断罪屋VS魔王軍勇者担当VS狂信者(勇者)
よろしくお願いします。
カクタは漁る。痕跡を。鬼の痕跡。以前飛び込んだ天界道で喰らった鬼とは比べものにならない圧を感じた。食べたい。これで一気にナミカミたんに近づける。ナミカミたんと一つになれる。根拠はない。あくまでカクタの妄想である。
「あ、・・・・・・・ああ。どこ・・・・・・どこ?ナミカミたん」
しかし痕跡は自身の墜落に近い着地によりバラバラになっており、調べることは困難な状態。だがカクタは気にしない。一心不乱に地面を弄る。鼻息が荒い。愛でるように鎧の破片一つ一つを触っていく。
「ふ・・・ふふふ。い、いい今会いに行くからねナミカミたん・・・」
直後、ジャックによる蹴りが側頭部に鋭く入った。痩せ型の体格の割に体重が200キロ近くあるはずのその体はいとも簡単に肉が潰れたような音と共に近くの倉に吹き飛んだ。
ジャックは今の蹴りの感触でカクタは普通の人間ではない事が分かった。しかしジャックには関係ない。怯まない。
「悪く思うなよ一億円」
ここでカクタを殺す。必ず殺す。
ジャックの意気込みを余所にオケラが水を差してくる。ジャックの背後から横なぎに斬りかかる。しかしジャックはそれを分かっていたと言わんばかりの冷静さで振り向きざまに白刃どりで止めてみせる。
「随分と面白そうなビジネスをされているようですね。私も混ぜて頂いてもよろしいでしょうか?」
「・・・」
悪戯な笑みを浮かべるオケラ。
獲物が間近に現れた事でジャックは気分が高揚していた。オケラが邪魔で仕方がない。とりあえず頭を潰してみる事にする。
ジャックは白刃どりの状態からカゲの剣を鷲掴みする。握力上昇。カゲは破裂、霧散する。あっけなく。あまりにも強引な力。オケラは思わず驚くどころか吹き出してしまう。
「ぷっ、あはははは!」
ジャックは気にしない。すかさず楽しそうに笑うオケラの額にデコピンを打ち込む。鈍い音が響く。それは並の威力ではなかった。オケラの目、鼻、口、耳から血が噴出。それは噴水のように飛び出た。そしてオケラは前のめりに崩れ落ちる。カゲは地面に落ち水たまりのように集まり、心臓の鼓動が波紋となって表面に映る。
「いやあ、・・・これは効きますねぇ」
地面にうつ伏せの状態でオケラは感想を漏らす。脳を内側から完璧に破壊した。手足が痙攣している。その上でオケラは言葉を漏らす。
とにかく動きは止まった。ジャックはカクタは殺しに向かう為にその場を離れる。
カクタは倒壊した倉の中からのそりと立ち上がる。頭に重く鈍い痛みがある。しかしナミカミたんの為ならなんてことはない。平気で乗り越えられる痛みだった。周りに壊れた農機具や散乱した農作物が見えるが気にすることなく瓦礫をどかしながらカクタは外に出た。
瓦礫の山から出ると正面には灰色のロングコートに丸型のサングラスを掛けた男、ジャック。右手には小石。辛うじて姿が見える距離から野球の外野が捕手に向かってレーザービームを投げるようにジャックは小石をカクタに投げ込む。その投石は辺りの大気、塵、瓦礫、にわとり等を飲み込み、一閃の高出力荷電粒子砲へと姿を変えた。
夜闇に映える収束するその赤の光は轟音と共にカクタの体をも飲み込み村の外、夜空の向こうへと姿を消した。
遠くから村人の悲鳴が聞こえてくる。今の光に何人か巻き込まれたようだ。勇者を殺せればいいジャックにとってはどうでも良かった。カクタの死体を探そう。ジャックがそう思った時、目を見張った。
カクタは立っていた。クリーム色のローブは消し飛び上半身の服も消えていた。しかし体はかすり傷程度のようだった。月明かりが差し込みカクタの体が露わになった。
「・・・”戦乱の支配者”戦神カイゼルの胴体。”慟哭を撒く災い”鬼神玄雨の左腕に、”増殖”神獣ゴアの右腕・・・か」
ジャックが分類出来たのはその部分だけだった。カクタの顔に至っては数多の神の顔の一部を切って貼り付けているのは分かるが判別は出来なかった。つぎはぎだらけの顔。それはすでにヒトのものではなかった。
「すごい趣味してるな。体に神々をつないでなお意識を保っていられるのか。それほどの神体、どうやって手に入れた?」
第六界どころか下界に表れていない神ですらその身に宿している。通常ありえない事態。これは第六界どころかナミカミが創りだした全八界にとってイレギュラーな事態だった。
「・・・だよ」
カクタが小さく呟く。
「あ?」
「あ、愛の力・・・だよ」
とても人とは思えない顔からか細い男の言葉が聞こえてくる。すると突然声を大にして喋り始めた。
「ぼ、僕の努力がようやく認められたんだ・・・ッ。ナミカミたんが認めてくれたんだ・・・ッ!!僕を勇者にだって、ぐふふふふふふふううううう!!!これはもう実質ナミカミたんからの告白・・・ッ!!そう、愛の告白と同じなんだよゥ・・・ッ!!ねえそうでしょう・・・ッ!???だ、だからぼぼぼぼぼぼ僕はナミカミたんの気持ちに応えなくちゃいけないんだ・・・ッ!!!」
いきなり興奮するカクタ。ジャックは思い出した。第三修道教会はそういう人間の集まりだったという事を。
「あぁ、ナミカミたん・・・可愛いよナミカミたん」
カクタはすすでボロボロになったズボンから美少女を模した自作のナミカミフィギュアを取り出した。しかし先ほどのジャックの攻撃に耐えきれなかったそれはドロドロに溶けて変形していた。顔面崩壊。ひどい有様になっていた。
「え・・・?あ、あ、ああああ・・・。あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!そ、そそそんな・・・ツ!!?ナ、ナンデ!!?ナナナナナンデェェェ・・・ツ!!?」
カクタ、その場に崩れ落ちる。嗚咽を漏らしている。しかし涙は出ない。乾ききっている。
ジャックはその様子を見て特に反応することなくカクタに近づいていく。
「首をよこせよ化け物」
カクタはふらりと力なく立ち上がるとジャックを睨む。鬼かどうかも分からない、化け物の形相。明確な殺意が見えた。
「よくもナミカミたんを・・・・・・・・。許さない、絶対にだ・・・ッ!」
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