8話
「あいよー。じゃーなー」
「また!」
辺りはすっかり暗くなり、いつものダベりを終えた3人は公園を出てすぐ先の大通りの交差点で別れた。
キコキコと自転車を漕ぎ帰路を進む武人は、ある場所で足を止めた。
そこは、帰り道の途中の大きな坂を上った先にある公園だった。
先ほどの公園に比べると少し寂しくて、小さいが坂の頂上にあり、丘の上という立地条件からいい景色が眺められる。今も遠くの山に沈みかけている夕陽が良く見える。
武人は公園の前に自転車を停め、公園の中へ歩き出す。そして、フェンスにもたれかかり夕陽を見つめた。
「…もう8ヶ月か。」
そう呟く彼が考えていることは、他の誰とも代えられない彼女のことであった。実はこの場所は彼らの思い出の場所であり、 武人が彼女に気持ちを伝えたのもこの場所だった。
彼は毎月この記念日の前日…所謂彼らが付き合い始めた日の前の日に必ずこの場所に来て、あの日のことを思い出していた。そして、今自分は彼女を幸せにさせてやれているのだろうか、他に何ができるのだろうかといったことを考える。何故当日ではなく前日に、しかも彼1人 だけなのだろうかというと、これは彼自身の自分に対してのフィードバックであるからだ。
不安になることも多いが、それ以上に彼女と自分を信じることで明るく前を向いていられた。今の武人にとっては、彼女は紛れもなく生きがいの一つだった。
武人が様々なことを考えているうちに、やがて日が沈んだ。ポケットからケータイを取り出し、時間を確認すると6時になるところだった。
「そろそろ帰るか。」
踵を返して武人が公園を出ようとすると、そこには明らかな“異変”が“いた”。
どうやら人のようだ。
夕陽が沈んだ後でもわかる明るい金髪。鋭く輝くブルーの瞳。長身で海外の俳優のような顔付きと体型。5月の半ばに真っ白なロングコート。それらは武人に異端の者だと思わせる条件を十分に満たしていた。
「……。」
武人は突然現れたその男に対して、どう対応すればいいのかわからなかった。無視して帰るにも何も、出口の真ん前で仁王立ちされてちゃどうしようもない。そう思っていた。
数十秒に渡る睨み合いを経て、遂にしびれを切らした武人は意を決してその男と対話することを決めた。
「…あんた、誰ですか?」