一人の世界のゲームオーバー
いつの間にか1000人以上の方々にこの話を見てくれていました。ありがとうございます。頑張ります。
元勇者シュウは現在、東ノ宮王宮地下一階にある尋問室で拘束具を付けた状態で椅子に座らされていた。
つい数時間前までは教会で見繕った美少女達に囲まれ順風満帆な人生を謳歌する世界最強の男だったはずなのにオケラというたった一人のイレギュラーな存在のおかげで全てがなかった事にされてしまっていた。
今何の力も持たないシュウにとってこの世界はさっきまでと景色が全然違って見えていた。シュウの目の前には都の戦士二人が扉近くに椅子を置き座って監視している。今から数時間ほど前からナガタと名乗る人間に何回も尋問を受け知っている事を出来うる限り話した。ナガタはシュウが別の世界から来た事に関しては何故か大して驚きはしなかったが自分が第一修道教会代表の勇者だと言うと首を傾げていた。シュウはつい気になってナガタに質問した。
「あの・・・」
「ん?なんだ?」
「この世界は異世界から来る人間はそんなに珍しくないんですか?」
シュウはこの世界に来る前に大天使ダリアに異世界の話をするのは釘を刺されていたため話したことはなかった。シュウ本人も話してもどうせ信じないだろうと思っていたので気にもしなかった。ナガタは少しどう話したらいいか考えるように顎をポリポリと掻いた後答えた。
「俺も詳しくは知らんがこの世界は結構ナミカミ様の信仰が深いらしい。そういう世界ではナミカミ様の力の恩恵を受けやすいのと同時に他所の世界から文化、思想、物が流れやすくなるって話だ。人が来るのは稀な方だがな。」
シュウはここに転移されてから確かにそういう違和感を感じていた。魔王や勇者などのファンタジーな要素がある割には社寺や黒電話など人間達の建物や文化は何処か昔の日本を彷彿とさせる情報が散りばめられていたからだ。
「そんな事より少し前のお前の証言が俺は気になるんだ。『自分が第一修道教会代表の勇者だ』という所。調べてみると第一修道教会は一か月前に今回の魔王討伐試練の参加は見送ると表明している。よって第一の人間は今回の召喚の儀にも招待されていないはずだ。それに関係者にお前の事を聞いてみたが誰も知らないと言っているんだよ。・・・どういうつもりでそんな事を言ったんだ」
「・・・本当の事だ。ついさっきまでは。だがオケラと戦ったら何もかもなかった事になってたんだよ」
「・・・」
ナガタは椅子の背もたれによしかかりシュウの眼を見ながら深いため息をついた。信用しているかは半々といった顔を浮かべた。そして再び顎をポリポリ掻いた後部屋の壁に掛かっている時計を一睨みした後椅子から立ち上がった。
「お疲れさんっ。また来るよ」
男は見張りの戦士に軽く声を掛けた後颯爽と部屋から出て行った。
また来るのか。もうこのやりとりを何回もやっているシュウは流石にうんざりしていた。シュウには分かっていた。オケラとの戦いのせいで過去が変わり全てを失くしこの世界に取り残されてしまった。だがシュウは覚えている。自分がこの世界に来てから少し前までは確かに勇者だった。楽しかった。誰かに怒られることも咎められる事もない本当に楽しい勇者ライフだった。それだけにシュウはこの現状が受け入れられずにいた。
(くそっ。俺はいつまでこうしていないとだめなんだよ・・・。エリカ達は何やってんだ。ホントこういう時に使えない。俺の価値を高める為にあいつらはいるんだ。早く再会して褒めて欲しい。流石シュウ君って言って欲しい。ちやほやして欲しい。褒めてほしい。一度あの感覚を知ってしまったら戻れるわけないだろうが)
シュウは椅子に座りながら俯き加減になり小刻みに肩を震わせている。見張りの戦士達は怯えて震えているのだろうと思い呆れて見ている。見かねた片方の戦士が声を掛ける。
「おい心配するな。別に命を取ったりは・・・ガハァッ!!?」
壁にもたれかかるように立っていた戦士が突然反対の壁まで吹き飛び顔をぶつけてそのまま動かなくなった。
「なッ?・・・誰だッ!?ど、何処から!?」
もう一人の戦士が椅子から立ち上がるとその場で身構え腰の剣に手をかざし抜刀体勢に入った。すると部屋の扉がゆっくりと開いたそしてそこから丸型のサングラスを掛けたグレーのロングコートを着た男がゆっくりとした足取りで入って来た。
「ッ!?誰だお前ッ!?」
戦士の男は剣を鞘から抜こうしたがロングコートの男に一気に間合いを詰められる。そして男は剣の柄頭を軽く触れ元の鞘に押し戻す。
「なッ!?」
戦士の男が驚くより前にロングコートの男はもう片方の手で相手の肩を人差し指で軽く突いた。すると戦士の体は縦に五回転程宙を舞った後頭から床にぶつかりそのまま動かなくなった。シュウはその様子を呆気にとられた様子で見ていた。まるで次元が違う戦い。それは少し前にシュウが戦ったあのオケラの様だった。
「・・・よォ」
「あ・・・あんたは」
男は室内でサングラスを取る様子も見せずに不敵な笑みを浮かべている。
「断罪屋のジャック。お前を殺しにきた。『元』世界最強の村人、漆黒の剣士シュウ」
「な、なんでッ・・・?!」
(何故俺が殺される!?それに何故この男は俺が勇者だった頃の肩書を知っている!?この世界では昔の俺はなかった事になっているわけじゃないのか?)
しかしジャックはシュウの質問を返してくれることはしてくれなかった。
「あ~そういうのいいからいいから」
「え?」
突然聞こえる拳銃の音が三発。眉間に一発、心臓に二発。確かにシュウの体を貫いた。ジャックの手にはいつの間にか拳銃が握られていた。
「・・・は?」
速かった。何もかもが一瞬だった。無情で理不尽だった。あまりに唐突すぎて悲しい気持ちにもなれず涙も流させてくれない。異世界から来たシュウの冒険はここで終わりとなる。