逃亡中
投稿頻度悪くても見てくれている方々に感謝。
舗装されていない荒れた地面の上を這うように走る機械竜のモリノにアライとマキは乗っていた。先程までは二輪バイクの姿でマキに運転操作を教わりながら走っていたのだが今は交代してマキが運転座席に座っていた。道が険しくなるに連れて二輪から四輪になり、最終的にはタイヤが機械竜の腕に変形し二輪車の面影が完全に無くなり一体の機械仕掛けで動く巨大ドラゴンに姿を変えていた。モリノは更に軽快に地面を駆けながら前進していく。変形するたびに移動速度が上がっている事にアライは内心心配していたが平静を装っていた。
「おおおおおおっほほほほほぉ!!す、すすすごいなめちゃくちゃ速いなこのドラゴンさんんん!!」
・・・平静を装っていた。
「アライさん、目が開けられなくなってきたら言って下さい。スピードを落とします」
「え、え~とじゃあお願いしようかな?」
「スピードを上げます」
「うん?あれ?おかしいな?俺の話、聞こえてなかったのかな?」
見かねた鬼面のハヤシはマキの後頭部に引っ付いた状態でアライに話しかける。
「前方にまだ見えないが人間が何十人と待ち構えてやがる。国の戦士って感じじゃないな。勇者狩りの連中かもな。マキはこのままスピードを上げて突っ切るつもりだ」
「ひ、人!?まずいだろ!!下手したら轢いちゃうかもしれないだろ!」
現在のモリノの速度は東ノ宮の最高速を誇るチャリオットに近い速度が出ていた。このスピードで尚且つドラゴンの姿で人にぶつかったりしたらひとたまりもないだろう。
「だがゆっくり近づこうものならこっちが蜂の巣にされるかもな」
「・・・」
ふざけた鬼のお面の姿してるくせに遠く離れた場所の状況が分かるとはすごい特技持ってんなとアライは内心思った。だがもしその話が本当なら罠の事も考慮して道を変更すべきだろうと思った。
「どのルートも一緒だぞ。随分前からこの辺り一帯張り込んでたみたいだな、殺意と悪意がそこらじゅうに渦巻いてやがる」
「ちょっと人の心読まないでくれます!?」
「アライさん、一応今ならまだ止まれます。命令を」
マキが背中越しに頭を抱えてうねっているアライに向かって冷淡な声を掛ける。アライは目的の為に誰も傷つかないのは一番いい事だと思っているがそれを実現できるほど自分は立派な人間ではないと自身を評価していた。気は進まないが今はマキに任せてみることにした。
「いや、このまま行ってくれ」
「・・・しっかり掴まってて下さい」
アライはマキの何処に掴まればいいのかどぎまぎしていると馬の地面を駆ける足音が左右から聞こえ始めた。慌てて振り向いてみると鎧に身を包んだ屈強そうな戦士数人が馬に乗ってアライ達に向かってきていた。皆それぞれ弓や薙刀などを携えている。
「よぉし!!勇者見ぃっけェェェ!!」
「勝負ぅ!!勝負ぅ!!」
それを横目で見ながらアライは恐怖は確かにあったがそれとは別に悲しい気持ちになっていた。
「・・・・・・・分かってたけど自国の為の戦いなのにその国民に命を狙われるなんてな・・・」
「おいぃ勇者こっち向けェェぃ!!」
「勝負ぅ!!勝負ぅ!!」
戦闘狂の戦士達の無神経な発言にアライはイラつきを感じてしまう。
「押し通る!!こっちくんな!!」
「勇者ァ!!通しはせんぞぉ!!」
「通るっつってんだろォ!!あっち行けェ!!!」
戦士の一人が地面を駆けるモリノの脚に向かって矢を放った。しかし未知の硬い金属パーツの前に難なく弾かれてしまった。
「くそっ!なんだこのドラゴン!!?矢が通じないぞ!?」
ハヤシはその様子を見て何故か弓矢を放った戦士に怒っている。
「ったく何やってんだよ・・・。少しは根性見せて傷くらいつけなさいよ!」
「おい!お前どっちの味方なんだ!?」
「そんなことよりこいつらどうするんだ?」
「どうもしない。マキ頼む、振り切ってくれ!」
「スピードを上げます。しっかり掴まって下さい」
「お、・・・おう」
アライは少し戸惑った後マキを後ろからギュッと抱き寄せた。しかし流石に体が密着しすぎなのでアライは恥ずかしくなり赤面しているとマキが戸惑ったような顔で聞いてきた。
「アライさん・・・あすなろ抱きって知っていますか?」
「へ?・・・い、いや知らん。ま、まさか今やってるこれの事か!?な、なんか可笑しかったか!?す、すまないそんなつもりでは・・」
アライが腕を解こうとした瞬間モリノが目の前の大岩を飛び越えた。着地の振動に耐える為にアライは改めて腕に力を込めた。モリノが地面に着地するとそこまでアライ達に振動は感じなかった。おそらく衝撃を吸収する素材がモリノの体のパーツに組み込まれているのだろう。アライは安堵の息を漏らしたが目の前の座席で何故か苦しそうなうめき声が聞こえてきた。目の前を見るとアライのあすなろ抱きからのスリーパーホールドがガッチリとマキの首にキマッていた。マキは最初こそ平静を保っていたが流石に耐えきれなくなりうめき声のような声を出していた。しきりにアライの腕を叩いている。
「あ゛あ゛い゛・・・あ゛・・・・う゛う゛」
「うわああああ!!す、すまん!!大丈夫かマキ!?」
「ゴホッゴホッ・・・・・・・・・・はい・・・・・・・大丈夫です」
マキは口でそうは言っているが肩で息をするかのように呼吸していて震える手で後頭部に乗せていたハヤシをしっかり顔に被り直した。