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今家に帰ります  作者: tomoji
魔王城までの道すがら
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風呂

更新おせええええええええええ!!ごめんなさいいいいいいいいいいいいいいいい!!

 アライは本館から数分程離れた所にある混浴風呂の脱衣場の前に立ち尽くしていた。早三分弱この状態が続いている。確かにアライは風呂に入るとは言ったが混浴のみの旅館とは聞いていなかった。嫌なら別々に入ればいいのだがマキが一緒に入ると言う以上アライには断る事が出来なかった。先ほどからすぐ後ろにはマキが立っている。扉の前で石のように固まっているアライを見て心配そうにしている。ハヤシは部屋に置いてきたので本当に二人きりである。

「アライさん。すみません、やっぱり部屋で待ってます」

「い、いや待て大丈夫だ!」

(どうせ混浴なんてお年寄りで埋まっているに違いないんだから気にするだけ損ってもんだ!それにマキは人間じゃない。人間じゃないんだ。間違いなんて起こる訳ないだろう)

そう自分に言い聞かせ恐る恐る入口の戸を横に開けていく。


脱衣場の内装は壁、床まで桧板が張られておりそれ以外は特別目立った所はない。昔王宮に使えていた頃よく行っていた下町の銭湯によく似ている。しかし部屋の大きさはこちらの方が明らかに小さい。もしかして一畳もないんじゃないのかと思うくらい小さい。ここで二人同時に着替えようものならほんの少しの吐息までも聞こえてきそうだ。何でこんなに脱衣場小さいの!?とアライは思うが口には出さない。とにかく落ち着いて服を脱いでクールに風呂場に向かう。アライはその一点に全神経を集中させる。


まずアライが先に服を脱いだ。シャツのボタンを外し、上半身の素肌が露わになる。次はズボンだ。ベルトに手を伸ばす。その時、アライの後ろから確かに聞こえた。マキが上着を脱ぎ始めた。シャツとジャケットが擦れる音が確かに聞こえたのだ。アライ、動揺はしない。なんとか踏みとどまる。ここで呼吸を荒くしてしまえば間違いなく変態。全力で呼吸を殺す事に専念・・・っ。とにかく今はズボンだ。ズボンを脱ぐ。ペースは緩めない。アライは緊張した指先でベルトを外す。今この空間で会話はない。マキは平気なのだろうがこの空間で話しかける勇気はアライには無かった。とにかくマキより先にこの部屋を出る・・・っ。これだ!


後ろからマキの吐息が微かに聞こえてきた。首筋から耳元に伝わるように聞こえてくる。この状況、アライには刺激が強すぎた。颯爽とズボンとパンツを同時に脱いだ。タオルを片手で掴む。そして動揺を悟られないように華麗な足取りで出口に向かう。

「・・・先に行ってるぞ」

キマッタァ。マキにどう思われたかは分からないがとにかく動揺は隠せた。と思う。


ガラリと引き戸を引いた。風呂場は露天の岩風呂になっている。丁度町の外が見えるように高台に作られており夜の闇でよくは見えないが町の裏山が一望できるようになっているようだ。辺りに灯りは灯っているが薄暗い。湯気も加わる事で一層辺りの様子が分かり辛くなっている。湯気の奥で二人の老夫婦が楽しそうに談笑しているようだが様子までは良く見えない。いや、この場合見えない方がいい。

(これだけ視界が悪いならお互い見えないし安心かもな・・・)


アライは少し辺りを見渡すと桶が壁沿いに積んであったのでその中の一つを持ち湯船に近づきかけ湯を行う。思ったより熱い。アライは我慢したつもりだったが若干「熱ぅぃ」と声を漏らしてしまった。気を取り直して足からゆっくりと温泉に浸かる。緊張感が解れるような気の抜けた吐息を口から吐き出す。今日一日色々ありすぎて頭がどうにかなりそうだがこの時間は気が休まった気がした。後でマキに礼を言おう。アライがそう思い立つと後ろの引き戸がガラリと開いた音が聞こえてきた。


マキだろうか。本当は直ぐにでも後ろを振り向きたい所だがその反応の仕方はあまり恰好良くないと思ったアライはあえて微動だにせずクールな目つきで湯気越しの夜空を見上げる。

(お、落ち着け・・・俺。これが大人・・・っ。大人な対応なはずだ・・・っ)

一気にアライの中で緊張の糸が張りつめていく。風呂場の床を歩く音が徐々に大きく聞こえてくる。そしてアライの後ろ近くで足音が止んだ。も、もう耐えられない。そう思ったアライはゆっくりと横目で後ろを見る。そこにはアライの近くで体を屈めてこちらの様子を覗こうとしているマキの姿があった。顔が近い・・・っ!ドキドキびっくりする・・・っ!

「うおぅっ・・・!ど、どした!?」

「いえ、全く動く気配が見えなかったのでのぼせているのではないかと」

「い、いいいや大丈夫だ心配はご無用・・・っ。マキも入ったらいかがかな?」

明らかに喋り方が可笑しい。マキは特に気にする様子を見せる事無く白く透き通る柔らかそうな肌をゆっくりと湯の中に入れていく。ここでアライ・・・っ、直視できず下を向いてしまう・・・っ。マキはアライのすぐ隣に座る。もう少しで肩と肩が当たりそうだ。

「・・・いい湯加減ですね」

「お、おう・・・そうだな」

嘘をついてしまった。本当はすごく熱い。声が上ずってしまう。情けなさ過ぎて死にそうである。マキは髪を上げておりおでこが良く見える。それだけで何故か全然別人のように見えてしまう。しかし中々目が合わせられない。美人に見つめられる事に耐性が無さ過ぎるのだ。風呂に入っているだけなのに息苦しささえ感じてしまう。


「服の上からでは分かりませんでしたが傷跡が多いのですね」

そういうとマキは指でアライの脚から腹部、胸、肩にある昔から最近に至るまでの傷跡をなぞるように触ってきた。今まで自分の傷をそのように触られた事がなかった。とても柔らかいその手触りにアライは頭がとろけそうになる。

「・・・・っ!・・・・・ふぐぅっ!」

「アライさん。息の乱れと顔の紅潮が見られます。一体どうなされたのですか?」

「ん?あれれ?可笑しいな~?もうのぼせちゃったかもなァ」

断じてのぼせた訳ではない。しかしアライ、ここはとぼける。

「それはいけません。ではせめてお背中だけでも」

そう言うとマキはその場から立ち上がろうとする。なんか、もう色々見えそうになる。

「ま、待てっ!ごめんなさい!のぼせてないですっ!体は一人で洗うからマキはここにいてくれっ!」

「いえ、そのために私はここにいるのです。遠慮しないで下さい!」

何故かマキはウキウキである。奉仕することを喜びとするタイプの天使なのかもしれない。


『おっ?痴話喧嘩かァ!?』

『あらいいわねぇ』

湯気の向こうから老夫婦が口を挟んできた。何か勘違いしているようだが言及せず無視を決め込んでいるとマキがアライの手を掴んできた。力強い。痛い。とても解ける感じではない。

「へあっ!?」

「さあ、行きましょうアライさん。あちらに風呂椅子があります」

「わ、分かった。分かったから手を離してくれ痛い痛い!」

こんな風呂に入りたかった。

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