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今家に帰ります  作者: tomoji
チュートリアル
29/62

エージェントヤマモト

いつも見て下さって有難う御座います。

 魔王城の東に位置する町「養老」。魔王軍によって滅ぼされた町がいくつもあるなかこの町はなんとか踏みとどまれている。町の警備体制が優秀なのと辺りが山に囲まれた地帯だったためか魔王軍から攻め込めれる頻度が他の町より少なかったからだ。

ナツメはバス停近くに店を構えていた蕎麦屋の中で机に突っ伏していた。


「は~不覚最悪最低こんちくしょう、魔王を打ち損ねるなんて・・。」


お昼だというのに店の客足はあまり良くない。やはり魔王軍が活発に動き始めた事で人が東に流れて行っているのだろう。ナツメが湯飲みに注がれた熱いお茶を啜っていると厨房から中年の女性が器に入れた蕎麦を持ってやってきた。器に注がれたかつおだしの香りが食欲をそそってくる。


「はいっ、鴨蕎麦一丁!」

「待ってましたぁ!」


ナツメは目の前に蕎麦を置かれるとすぐに元気を取り戻しいそいそと割り箸を取って目の前の鴨蕎麦を食べ始めた。鴨肉がとてもやわらかく尚且つ肉厚、そして肉汁とつゆが見事に溶け合っており蕎麦の硬めのこしもとてもナツメ好みだった。ナツメはこの店は当たりだなと思った。ナツメが暫く満足そうに蕎麦を啜っていると横から声を掛けられた。


「すみません、相席よろしいですか?」


空いている客席は他にもたくさんある。それなのに相席を要求してくる人物を不審に思いながらナツメは声がした方を見る。服装、容姿から察するとその辺りにいる町の娘の様に見えた。しかし、その娘の目つきを見た時ナツメの見方は変わった。人の血が通っているとは思えない程、どこか冷え切った目をしていた。第一か第三教会が用意した刺客なのではと判断したナツメは警戒を崩さずに席に座るよう促す事にした。


「どうぞぉ、席は空いてるみたいだしね」


狭い店内での戦闘で槍は不利だが手に持っている割り箸でなら十分対応出来る。少しでもおかしな動きを見せれば即先手を打つつもりだった。

「そうですかぁ、ありがとうございますぅ。では早速・・」

そう言うとその娘はナツメの正面に座らずに隣に座った。お互いの手と手が触れてしまう十秒前。さらに上着の内ポケットに手を入れ始めた。・・・これはもう十分おかしい行動。そう判断したナツメは割り箸を握り先端を娘の目玉目掛けて突き出した。

「私は勇者アライの味方です」

突然の娘の言葉にナツメの割り箸が娘の目玉に触れる寸前で止まる。

「証拠は?都であなたの姿を見かけなかったと思うけど」

娘は目に刺さる寸前の割り箸に動じず毅然としている。


「証拠はありません。ただあなたとアライ様は現在協力関係にあるので是非とも信じて欲しいのですが・・。うーん。ではここのお店の代金と、そうですねぇ。少し情報を提供しましょう」

「情報?」

「ここにあと十分程であなたを狙った第一修道教会の刺客が現れます。回避するならすぐにここを出る事をおすすめしますよ」


そう言うと娘は衣服のポケットの中から財布を取り出しナツメの食べた鴨蕎麦の代金を机の上に置いた。そして何も言わずに店を出て行った。

「えっちょ、ちょっと!待って!」


ナツメは内心刺客の話は嘘で自分をはめる為の罠だという可能性を考えたが不思議とあの娘の言っている事に嘘は感じられなかった。ナツメはすぐに娘を追いかけるため店員に代金を払い店を出た。


既に姿が見えなくなっていたが娘を探すのは以外と簡単だった。行く場所行く場所でその娘の事を覚えている人が都合よく見つかりまるで何者かに吸い寄せられているかのようにナツメは町の外れに建っている大きな木工所にたどり着いた。外壁から屋根までトタンで張られており所々穴が空いてそこから木のツタが緑の葉を付けながら抜き出ていた。入口のシャッターは開いておりナツメはそこから体を隠しながら中を覗いてみる。中は大工道具などが乱雑に地面に置かれていたり木端などが散らばって落ちていた。


建物の中心を見てみると探していた先ほどの娘が作業台の上に座ってナツメに向かって微笑みかけている。

「ここ、すでに使われていなくて誰もいないんです。そんな所で隠れていないで入ってきたらどうですか?」


言われたナツメは観念するように入口の陰から姿を見せた。そしてゆっくりと娘に近づいていった。

「・・・あなた、何者なの?」

娘は作業台からストンと降りると今度は小さな名刺入れを取り出してそこから一枚の名刺を取り出してナツメに手渡した。


「魂回収業者『スマイル』エージェントのヤマモトと申します。アライ様の神使のマキ様とは以前より仕事でお付き合いさせて貰っている間柄です。どうぞよろしくお願いします。あだ名はヤマ、ヤマちゃんなど色々呼ばれていますので・・・まあご自由にお呼び下さい」

ヤマモトから貰った名刺には会社名と社員名、聞いたことがない住所と電話番号が記載されていた。


「・・・貴方人間なの?」

「いえお察しの通り人間ではありません。この姿も名前も借り物でしかありません」

「この住所に本当にあなたの会社があるの?何この無間町(むげんちょう)って聞いた事ないんだけど」

「ありますよ。人間が行くには色々手順が必要になりますが・・」

「あなたの目的は何?」

「死後の魔王の魂の回収です。勇者様方が魔王を倒した後が我々の仕事なのです。あなたへの助力は正直迷いましたがあなたとヴァンの戦いを見てあなたには利用価値があると判断しました。よってあなたが魔王討伐が出来るようサポートさせて頂きます。」

「・・・随分なはっきりとした上から発言だね」

「お気を害したのであれば謝ります。ただ私はあなたのような強い人間は大好きですよ?たかりがいがある」

ヤマモトはとても嬉しそうな笑みでナツメの顔を見つめている。

「・・・まあいいよ、分かった。流石に全部は信じれないけど」

「それでよろしいかと」

「で、あなたは具体的に何をしてくれるの?」

「そうですね、・・・では先ほどのような情報を随時提供しましょう。これでまず余所の教会や魔王軍から奇襲を受けずに済みます。あなたのお付きのドラゴンは攻撃と移動能力には長けているようですが索敵関連は不得手のようですしね」

「・・・すごいね、一体どこまで筒抜けになってるんだろ?」

ナツメはヤマモトの顔を見ながらいたずらっぽく笑った。

「いえいえ、これ位死神・・じゃなかったエージェントなら当たり前ですよ」

ヤマモトはしまったという顔になってわざとらしく口を押えた。そして口に人差し指を押さえて「今の言葉は内緒にしておいて下さい。」と言いバツが悪そうに笑った。

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