12話
(殴られる…!!)
ゴツッといった鈍い音が寂れた夜の公園に鳴り響く。
……はずだった。
たとえどれだけ優れたボクサーや優れた反射神経の持ち主であっても、人形の人知を超えたその動きに咄嗟に反応できるはずがない。
しかし、米崎武人は殴られはしなかった。
だが、彼は身を翻してパンチを躱したわけでもない。
何かが人形の動きを遮ったのだった。
「…なんだ…これ…。」
その異変に気付いた武人は、交差した両腕の隙間からうっすらと目を開ける。
人形の放った拳が武人の両腕に触れる前に「別の何かに当たって弾かれた」のだ。それは、うすい膜のようであり形をなしておらず、ゆらりゆらりと武人の両腕から滲むような形で現れた。
暗闇に包まれた公園の中でも柔らかい光を放つそれは、結果として防壁のような形で武人を守ったのだった。
そして、武人もそれの正体はすぐにわかった。
今の時代に生きる人間なら誰しもが必ず目にするであろうもの。命の象徴であり、我々人類の文明が進化するにあたって革命をもたらしたもの。世紀の大発見。それは時に暗闇を照らし、時にものを灰へと変え、時に争い の道具となるものーーー
炎である。




