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今家に帰ります  作者: tomoji
魔王城までの道すがら
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天使、混浴

Vtuberええなァ

 オケラは国営バスを利用して中堅壁の関所を通過して主人のヴァンがいる偽夜城に帰っている途中だった。


機竜モリノに食われた右半身は既にカゲによる自己再生機能により元に戻っていた。バスの中は最初こそオケラ一人だけだったが今は数人ほどの人が席に座って一緒にバスに揺られている。以前はたくさんの人が利用していたようだがヴァンの登場後都行きの利用は増えている一方、西に向かおうとする者は減っているそうだ。


日は大分沈んできており夜に差し掛かろうとしていた。


(お腹が空きましたね・・・)

オケラは次の村のバス停で下車すると暗がりの中ランプをぶら下げた母親とその娘の二人組が弁当の売り子をしていた。

「おにぎり一つ下さい」

笑顔で話しかけると二人共嬉しそうに握り飯を差し出してきた。代金を支払いバス停に備え付けられているベンチの上で竹の皮で包まれた握り飯を取り出した。ちりめんじゃことしそが混ぜこまれている見た目の握り飯だった。

「頂きます」

ベンチの端で合掌した後竹の皮で握り飯を掴み口に運んでいく。じゃこ、しそ、山椒の風味が口一杯に広がっていく。


「うん・・・おいしい」


前方に広がる緑広がる山々を見ながら食べる握り飯は格別であるが現在は日没。景色は殆ど見れなくなっていた。カエルとひぐらしの鳴き声が辺りからこだまして聞こえてくる。

(お昼に来たかったですね・・・)


不満げに咀嚼していると足元に狸の置物の姿をしたカゲが現れていた。口は全く動かないというのにそこから聞き覚えのある魔王ヴァンの声がオケラの脳内に直接聞こえてきた。

(・・・今回はよくも勇者全員を討ち漏らしてくれたな従僕)

オケラは特に気にする様子を見せる事無く手に持っている握り飯を一気に口に運びよく噛んで食べた後ゆっくりと返事した。


「申し訳ありません。やはり前回の事もありますからナミカミ様も中々のカードを集めてきたようです」

(言い訳はいらない。早速勇者の一人が私の部屋に入ってきてめちゃくちゃしていったよ。おかげで私の作品が台無しだ。都落としはノッポにやってもらう。お前は早く私の所に戻って守りを固めろ)

「了解しました」


話が終わるとカゲはみるみる溶けていき地面の中に消えていった。オケラは先ほどヴァンの魔力によって力が底上げされた強化型歩兵がアライ一行に倒された事をカゲを通して知っていた。おそらくヴァンもその事に気づいている。だからこそこのタイミングで命令してきたのだろうがアライとその神使に執着に近い物を感じ始めているオケラはあっさりとヴァンの命令を無視することに決めた。

(そろそろこの生活も潮時ですね)

オケラはベンチから立ち上がると次のバスが来るのを待たずにゆっくりと街道を歩き始めた。



 アライ一行、アワラに無事到着。

山岳部を越えて緩い下り坂の農道を越えた先に見えるその宿場町はアライの目には普段より一層きらびやかに見えた。この宿場町はたいした大きさではないが電気という東ノ宮では珍しいエネルギーが流れており、町の道路ももガス灯ではなく電灯が灯っている。

町の中に入った途端モリノはガス欠状態になったのか動かなくなったのでマキとアライで押しながら歩いていた。


「・・・現状の見た目は単車だが竜なんだろ?燃料は何なんだ?」

「雑食なので私がその辺から適当に調達してきます」

「・・・間違っても人はやめてくれよ」


奇妙な単車におもちゃの鬼面を頭に乗せている黒スーツの女。そしてそれと歩いている元囚人の男。目立つ要素が多すぎる。アライの要望により出来るだけ大通りを通らないようにしながら宿に向かった。だがやはりヴァンの影響か活気や人通りは少ない。それに営業を止めてしまっている店舗も多く見られた。

耳を澄ましてみると道行く人からうわさ話が聞こえてくる。

「ここももうだめだな・・・」

「勇者はどうなんだ?もう召喚の儀は終わったんだろう?一体何やってるんだ」

「勇者だと・・・?知らないのか?前回一人の幹部に瞬殺されたって話だぞ」

「都も信用出来ないよ。今は第一修道教会に入信しておけば間違いないよ」


目的の宿屋は木造で建てられておりすでに夜な事もあり窓口からいくつも光が漏れている。入口付近には無料の足湯場が設置されている。アライ達が入口に近づくと店の中から初老の番頭らしい男と仲居さんが満面の笑みで出迎えにきた。


「お疲れ様です。ようこそ清龍荘へ。ご予約のお客様ですか?」

「はい、夕方頃二名で予約したマキです」

その言葉ですぐ分かったのか番頭は店の中に通すしぐさを見せる。

「お待ちしておりました。ようこそお越しくださいました。まずは受付へ。そこで鍵をお渡しします。ああ、単車はこちらにお停め下さい」


そう言われモリノを旅館前の駐輪場に自転車達と並ぶように停めた。そしてアライ達は受付で鍵を受け取り部屋に向かった。その時マキが番頭の男に何やら耳打ちをしていた。アライは気になりマキに聞いてみた。


「何の話をしたんだ?」

「夕食のお話です。少し内容を変えて頂きました」

「そ、そうか」

モリノの分も貰うとかそういう話だろうかと思いアライは特にそれ以上追及しなかった。


仲居に案内された部屋は特別豪華という訳でもない部屋で一般の客が使用するような和室使用の部屋だった。張り替えたばかりなのか畳のいいにおいが部屋に漂っている。部屋の真ん中には綺麗な木目をしたヒノキの敷居が通っておりふすまで仕切りが出来るようになっている。窓の奥からは中庭が見渡せるようになっており小さな池と小粒の化粧石が敷き詰められた庭が一望できる。


「大浴場は深夜一時までのご利用となっております。他に何か御用がありましたら受付までお越しください」

番頭と仲居が部屋からいなくなるとアライは部屋にある座椅子に座り込んだ。そして仲居が淹れてくれたお茶をすすり始める。


「・・・」

「どうかしましたか?」

「都に戻った時も思っていたんだが皆俺の事に気づかないな。一応罪人なんだけどな」

アライは複雑な表情を浮かべている。


「人は自分が思っている以上に他人に無関心ですよ?」


マキもアライに向かい合うように座椅子に座り目線を同じ高さに合わせてくる。

「・・・そうだな、そうかもしれないな」

多分マキなりに励まそうとしているのだろう。多分。


「よ、よおし。マキ・・・さん。夕食は何時にしたんだ?」

「19時ちょうどに予約しています」


アライは部屋に備え付けられた古時計を見ると18時20分少し回っていた。


「ちょっと先に風呂行ってくる。雨で服濡れちゃったからすぐ着替えたい」

「では、私もご一緒します」

「・・・?お、おう」


天使も風呂に入るのか、と思ったが口に出すこともないと思いアライは口を噤んだ。だがこの『ご一緒する』という言葉に何か胸に引っかかるものを感じた。


「い、一応聞くんだが・・・一緒に入るつもりか」

「・・・?そのつもりですが。お背中を流させて頂きます」

(っ・・・・・こ、この天使は・・・っ!!どういうつもりなの!?俺を誘惑するつもりなの!?)

「なんでそうなる!?女湯に行きなさい!」


マキはなぜアライが怒っているのか本当に分からないらしく顎に手を当てて唸り始める。


「・・・なにか問題が?」

「おおありだ!・・・嬉しくないと言えば嘘になるんだが・・・。他の男共もいる中にマキを連れて行く勇気は俺にはない!!」

「一緒に入るのはいいのかよ」

耐えきれなくなったのかハヤシがツッコミを入れてくる。


「それでは・・・しかし困りました。ここは混浴専用の旅館なんですが・・・」

「あははは、何だそれはしょうがない・・・・・・・わけあるかァ!!・・・え、何、ここってそういう場所なの!?」

「はい・・・お嫌いでしたか?」

マキ・・・っここにきて突然の上目使い・・・っ!アライを籠絡するかのような動き・・・っ。童貞のアライの心にダイレクトアタック・・・っ!

「・・・嫌いじゃないです」

まだまだ続くんだよォ。次回混浴回

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