は偽夜城に近いこの西エリアは放棄して中堅壁まで退避したんだよ。正義の修道教会様が聞いてあきれるぜ・・・・・・だはははははははは!!」
嬉しそうに叫び、喜び、笑う野盗達。何も出来ない。絶望だった。耐えられず泣き崩れる。その時だった。
「ウォォォォォォォン!!!」
この鳴き声と声量はジャイアントウルフの鳴き声。
「頭ぁ!」
心配そうな顔になってお頭の顔をみる子分達。
「心配すんなただの鳴き声だ」
次に聞こえるのは地面を削る車輪の音。
教会の人が助けにきた・・・っ。ミナはそう思い音がする方へ振り向く。最初に見えるのは三頭のジャイアントウルフ。次に見えるのはチャリオットに乗った桃色の肌をした大男。鼻が特徴的だ。とにかくでかい。口からはみ出る大きな牙。肌の色と相まって巨体の豚にしか見えなかった。それがまるで人間が着るような鎧を身に着け二本足で立っており、チャリオットに乗りながらこちらに向かってきているのだ。
「・・・なんだありゃあ」
野盗の連中も困惑した様子だった。豚がオオカミを従えているとは何かの冗談かと思ったからだ。
その豚男は村の広場に着くとチャリオットからゆっくりと下り広場にいる人間達を見渡した。
「魔王軍のトムだ。女を差し出せ」
「ああ?」
村中の人間と野盗子分達がざわつく中、お頭の男は手に持った杯に注がれた酒を一気に口に含み、トムに詰め寄る。
「今俺達がお楽しみなんですよ。帰って貰えますか~?」
次の瞬間口に含んだ酒をトムの顔に向かって吹きかけた。「だははははははぁ!!」と大笑いするお頭の男。
ぐしゃりと骨が潰れる音が聞こえた。お頭の頭がトムの手の平によって握り潰れた音だった。潰れた頭から血しぶきが一気に上がる。
「っ・・・・!?ひっ、ひぃぃぃぃぃ!!!」
お頭の惨状を目の当たりにした子分達。腰を抜かしながらも転がりながら怯えるようにその場から逃げ出していった。
酒と返り血で汚れた体を可愛いリボンがプリントされたタオルでふき取りながらトムはもう一度広場の村人達を見る。老若男女殆どの人間が野盗達から暴行を受けていた。
「・・・」
トムは不機嫌そうな顔になった後、気を取り直したようにチャリオットに小走りで走っていく。そして乗せてあった荷物を下ろし始める。
村人達が呆気にとられていると大荷物を抱えたまま村人達に近づいてくる。
「今から撮影会を始める・・・っ!!」
「さ、撮影会?」
トムはそう言うとその場で三脚やバックペーパーなど本格的な撮影環境を整え始めた。
ヴァンVSナツメ戦に出てきたトムさん再登場回。