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今家に帰ります  作者: tomoji
魔王城までの道すがら
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起床

 「・・・アライさん、おはようございます」

すごい近くから声が聞こえてくる。声といっしょに吐息すら顔に当たっている。アライは寝起きで意識がはっきりしていない状態でゆっくり目を開けてみる。

マキが同じ布団に入り込んでいた。こちらの様子を覗き込むように見つめていた。綺麗な蒼の瞳。吸い込まれそう。マキのまさかの行動にアライは赤面しながら身を震わせる。

「ち・・・」

「ち?」

「ち、近い・・・っ!」

思い切り体を起こす。しかしそれは最悪手。顔に当たるワイヤーロープ。


「あ」


アライは思い出す。昨晩の事だ。

寝る前に暗殺者対策として部屋中にワイヤーを張り巡らせる事で完成する自作防衛装置、その名もアライシステム・・・っ。


ワイヤーに触れたら、爆発・・・っ。


つまり部屋が爆発した。

「ぎゃあああああああああああ!!」

部屋の中はもちろん、窓、ドアが爆風で吹き飛んだ。その後音を聞いた周りの部屋から客達の悲鳴や驚きの声が聞こえてきた。


「ど、どうされましたかあああ!?」

爆発音を聞いて番頭と仲居が慌てた様子で水を入れたバケツを持って駆けつけてきた。


すすだらけの浴衣姿のマキが体をはたきながら対応する。

「すみません。大人しく寝ていたのですが何か、爆発しました・・・けほっ」

「へ?・・・え、・・・何かって?」

困惑の顔を浮かべる番頭と仲居を余所にマキは話しを続ける。

「弁償はさせて頂きます。請求書はこちらにお願いします。」

マキは手に持っているメモ用紙に請求先を書き殴ったあと番頭に渡した。


請求先はマキの上司、天界にいる大天使ルシアの事務所。教会経由で請求金額がおりてくる仕組みになっている。


とりあえず片づけたいので部屋を移動して欲しいと言われたが悪いと思ったアライ。爆発で荒れ放題の部屋の中を仲居と一緒に片づけた。修復に関しては申し訳ないが業者の方々に任せることにした。


「朝っぱらから爆発って、面白すぎだろお前」

マキの頭に張り付いている鬼の面姿のハヤシはケラケラと笑っている。

「昨日は飲み過ぎた。まさか火薬の量を間違えるとは・・・」

いや、問題はそこではない・・・。


アライは恥ずかしそうな顔で俯いている。


「アライさんの爆発にはロマンがあっていいと思います」

天使のすかさずのフォロー。嬉しいのだがなんか情けなくなり悲しいアライ。

「まあ、並の人間だったら即死だがな。ちゃんと力の伝達は上手くいってるみたいだな」

「そ、そうなのか・・・」


アライ自身、実感はなかった。しかし小型だったとはいえ爆発に巻き込まれたにも関わらずかすり傷程度しか負わなかった。


「アライさん」

隣を歩いていたマキが声を掛けてきた。未だに体はすすだらけだ。

「昨日は、・・・お楽しみでしたね」

「夜の描写全くしてないからって適当な事を言うのやめろっ!一緒に酒飲んだだけだろっ!」


何故だかマキは嬉しそうな様子だった。なのでこれ以上言及しないようにしようとアライは思った。


朝食は昨日の宴会場とは別の大広間に通された。「食事処『蓮』」と入口の看板に書かれている。

多くの四人用の机と椅子がきれいに並べられている。すでに何組かは各々席に用意されている朝食に手を付けている。


アライ達は自分達の部屋番号プレートが置かれた席を見つけるとさっさと朝食を摂り始めた。

(うお、すげえ。朝食にマグロの刺身なんていつ以来だろう)

「アライさん」

(・・・温泉卵・・・っ!美味い・・・っ!)

「アライさん」

「うおっ!?な、なに?」

食事に夢中でマキの声に気づかなかった。慌ててマキの顔を見る。


「この調子なら上手くいけば夜にでもヴァンの城に着けます」

「・・・ああ、そうだな」

ここから更に西に行くと先鋒壁と呼ばれる巨大壁がある。規模は昨日超えた中堅壁と同等の規模になっている。


それを越えるとそこはもうヴァンの勢力圏内に入ってくる。しかし昨日の山越えで歩兵と出くわしたという事は先鋒壁の関所が突破された可能性が高い。もしかすると今日にもこの町にもヴァンの配下がやってくるかもしれない。アライはすでに危機感を感じていた。


「・・・多分、ここから一気に危険になってくるだろうな」


朝食を済ませ、チェックアウトして旅館を出るとバイク姿のモリノが出迎えるように停まっていた。第六界では珍しい乗り物の為離れた所で見物人がうろついている。マキは特に気にせずシートに座り始める。


「モリノもちゃんとご飯食べたのか?」


モリノは喋れないのでマキが説明する。

「はい、余程無理をしなければ三日はガス欠にはならないはずです。それくらい食べさせました」

げふゥっ。

・・・何処からともなくげっぷのような音が聞こえてきた。


「・・・辛くなったら休んでいいからな」

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