エピローグ 廃工場での戦い
月明かりに照らされた離れの廃工場の前に、3人の少年がいた。
ひとりは工場の外壁に寄りかかり、腕組みをしている長身の少年。長身で、サングラスかゴーグルのようなものを着けているのが特徴的だ。
ひとりは工場の近くに散らばった鉄くずやスクラップの山の上に腰を下ろし、俯いている少年ーしかしその身体は既に人間のものではなく、全てが鉄で出来ており、人であった名残はその骨格でしか見られない。
そして最後のひとりは物思いにふけるように夜空を眺めている少年。服装も黒いパーカーとジーンズといたってシンプルで、年相応な格好をしている。
「くるぞ。」
静寂の中、全身鉄の塊の少年がその場から立ち上がり、あるはずのない口もとからかすれた機械音のような声を出した。それにつられるように二人の少年も工場の入口付近に視線を合わせる。
そして、地を蹴る音が少年達の視線の先から迫るように聞こえてくる。
「多いな。」
パーカーの少年は、ぼそりとそう呟くと音の方へと走り出していった。それに続いて鉄の少年も金属音を打ち鳴らしながら駆け出す。
「いたぞ!リストに載ってるやつらだ!手段は問わん!確保するんだ!」
威勢の良い声と共に、工場の入口から数十人ほどの人影が現れる。彼らもまた鉄の少年と同じように人の名残りを残していなかったが、ひとりひとりの骨格が鉄の少年と比べると大きい。
「祐輔!頼む!!」
「了解。」
パーカーの少年はひとり駆け出した自分達の後ろにいるサングラスの少年にそう叫ぶと、サングラスの少年は何処からともなく身の丈程ある狙撃銃を取り出した。真っ黒な銃身に取り付けられたスコープのようなものが取り付けられた一般的な狙撃銃だ。
「くるぞ!甘く見るな!ロッドを使え!」
先ほども威勢の良い声を出していた恐らく隊長格と思われる者がそう告げると、彼らは腰元に装着していた手のひらサイズのカプセルのようなものを取り出し、それを大きく振りかぶる。すると、淡い光がカプセルから伸び、やがてそれは棒状のものへと形成される。
「食らえ!」
パーカーの少年がひとりの機械兵をめがけ、両手でピストルを作る。人差し指を銃身とした、子供がよく遊びでやるようなものだ。
だが、子供の遊びでは銃のモデルであって、もちろん弾は発射されない。しかし、この少年の場合はーこの世界の場合はそうは考えられない。
ドンという音と共に少年の指先から銃弾が発射される。だがその銃弾もまた、我らの世界のものとは違う。
それは炎の塊であった。銃弾を模した火の弾が相手を目がけて放たれる。
「こんなもので…」
狙い撃ちされた機械兵のひとりは、高速で放たれた銃弾をしっかりと目前まで捉え、顔を右に逸らし躱す…ハズだった。
「…!!」
機械兵の視界に映ったのは、パーカーの少年の手の平であった。
「うおおおおおおおおお!!!!!!!」
そして、その手の平は機械兵の頭部をしっかりとホールドし、少年の掛け声と共に勢いで地面へ向けて叩きつける。
「い、一瞬でここまで…どうやって…!!」
「怯むな!甘く見るなといっただろ! 」
頭部を地面にめり込まされ動かなくなった仲間を見て隣にいた機械兵が後ずさりをするが、後ろから隊長格がパーカーの少年目掛け走り出し、光の棒を大きく振りかぶる。
「くっ…」
鳴り響いたのは金属音。隊長格の力強い一振りは刃物のようなものに止められた。だがその刃物はパーカーの少年のものではない。
「斬れ味が悪そうな得物だな。」
隊長格が棒を振り上げた時にはいなかった鉄の少年の姿がそこにはあった。そして、その手にはしなやかな刀身をもつ刀が握られており、隊長格の一撃を確実に受け止めている。
「祐輔ぇ!!!!! 」
突如、パーカーの少年が後方のサングラスの少年の名を叫ぶ。それと同時に鉄の少年は右方向へと跳躍し、パーカーの少年は自らの頭の部分を炎へと変える。鉄の少年が消え、パーカーの少年の頭部が消えたことにより隊長格の視界の一直線上には、狙撃銃を構えたサングラスの少年の姿。隊長格は咄嗟に何かを察する。
「まず」
言葉を言い終えるより先に、隊長格の頭を青白い光の銃弾が貫いた。サングラスの少年からの距離約50メートル眉間を確実に狙った長距離射撃である。
「ナイスだ。」
ゆらゆらと揺れる炎の中から、パーカーの少年の顔が再び形成された。
「隊長がやられた!」
「こいつら…!!」
少年たちの息のあった連携に周りの兵士達は怯まざるを得なかった。
「もう、誰も失いたくない。」
パーカーの少年が胸の前に握りこぶしを作る。その表情は言葉では表現できない程のものであり、瞳からは一筋の涙が流れる。
悲しみ、憎しみ、怒りーそれらの感情を握られた拳の中に閉じ込め、やがて涙がその拳に滴るとき少年の想いは熱き炎となり体現される。
「見せてやるよ。俺たちのセンスの力を!」