マキ
マキの過去回想編
マキが目を覚ますとそこは知らない天井だった。洋風の寝室のようで換気中の為か部屋のドアと窓が開いている。部屋の外から生暖かい風が入り込み部屋のカーテンが揺れている。
部屋にあるベッドはマキが寝ている分を含めて四台が横並びに綺麗な感覚で備え付けられていた。そこには誰も使用しておらずマキは一人一番窓際のベッドの上で横になっていた。この時気づいたが体がとても重く首を動かすのも一苦労だった。
「目を覚ましたのですねマキさん」
声が聞こえた方に目をやるとベッドの横に置かれた椅子の上に自身の目の何倍もあるだろう眼鏡を掛けた女性が座っていた。眼鏡越しでも分かる程その顔は美しかったが右頬に大きなガーゼと頭に包帯をしており何処かで大怪我をした後のような有様だった。自分に呼ばれた「マキ」という名前に対していまいちピンと来なかった。だが何故か自分の名前のような気がしたのでこの人物と何処かで面識があったのだろうかと思ったが思い出すことが出来なかった。
「・・・あの、何処かでお会いしましたか?」
「いえ、あなたとは初めてです。初めまして、ルシアと言います。大天使をやっています」
「大天使様・・。すみませんそれほどの方なのに何も思い出せないなんて」
「思い出せるはずがありません。あなたは先ほど生まれたばかりなのですから」
「・・・生まれた?」
「ええ、ナミカミ様の炎の息吹によって生まれた天使が今のあなたです。だから安心してください、思い出すものなど初めからありませんから。」
ルシアの話を静かに聞いていたマキだったが何かに気づいたのか次第に顔があせりの表情に変わっていった。そして重い体を必死に動かそうと息を切らせながら体を起こし始める。
「何をしているんですか!?」
「ま、魔王を。魔王を倒さなくちゃいけないんですっ。・・・だからっ、うっ・・・ここで寝ているわけには・・・あれ?」
マキは自分が何故そのような事を言ったのか分からず困惑した表情になっている。
「・・・」
ルシアは必死に起き上がろうとするマキの姿を見て何故か哀しげな表情を浮かべていた。そして自身の人差し指をマキのおでこに当て「まだ寝ていなさい」と言った。するとマキは突然強い眠りに襲われ抵抗する間もなく深い眠りに入った。
再びマキが目を覚ますとすでにルシアの姿はなく部屋の中は変わらず静寂に包まれていた。魔王を倒す。この言葉がマキの頭の中に響いてくる。何故そのような事をしなければならないのかという疑問はあった。だが考えようとする度に頭の中を何かが駆け巡り気づいたら考える事を止めているのだった。
早く体を動かせるようになって魔王を倒しに行きたいという気持ちがマキの頭の中を支配していた。試しに腕を動かしてみる。先ほどよりは動かすのが楽になっていたがまだ満足に動かせる範疇ではなかった。まだ寝ていたほうがいいと判断したマキはわざと目を瞑って再び眠りに入ろうと思った。
しかし部屋の入口付近で小さな物音が聞こえてきたのでマキは気になって目を開けた。部屋の入口付近をよく見てみると何者かが身を隠しながらこちらの様子を窺っていた。だが自分に対する敵意は感じられなかったのでマキは大人しく見ている事にした。暫く様子を見ていると相手はこちらの様子に気づいたようで観念するようにマキの前に姿を現した。
背中まで伸びた長いブロンドの少女が黒のセーラー服を着ており、とても心配そうな顔でマキを見つめていた。何故そんな顔をしているのだろうかとマキは不思議に思った。
「良かった・・・目を覚ましたってさっきルシア様から聞いたから・・」
少女は手で口元を押さえて泣き出しそうな顔になっている。生まれたばかりでお互い初対面のはずなのにこんなに心配されるとはマキは思っておらず何も知らない自分が嫌になり同時に目の前の少女に悪い気がした。かなり危険な状態で生まれたのだろうかと解釈した。それでもここまで他人を心配する事が出来る目の前の少女にマキは尊敬に近いものを感じていた。
「すみません、どうやらかなり心配をおかけしたようですね」
「うん、本当すっごく心配してたんだよ・・」
マキは重たい腕を何とか持ち上げ今出来うる笑顔で少女に握手を求めた。
「マキです。新米の天使になりますがどうぞ仲良くしてください」
少女は差し出された手を見て何故か一瞬辛そうな顔になったが直ぐに満面の笑みで握手を交わした。
「メルだよ。言われなくても仲良くするんだからよろしくっ!」
すみません暫く過去編やります