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今家に帰ります  作者: tomoji
魔王城までの道すがら
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鬼の右腕

まだ頑張ります!応援よろしくです(о´∀`о)

「頼むっ!全速力で追いかけてくれ!!」

アライの掛け声と共にモリノの体から駆動音が聞こえてきた。機竜の両目にライトが灯る。

「行きますっ」


マキがアクセルペダルを踏むと先ほどの走行とは比べものにならない速度でモリノは走り出した。一本の木々を折ることなくモリノは体中の柔らかい機関節を使ってすり抜けながら走って行く。アライの前の座席に座っているマキは多少太い枝が顔や腹に当たっても涼しい顔で操縦席に座っている。


「見えて来たぞォ。一時の方向だ」


ハヤシの言った通りそこには鋼色の西洋甲冑姿の歩兵が見えてきた。先ほどのモリノの砲撃で顔から上が吹き飛んでいる状態で前方の大木や大岩があろうがおかまいなしに自身の速さが劣る事無く突き進んでいる。雨音以上の豪快な破壊音が山中に響き渡る。モリノは歩兵が通った道に入り込み、後ろから追いかける。


「足を攻撃して動きを止められるか?!」

「やってみます」


アライの声に呼応したかのようにモリノの閉じた口が開く。数十もある鋭利な牙達が見える口の喉奥からの140㎜口径の砲身が現れた。

「反動に気を付けて下さい!」

アライは言われると座席周りの掴まれる場所を探し始める。この時アライは頭に電流が流れるように思考する。


(反動に気を付ける・・・。そのために何かに掴まらなければならない。これはつまり遠まわしに私に掴まれという意味が込められているのではないか。ならば、することは一つ・・・!いや、そんな・・・いやしかし・・・。)


アライは何か思いつめた顔になったかと思えばすぐ顔を赤くして恥ずかしそうにしている。そして自身を奮い立たせるようにマキの腰に手を回し自分の体に抱き寄せた。

「よ、よし!やれぇっ!」

「いや何でだよ」

アライに被られている鬼面のハヤシが冷静な声でツッコミを入れてきた。当然である。

「ちゃんと手綱と手すりが座席に付いてんだろうがっ」

「・・・えっ?」

アライはいきなり始めた妄想で我を失くしたのかすぐ近くにあった手綱と手すりに気づかなかった。次の瞬間、急激なブレーキと同時にモリノの口から爆発音が聞こえてきた。モリノの砲身から龍衝弾レベルⅥが発射された。

「うおおおおう!!!!?」

「えっ?」

突然の出来事だった為、驚いたアライはマキの腰を抱きかかえた状態から体を後ろに反らせてマキを反り投げる。勇者アライのジャーマンスープレックス。マキの後ろ首が機竜モリノの背面装甲にダイレクトアタックした。


「イタあああああああああああ!!!!!!?」


説明しようっ!マキの体は基本的に天衣(あまごろも)と呼ばれる大天使、魔神クラスの装甲で守られている。しかし下界で実体化した場合憑代である勇者からの攻撃にのみ天衣が発動せずそのままダメージが入るよう調整がされているのだ・・・っ!


マキは首を押さえて叫びながら地面に転げ落ちていった。しかしモリノは気にも止めずに再び走り出した。


「はっ!!!?や、やっちまった!!!おいちょっと待て止まれ!!」

「心配しなくてもあいつは大丈夫だ。それより目の前の奴を止める事を考えろ!」


前方を見る。足を狙った砲弾は逸れて地面に直撃していた。モリノの砲撃は歩兵の動きを止める事に失敗していた。

「ちっ・・・くそっ」

アライはポケットから緊急避難信号弾を取り出し空に打ち上げる。赤と緑が混じった閃光が雨の空に上がる。この雨ではふもとの村から見えているかは定かではないが見えている事を祈らずにはいられなかった。歩兵は変わらず村に向かって前進していく。モリノもスピードを上げてはいるが何故か昼間ほどの速さと比べると若干落ちているように思えた。


「ハヤシ、モリノはどうしたんだ?」

「・・・そろそろガス欠だな」

「・・・腹減ってるって事か?」

「噛み砕いて言うとそうだな」


竜も腹が減るのかと感想を述べている場合ではない。このままだと数分もかからず歩兵が村にたどり着いてしまう。


(だ、だめだ。このままだと村が襲われる。人が・・・死ぬ。たくさん死ぬ?い、嫌だ。人が死ぬのは嫌だ。また殺される。い、いいいやだ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌・・・・・・ふざけるなっ!!・・・ヴァン!!!あいつにっ・・・・!あいつにっ・・・・・これ以上奪われてたまるか!!殺す!!殺してやる!!!

ぶっ殺してやる!!力!!力だ!!!力がいる!!!あいつを殺す力!!!)


「・・・い・・・おい、アライ。アライっ、聞いてんのか!?」


アライの様子がおかしかった。ハヤシの言葉に返答がない。そしてアライが被っているハヤシに変化が起こった。先ほどまでは祭りの屋台に出回っているようなコミカルな鬼のお面姿だった。そこからアライの様子に呼応するかのように形相がみるみる変わっていく。変化し終わったそのお面はとても同じものとは思えない、恐怖のみを与える顔つきに変貌した。


(アライ・・・まさかこいつ、鬼人化しやがったのか?)


次の瞬間アライはモリノの背中から飛び上がった。そして木枝から木枝へまるで飛行しているかのように高速で移動していった。歩兵との距離がどんどん縮まっていく。それは常人はもちろん今までのアライの動きを遥かに凌駕していた。


アライ達の様子など知る由もなく、歩兵は森を抜け棚田に現れた。雨は止んでいる。水田の上を四つん這いで駆け抜けていく。あぜ道の上を跳ぶアマガエルを自重と力で踏みつぶす。植えたばかりの苗が押しつぶされていく。


棚田を下った先にある集落の中心にある広場には村人達が集まって火を焚き始めており、逃げずに戦う準備をしていた。村人達は弓や短剣などわずかな武器で武装している。中には女子供も混ざっており不安そうな表情を見せる。


「歩兵だぁ!!歩兵が来たぞォォォォォ!!」

見張り台の一人が歩兵に気づいたのか敵襲の鐘を鳴らす。長の男が村の戦士達に号令をかける。

「皆ぁいくぞォォォ!!!」

「うおおおおお!!!!!」

村の男達が松明と武器を持って駆け下りてくる歩兵に向かって駆け上がっていく。村人達は以前の歩兵の強さしか知らない。今までの魔王軍とは違い、強力で危険だという情報は都から届いていた。しかし魔王軍の強さを直に感じた訳ではない。その場の全員が一体だけなら自分達だけで対処出来ると判断したのだ。

村人達はまず歩兵の足を止めようと横一列に並び一斉に足元に火矢を放つ。

雨の様に降り注ぐ火矢が、まるで効いていない。

歩兵は足元に飛んでくる火矢に目もくれずひたすら前進する。


「くっくそぉ・・・ッ‼︎な、なんで止まらねえんだ!?」

「怯むなぁ!なんとしてもここで食い止めるぞぉ‼︎」


戦士達は棚田を駆け下りてくる歩兵を止めるために飛び掛かる。剣、槍が届かない離れた間合い。そこから歩兵の攻撃が始まる。背中から伸びた鋭触手が一斉に飛び出た。切るというより貫く事に特化しているその触手はあっけなく村人達の体を貫いていく。頭を貫かれた者は一言も発することなく崩れ落ちた。足を貫かれた者は痛みでその場に蹲って泣き叫んだ。場が突如惨状に。人間の赤い血達がそれを演出しているようだった。


「が・・・・っ!!」

「ぎゃあ・・・・・っ!!」

「な、・・・・なんで・・・っ。なんで・・・・・・っ」

「痛い・・・・っ。痛いぅぃぃぃぃ!!!」


歩兵はまるで走り抜けるように村の男達を蹴散らしそのままの速さで集落まで駆け下りていく。下には村の女子供が広場に固まっている。


「だ、だめだ・・・っ!皆逃げろ・・・っ!!そこから逃げろォォォォォォォォォォォ!!」


なんとか生き延びた男達の叫びはふもとの人間に届く事はなかった。長の男は後悔した。今まで魔王軍が襲いにきても何とか追い返してきた。あの誰のものか分からない避難信号を無視しなければ誰も死ななかったかもしれない。慢心だった。おかげで沢山の村人が死ぬのだ。

「あ・・・。そ、そんな・・・た、頼む・・・だ、誰か・・・・・誰か助け・・・・・」

長の男は不意に空を見上げた。雨雲によって覆われた空。そこを何かが通過していった様な気がした。


歩兵の足音が止まない。大きな地面を蹴る音が聞こえてくる。その迫りくる足音が下にいる村人達に異常事態だと教えてくれた。集落の広場からも歩兵が見えてきた。首から上がない甲冑姿。血まみれの鋭触手を背中からうねらせながら四つん這いで走ってくるその姿に村人達は戦慄した。


「きゃぁぁぁぁぁ!!」


少女の甲高い叫び声を合図に女子供、老人達が一斉に逃げ始める。村で待機していた戦闘の経験のない男達は武器を構えたまま立ちすくんでいる。声を挙げる事も出来なかった。歩兵の鋭触手が再び伸びる。貫く。貫いて殺す為に・・・。殺される。その場の皆そう思った。


だが状況は一変する。


その人物は空から、歩兵のほぼ真上に突然現れた。鬼の狂面を被り迷彩柄の雨合羽を着た男。腰にさげた直刀を抜いて急降下・・・っ。歩兵の背中に向けて直刀を突き立てる。刀は歩兵の鎧を意図も簡単に貫き下の地面にまで突き刺さった。

鋭触手の動きが止まった。まるで標本のようにその場に固定された歩兵は苦しそうに手足をばたつかせている。


(・・・まだ・・・・・・・・・・・・・死なない・・・・・・なら・・・・・)


狂面の男が曇り夜空に右腕をかざす。次の瞬間人間の男の腕がみるみる赤黒く肥大化していき鬼の腕に変異した。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」


男の大声と同時に振り下ろされる鬼の右腕。圧力と斬力が合わさった一撃。それは歩兵の体を鎧ごとを押し潰すと同時に6つに分断した。斬られた歩兵の体は溶け出るように鎧の外に溢れ蒸発していった。金属と生ゴミが同時に焼けたような異臭が辺りに漂う。


歩兵は死んだ。強力な鬼の力を宿した勇者によって。

鬼強い

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