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今家に帰ります  作者: tomoji
魔王城までの道すがら
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壁越え

カーリング見るの楽しぃ・・・

大分遅れての投稿です。まだ頑張ってあげますよ~

 「はぁっ!!・・・・・・はぁっ・・・・・・・!!・・・・・ふぅぅっ!!・・・クソォッ!!・・・ゴホッゴホッ・・・!!オケラめッ・・・!!ふざけた真似をッ!!!」


 大天使ダリアは天界の最上層、天上の間に隣接している大天使専用の自室で胸を押さえながら膝をつき胸を押さえながら苦しんでいた。胸には先ほど下界第六界でオケラに貫かれた傷があった。


血は、でない。しかし痛覚は存在している。並の人間では傷一つ付けられない硬度を誇る天使だがそれ以上の力、領域外力で斬られれば例え天使でも体に痛みが走る。しかし今回は痛みとは別に体が重く感じている。オケラが使役している『カゲ』に直に胸を貫かれた事が原因なのではないかとダリアは感じていた。


(随分と苦しそうだねぇ)

ダリアは背中から聞き覚えのある声が聞こえた気がしたので慌てて後ろを振り返る。しかしそこには誰もおらず気配もなかった。しかしダリアにはこの声の主が誰なのか分かっていた。


「・・・シン様」

(うん。今ちょっと用事でそっちに行ってあげられないから声だけ君に届ける事にしたよ。辛いならその場で座ったまま聞いててね)

「い、いえ問題ありません。大丈夫です」

ダリアは重い体を動かしながらなんとかその場に立ってみせた。

「単刀直入に言うと現時刻をもって第六界の管理責任者の役を降りてもらうよ。そして僕の許しが出るまで天界でおとなしくしていてね」


シンのこの対応はダリアが予期していた任務を失敗した場合に起こりうるシナリオの一つだった。謹慎ならまだいい。しかし自分の挽回のチャンスを他の天使に取られる事がダリアには我慢出来ずつい口を挟んでしまう。


「お待ちくださいシン様っ!私は、まだ・・・」

(まあ最後まで聞いてよ。僕はね、君の仕事ぶりに関しては高く評価しているんだよ。第一修道教会の人間の力に目を付けて認識、記憶改ざん。ああ、あと他所の世界から死んでも特に困らないような人間を招致して世界最強の勇者を作り上げる『代理勇者計画』もか。あれは中々面白い見世物だったよ。そうやってあらゆる手を尽くし、人間達を駒として利用し、第六界が生まれてから今日まで良くヴァンから世界を守ってくれたね。君のその目的の為なら例え人間でも容赦なく利用する所、正直嫌いではなかったよ。しかし状況は君の力ではどうにも出来ない所まできてしまったんだ。後任はルシア君とマキちゃんに任せるから申し訳ないけれどしばらく僕の元にいてもらうよ)。


ダリアは暫く俯き高級な装飾で彩られた自室のカーペットを見つめたまま押し黙ってしまう。自分が敬愛する生みの親であるナミカミの為に働き、そして今までの任務を全て完璧にこなし大天使の役職まで上り詰めてきた。そうしてきたダリアにとって初めて味わう連続の失敗は耐えがたいものだった。しかしこれ以上無様を晒せば大天使を降格。更にはナミカミから渡される最高の寵愛の証である神錠(しんじょう)すら取り上げられるかもしれない。ダリアにとってそれだけは避けたかった。


「り、了解・・・い、致し・・・しましたッ・・・!」


震える声だったがダリアは了解の意をシンに伝えた。それ以上はお互いの会話はなく部屋の中はダリアの荒い呼吸の音だけが聞こえていた。




「すまん、俺一応勇者なのにこんなコソコソと・・・」

東ノ宮領土の丁度中間に位置する中堅壁。アライ達は丁度その壁の前にいた。日は既に傾いており夕方に差し掛かっていた。


この壁は東ノ宮建国以前に建てられたそうで現在管理の手もあまり行き届いておらず人気のない箇所では草や苔が生え放題になっている。東ノ宮三大壁の中でも一番高い壁と言われておりどの生物もこの壁を超えた事はないとされている。都の伝記に唯一超えたと記されているのは飛龍の神使を連れた第三期勇者ヒナミのみとされている。しかしわざわざ越えなければいけないのかと問われればそういう訳ではなく普通の一般市民や国の戦士達は東西南北に位置する関所を通って行き来している。


本来ならば勇者一行として関所を堂々と越えられるはずなのだが一度国を裏切ってしまっている自責の念とまた先ほどの連中に命を狙われる可能性があるとアライは判断して西の関所から少し南に移動し今まさに壁越えを行おうとしていた。アライは仕方ない事だと思っているがどうしても思い描いていた光景とのギャップを感じてしまい、涙は出ないがマキ達につい謝罪の言葉を漏らしてしまう。


「抜け道使って都から出てきといて何を今更言ってんだ」


ふとアライの背中からハヤシの声が聞こえてきた。先ほどまではマキの背中に張り付いていたが今度はアライの背中に付いていた。


「・・・ああ、まあそれもそうだな」


今思えば網縄刑務所で勇者に選ばれてから今に至るまでずっとコソコソしっぱなしな様な気がしてアライはつい苦笑してしまう。

「それで、どうやって超える?やはり壁に穴を・・・」

アライが冗談交じりに隣に立っているマキに話を振ると直ぐに返事が返ってきた。

「はい。モリノを使って壁を登ります」

「の、登るかぁ・・・・・・それしかないよなぁ」


アライは高い所が苦手である。


「お気に召さないのであればモリノにジャンプしてもらって壁を飛び越える、という方法もあるにはありますが・・・」


アライは高い所が苦手である。


「い、いやッそれは止めておく!そんな事したらお前らは大丈夫かもしれんが俺なんかはGの負荷に耐えきれず死んでしまうだろう」


自分達の命を狙ってきた戦士達の包囲網を抜ける時にモリノは機械竜の姿で軽く跳躍してみせたがそれだけでアライは耐え切れず気持ち悪くなってしまったのだ。一瞬でも高い所に行ってしまったため精神的に辛くなっただけかもしれないがあまり不安な事はしたくなかった。


「いえ、アライさんは現在私と契約下にあります。勇者は神使の力に比例して多少力が底上げされていますからその程度で死ぬことはありません」

「え、そうなの?」

その情報は初めて聞いたのでアライは両手を強く握ってみたり開いたりしてみる。しかし特に変わった様子はなく直ぐに不満げな表情になる。

「・・・本当かぁ?」

「感じ方には個人差がありますから。それに多少強くなってもあくまで肉体面の話であって精神面は変わることはありません」


アライは今の言葉に若干棘のようなものを感じた気がした。そして先ほどここに来る前の河原でのマキとの会話を思い出した。


「コノォ、・・・さっきの仕返しのつもりか?」

「フフッ、そうかもしれませんね」


マキはいたずらっぽくアライに微笑んだ。あまりにも美しいその笑顔にアライは目を背けてしまう。

「だ、だが問題がある。飛び越えるのも登るのも結局高い所に行くわけだから、俺が恐いのは変わらないだろう」

「威張んなアライ」

ドヤ顔で語るアライにすかさずハヤシがツッコミをいれる。

「恐いんですか?」

「ま、まあ少しねっ。こんな高い壁を登るわけだしねっ」

うわずった声で答えるアライをマキは顎に手を当てながらじっと見つめた。

「では少しの間アライさんにはきぜ・・・眠ってもらう事に・・」

「なんかサラッと物騒な事言ってない?あなた」

「しかし他に良い方法となると・・・」


協議した結果・・・


「アライさん、気分はどうですか?」

「・・・最高だな」

今アライはモリノの搭乗座席にロープで縛りつけられ目隠しをされた状態でマキの後ろに座っていた。結局の所アライ本人が恐がる情報を出来るだけ遮断してあげる事が最善だという事で満場一致した。

「冗談を言えるのならまだ大丈夫みたいですね」

「・・・マキって結構容赦ないよね。俺こんなんだけど一応勇者なんだよ?天使って皆そうなの?」

「どうでしょうか、あまり考えた事はありませんが」

「う、うん・・・、まあいいや分かったよチクショウ。とにかくもうこれで行こう。ただ一つ頼みがある!」

「なんでしょうか?」


アライは目隠しされた状態のまま何か言い辛そうに少し躊躇ったあと若干開き直り気味に口を開いた。


「壁を超えるまでずっと俺に話しかけ続けろ!少しでも途切れたら俺の生命に関わるものと思え!」

「了解しました」

「アライ~お前最高だなぁ」

淡々と答えるマキと対照的にハヤシからは笑い声が聞こえてきた。


「それでは行きましょうか」

マキがモリノのクラッチペダルを踏んでギアをチェンジしていくと走行しながら前回と同じようにバイク姿から徐々に四本足の機械竜に姿を変えた。モリノは壁の近くまで近づくと特に大きな物音をたてることなく一歩ずつ確実に壁を登り始めた。

「・・・なんか、音がしないんだけど・・・。これ本当に壁登ってるのか?」

「消音機能搭載です。関節部分の金属同士の擦れ音等は最小にしても若干聴こえてしまうためご了承下さい。」

「お、おう分かった。そ、それよりホラッ!俺に話しかけ続けてくれ」

アライは今目隠しはしているもののほぼ壁に平行した状態でいる。さながら絶叫マシンの最高到達点まで登っている時の心境に近いものを感じていた。

「はい、では・・・・・・しりとり」

「え?」

「『え』ではありません。『り』です」

「・・・りんご」

号哭(ごうこく)

「・・・くり」

「リュウグウノツカイ」

「・・・おいちょっと待て」

マキは実際にない言葉と思ってアライがストップをかけたのだと思いリュウグウノツカイについての解説を入れ始める。

「?・・・深海魚の一種で天界と冥界以外では飼うのがとても難しい魚です。天使の中では地震の前兆の合図として彼らを放流する物好きな方が・・・」

「違う!そういう事じゃなくてしりとりの内容のクセが強すぎるのが気になってしまって・・・」

「リュウグウノツカイがいけなかったんでしょうか。しかしリュウグウノツカイに罪はないはずです。本来リュウグウノツカイ達もリュウグウノツカイと呼ばれるためにリュウグウノツカイしているわけではないはずですからリュウグウノツカイ」

「うおおおおおおツッコミが追いつかねぇぇぇぇ!!!」

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