ナガタさん
最初に動き出したのはナガタだった。腰に下げた脇差を居合でジャックの喉目掛けて斬り上げる。真剣による抜刀をジャックは特に驚くそぶりを見せる事無く素手による手の甲で弾くように受け止めた。普通だったら腕諸共首が飛ぶ程の威力だがジャックはそれを難なく止めてみせた。逆にナガタの腕の方にしびれが走る。ナガタは自分の技が決まらなかったと判断するとすぐにジャックから距離を置きすぐまた刀を鞘に納めた。
「くぁっ!かったいなぁ~。一体何したら体がそこまでの硬度になるんだよ」
「悪いな・・・生憎時間がないからそういう説明は省かせてもらうよ」
ナガタは確信こそなかったが次でやられるなと察知した。「は~やれやれだ」と一言つぶやくとゆっくりと目を閉じ深呼吸し始める。そして姿勢を低くした状態で居合の構えを取った。
ジャックはその様子を感心するように眺め、笑みを浮かばせる。
「・・・なるほど、目の付け所は悪くない・・・が」
ジャックは体から力が抜けきったような様子のままゆったりとナガタの居合の間合いに近づいていく。一歩、・・・また一歩と確実に近づいていく。しかしナガタにはジャックの足音は聞こえていない。自分の呼吸、心音すら聞こえない。ナガタはあえて自分に与えられる感覚による情報を次々と遮断していった。
(恐らくだがこいつにはまともな感覚で戦えば瞬殺される・・・。お前ならもっとマシな戦い方を考えるんだろうな、アライ)
ジャックは既にナガタの居合の間合いに入り込んでいる。しかしナガタは刀を抜く様子を見せない。それどころかまるで時が止まっているかのように静止しており筋一つ動く気配が見えない。
「・・・」
ジャックの右手の人差し指がナガタの頭に伸びる。ただ触れるためではない。一瞬で殺害するためだ。心臓ではだめだ。潰した後も動かれてしまう。さっきの一太刀だけでナガタはジャックの力の片鱗に気づいた。この男は危険だとジャックは本能で察した。頭の外側と内側から容赦なく破壊する。指先一つで・・・、ジャックにはそれが出来るのだ。
ナガタは聞こえてきた指が近づいてくる『音』、だろうか。全ての感覚を遮断したはずなのに聞こえてくるこのラジオのスピーカーから聞こえてくるノイズの様な音が確かにナガタには聞こえていて、そしてその音が確かに灰色の波形の線となりジャックの一刺し指へと形作られ、最後には人の体のような姿が見えた。
ナガタはこの『映像』を幻や偽りの映像ではなく今まで自分が見たことのない一つの新たな情報なのだと感じた。この瞬間ナガタの体が動く。足の踏込みと同時の抜刀。ジャックの指だけでない。この音の塊ごと叩き斬る。速さと力は申し分のない一太刀。
しかしその一撃はジャックの指一本で止められる。ナガタの体は軽く指に弾かれ部屋の壁に打ち付けられた。背中の痛みが脳内に鋭く響いた。ナガタは痛みを堪えながら手元に握っている刀を見ると刃の部分が見事に砕かれていた。
「っ・・・!!ごふっ・・・おい・・・こんなの、ありかよ・・・」
「落ち込む事はない。この世界の人間にしてはよくやったよ、お前は」
ジャックの指先には小さな切り傷がついていた。そこから流れる血は人間だったら当たり前に流れているる真っ赤な色だった。
「・・・って事はお前も別の世界から・・・本当に今日は・・・よく別の世界の奴と会う」
「本当災難だったな今日は。・・・利用出来ると思って生かしておいたが予想よりお前は危険なようだな。やっぱりここで死んどくか?」
ジャックは壁にもたれるように座るナガタに近づいていく。これは、流石に殺される。そうナガタは思った次の瞬間部屋のドアが小さく音を立てながら開いた。
「そこまでにしてもらおう、ジャック」
スダ王が廊下から姿を見せた。特に武装をしている様子はなく丸腰の状態だった。