空の心に熱を
すいません更新ペース下がってます。
「分かっていると思うけど今君が思い出した記憶と抱いた気持ちは厳密に言うと君の物ではない。それを忘れずに今は大人しく私達の言う事を聞いておくように。分かったね?」
そうシンに言われるとマキは「分かりました」と一言話した後傷ついた体を引きずりながらシンの部屋を出て行った。ルシアは部屋を出て行くマキを追いかける足を止めてシンに向き直った。
「・・・何故、無理やり魔神の力を引き出すような事を。先ほどの発言はナミカミ様はよく思わないでしょう。例えあなたが実の子供でも何をされるか」
「僕だって前のマキ君にボコにされたんだからこれくらいやってもバチは当たらないと思うけどなぁ」
「そんな、子供みたいな理由で・・・」
「それにナミ君には申し訳ないけど僕はあの子の事を親だなんて思った事は一度もないんだよ」
シンは特に悪びれる様子もなくルシアに答える。
「いや、でも確かにマキ君がナミ君のお気に入りだからかな・・・。つい嫉妬心でいじめたくなっちゃったのかもねぇ」
トキの姿でいまいち感情が読み取れなかったがシンはどこか楽しんでいるようだった。
「だけど良かったよ。どうやら魔神の名の定着は順調みたいだ。最初の暴走が嘘みたいだねアハハ。これで地上に逃げた堕天使達や魔王討伐がグッと楽になるだろうね。上手く導いてあげてねルシア君」
「はい・・・、それが私の役目ですから」
ルシアはシンの部屋を後にしてマキを追いかけた。
マキは自室にふらつきながらも戻った。身体が何故か焼けるように熱く心臓の鼓動が大きく聞こえてきており呼吸も苦しくなってきておりとにかく早くベッドに横になりたかった。二段ベッドの下段を見ると何の動物かよく分からないぬいぐるみやフリフリのシーツやまくらカバーで彩られた見るからにメル専用のベッドがそこにあった。マキは悪いと思いながらもメルのベッドに倒れ込むように入り込んだ。
「はぁっ!・・・んっ!・・・んぅ・・・」
とにかく体が熱く、マキはどこか冷たい水の中にでも飛び込みたい気分だった。それと同時にマキの心は確かに何かに高揚していた。先ほどの鬼との戦闘で体の中を流れたあの記憶の一部を見た後から確実にマキの身体と心境に変化が起きていた。ベッドに横になっても体の状態が落ち着く事はなく苦しみは何度もマキを襲った。
少し経った後ルシアが少し慌てた様子で部屋の中に入って来た。今度は最初に会った時と同じ眼鏡美人の姿だった。
「とにかく熱を下げます。息を大きく吸ってください」
ルシアはマキの体のあちこちをまるで触診するかのように触った。その後自身の人差し指と中指を揃えてマキの額に当てた。
「・・・セクハラですか?」
「冗談を言える余裕はあるみたいですね。・・・はい、大きく深呼吸」
マキはルシアに言われた通り大きく息を吸い吐いた。
「余裕は、ないです。私の、身体・・・どうなっているんですか?」
「邪鬼の攻撃をまともにもらったら誰だって辛いですよ。熱の方は心配いりません。前にも言いましたがあなたは生まれたばかりの存在なのですからこれくらいは予想の範疇です」
マキは会話の間に徐々に体が楽になっていくのを感じていた。
「体の事だけではないです・・・。私・・・」
マキはルシアに何かを伝えようとしていたが意識を保つ事が出来なくなったのかそのまま眠りについた。
暫くしてマキが目を覚ますと体の熱は引いており動悸もなくなっていた。ルシアは先ほど同じ場所に座っておりマキが目を覚ましたことに嬉しそうな様子だった。しかしマキは一つ自分に異常な事が起きていることに気づいた。
「・・・なんで私、裸になっているんですか?」
マキの白く透けるような綺麗な肌の全てがメルのベッドの上で露わになっていた。
「恥ずかしいですか?」
「当たり前ですっ!」
マキはそそくさと足元に畳んであった掛布団を自分の体に掛けた。その様子をルシアは何故か嬉しそうに笑った。
「フフッ、そうですか。良かった、安心しました」
「・・・どういう意味ですか?」
「そうですね、・・・黙っていてもその内シン様から話されるだろうけど話しておきましょうか」
ルシアは少し間を空けた後マキの眼を見ながらゆっくりと口を開いた。
「あなたのその名前と力は、以前ナミカミ様がこの天界を襲ってきた三体の魔神の一体から奪ったものです」
「魔神・・・」
マキは魔神と聞いた時驚きはしたが同時にどこか納得をしていた。邪鬼と戦った時に抱いた天界への、ナミカミへの怒りや憎しみはその魔神の影響なのだろう。その証拠になんとか理性を保てているが目の前の大天使を恨んでいる自分が確かに存在していた。
「天界を襲ってきた三体の魔神は我々大天使とナミカミ様の戦いの末敗れました。ナミカミ様はその三体から力と名前の半分を奪いました。そして二体を天界の最下層で磔にし、そして最も危険とされていた一体の魔神の体はナミカミ様自身で破壊しました。その魔神の名が『マキ』です」
「・・・それと私が裸を恥ずかしがることに何の関係があるんですか?」
「魔神とはいえその者達は元々人間だったのです。あなたが裸の姿を恥ずかしいと思うのなら恐らく魔神の名前を介して精神に影響しているのでしょう。その人間としての感性は今後のあなたの為にもぜひ大事にして下さい」
「何を言っているんですか?やはりセクハラ・・」
「違います!」
ルシアは少し言い方が可笑しかった自覚はあったらしく慌てた様子をみせる。
「名前と力は分かりましたが、この姿は・・・」
その質問にはルシアは眉間にしわを寄せた。どうやら分からない案件らしい。
「それは私にも分かりません。あなたは奪った魔神の名を元に作られています。しかし魔神の頃の姿は今のあなたとは全然似てませんし。・・・これは推測ですが彼の思い描く天使の姿があなただったのだと思います。天使を生み出す際その元となる存在がいる場合、その存在の精神が大きく影響される事がありますから」
「・・・不思議な感じです、生まれたばかりなのに今私はあなた方を恨んでいる。」
「あなたは魔神の記憶の一部を引き継いでいるのならその感情も当然でしょう。」
「・・・皆が私を白い眼で見ていた理由が分かりました。しかし何故そんな天界にとって危険な存在の私を生かすのですか?」
「生かすと決めたのはナミカミ様です。私はその命令に従っているに過ぎません」
それだけではありませんが、とルシアは小声でぼそっと漏らしたがマキには聞こえなかった。
「魔神の力を操れるあなたの存在は確かに危険ですがその覇道の力は利用価値があると判断したのでしょう。今は下界にいる堕天使、魔王達の討伐が急務ですから」
「私がそれに黙って従うと思っているんですか?」
マキはルシアを睨みながらわずかに残っている力で拳を握りしめる。ルシアはマキの様子に気づいてはいたが特に気にする素振りを見せずに話を続ける。
「抵抗するのは構いませんがお勧めは出来ません。今のあなたは力を存分に振るえる状態ではありませんし、仮に振るえたとしてもあなたの力の源である魔神マキは一度ナミカミ様に敗れています。このまま挑んでもまた負けるのは目に見えています。それに気づいていないでしょうがあなたは既にナミカミ様のお気に入りなのです。恐らく抵抗してもそれを上回る力で何度でも屈服させようとするでしょう。それより、あなたには別にやるべきことがあるのではないですか?」
この時マキは邪鬼との戦闘を思い出していた。あの時マキの頭に流れた映像達は恐らくそれは魔神が人間だった頃の記憶の一部だったのだろう。そこに映る景色、人が何処の映像かはマキは知らない。しかしいつの間にか胸が熱くなっていた。人の想いとはここまで甘美で、心を熱くさせる物とは思わなかった。記憶の最後に見えたあの涙。多分その人は体を魔神に変えてまでナミカミと戦ったのだ。あの場所に帰る為に。マキはすでに魔神の記憶に魅せられていた。あの記憶の場所に魔神を連れて行く。そう思うようになっていた。
「・・・どうすればいい?」
マキは引きつった顔でルシアを睨む。その言葉を聞いてルシアは少し嬉しそうにマキに微笑んだ。
「可愛い顔が台無しですよ。安心しなさい、その為に私がいるのですから。まずはここでの生活に慣れてもらいます。まあ暫くは私の下で働いてもらいましょうか。あとその魔神の力についても色々教えてあげます。」
ルシアはベッドに横になっているマキに向かって手を差し伸べた。
「改めて宜しくお願いしますねマキさん」
まだまだ頑張って書きます。