表と裏
モンハンが一段落したのでまた頑張ります。
断罪屋のジャックは拳銃で撃ち殺され血まみれになった状態で椅子に座る元勇者のシュウをその場で黙って眺めていた。先ほどの銃声ですぐにでもここに人が集まってくるというのにこの男はのんびりと拳銃を上着の中のホルスターに仕舞い込み、その場で煙草とマッチ棒を取り出し堂々と吸い始めた。
一分も経たないうちにナガタが部屋のドアを開けて中に入ってきた。両手には古い表紙の漫画本を携えており表紙には『剛腕アイツ』と書かれていた。
「・・・ジャックか」
「悪いな。お邪魔してるぞ」
「仕事か」
「おう」
ジャックは部屋に入って来たナガタに背を向けたまま煙草を吹かしている。
「銃声が鳴ってんのに全然人が集まってこないなぁ。お前の指示か?」
「さぁて・・・にしても本当お前は人の仕事の邪魔する天才だな。折角これで打ち解けようとしてたのに・・・」
ナガタは一つ溜息をついた後漫画本を部屋の隅に置かれた本棚に丁寧に入れていった。
「こっちも忙しいんだ勘弁してくれ。これから今回の選抜勇者全員殺しに行かなくちゃいけなくなったんでな。一々確認とってられないんだよ。それに、殺させてくれって言っても殺させてくれないだろお前らは」
ナガタは今の発言を聞くと漫画をしまう手を止めてジャックの方に振り返る。
「は~ん、なるほど。罰当たり野郎が。また随分と稼ぎの良さそうな仕事をしてるんだな」
「羨ましいのか?」
「まさか、俺はそんな危なっかしい橋渡るのはごめんだな」
ナガタはそう言うと部屋の壁にもたれるように背を預けジャックの煙草の煙を眺める。締め切ったこの部屋に煙の行き場がなく宙をひたすらさまよい続けている。
「一応言っておく。包囲されてるぞ」
「・・・ふ~ん」
「少しは驚けよー、面白くない」
この男相手に都の戦士が束になっても敵わないの事はナガタは知っていた。第一修道教会が今の多くの名声と地位を手に入れる事が出来たのはこの男の功績が大きかった。教会にとって邪魔な存在を全て消してきた男。
正直な所、都の部隊長八人全員とスダ王が同時に戦ってようやく互角ぐらいだろう。もっと人数を集めてくればよかったとナガタは今更だが後悔していた。
「で、どうする?そこに倒れている部下達のかたき討ちでもしてみるか?」
「・・・本当はそうしてやりたいが俺ではお前に傷一つ付けられないだろうよ。だからそれは俺の『元部下』に譲ることにする」
ジャックはそれを聞くと煙草を持つ指がわずかに動いた。
「元部下・・・まさかあの臆病者に俺を殺させるつもりか?」
「・・・。」
ナガタは返答せずに不敵な笑みを浮かべながらジャックを見据えている。そして同じくジャックも笑みを浮かべながら口から煙を吐き出す。
「・・・無理だなぁそいつは。」
「何故だ?」
「今回の選抜勇者の調査は全て終わっている。勇者アライ、魔王ヴァンに殲滅されたトツカワ村の数少ない生き残り。現スダ王に拾われてからは王宮戦士として都に勤務。過去のトラウマの影響で極度のビビり症だがそれを補って余りある戦闘力とバトルIQを有する。しかし周りの評価はあまりいいものではなく『都一の臆病者のチキン野郎』、『敵前逃亡常習犯』など呼ばれている。ここまで本人の実力と周りの評価がずれている勇者も珍しいな。たいていの奴はこのギャップに騙されるんだろうな。確かにこの男は今回の勇者に選ばれるだけの力をもっているんだろうが・・・それでも俺が注視するほどではないんだよ」
「・・・」
ナガタは内心ジャックはアライの外見だけで判断して侮っているのだろうと思っていたが意外とよく調べられており逆に感心してしまう。
「流石プロの断罪屋。良く調べてるな」
「・・・大金が掛かってるからなぁ」
ジャックは煙草の吸殻をコートの内ポケットから取り出した柄物の携帯灰皿に入れるとくるりと体の向きを変えて部屋の出口に向かって歩き出した。
「それじゃあもう行くけど、アライに連絡とる機会があったら近々会いに行くって伝えといてくれよ」
しかしナガタはジャックの道を塞ぐように出口の前に立ちはだかる。
「・・・まだ話は終わってねえよ」
「・・・戦わないんじゃなかったのか?」
「気が変わったんだ。やっぱり腕の一、二本くらい置いていってもらおうか」
お互い睨み合うように立ち尽くす。特に興味の無さそうな顔をするジャックと対照的にナガタの眼には先ほどの飄々としたものではなく明らかな殺意が見えていた。