【空気の読めないプリースト】
あれから4年が経つシャウロック旅団長になりたい夢を持つがやはり、カーミットが止めてしまう。しかし、不思議な事にある一人の男が命運を変えるのであった。
シャウロックは十一才になっても酒場での仕事を怠らなかった。しかし、彼の願望と心に旅団を作ることは長年諦めという気持ちはなかった。むしろ、四年間の酒場の生活が嫌に感じるほどの腕前を保持していて、料理、オーダー、片付けは当たり前だがここの看板メニューまでも網羅していてた。だが、彼の心の中の夢と現実のスキルという矛盾は矛の方が完全に勝っていたのだ。
ある日の酒場、シャウロックはカーミットに休憩時間、長年の約束の事を話してみる。
「お母さん、約束の十一才になったよ」
シャウロックは真剣な目をしてカーミットに話すが、彼女はすっとぼけな表情をして冷や汗をかいてこう言う。
「約束なんのこと?」
そんな態度が苛立ったのかシャウロックは少し拗ねている。嫌な顔をしたシャウロック、カーミットを見つめながら強く言い放つ。
「旅団の話、考えてくれるって言ったよね? もう僕の誕生日から一ヶ月たったよ。前から何度も言っているし」
十一才になったシャウロックは少し大人びているも幼さというシミは四年間では消えない。茶色の少し曲がった髪は切っていないのか少し長めになっていて今にも肩に届きそうだ。しかし、彼の背から思いもつかない程仕事や考え方は一人前であった。彼はようやく痺れを切らして彼女に物申す。
「あぁ、そうだったわね。でも、もうあなたここに働いて充分一人前だからここの酒場を継いでもいいんじゃない? 給料もあげて、一人で宿に住んでもいいから」
カーミットはそう話すが、シャウロックはそんな誘惑には負けない。それより鼻からそんな話には気にもしていない。
「母さん。真面目に聞いてよ、僕はもう子供じゃないんだ! 考えてくれるって約束して僕は我慢して四年間我慢して来たんだから」
「もう、うるさいわね。わかっているわよ、ちょっと待ちなさい。今説明するからそこの椅子に座りなさい」
カーミットの説明。それがわからないままシャウロックは椅子に座る。そんな中彼女はどこから持ってきたのかホワイトボードを引っ張りだし、指示棒を書かれた絵に指していた。ホワイトボードの絵には一人の棒人間の隣に右の矢印そしてそれは五人の棒人間を指している。先に指したのは一人の棒人間のほうであった。
「この前、酒場の常連さんから聞いた話だけど旅団って必ずしもチームを組んで旅をしなければならないの。しかも、あなた旅団って言うけれども魔物と戦ったことないでしょ?旅団になると魔物と戦わなければならないのよ」
ひたすら一人の棒人間をグルグルと回し続けているカーミットの話はシャウロックにとって耳にタコができるほどの常識であった。シャウロックはふてくされてる。
「そんなことはもうわかっているよ。旅団のことはこの四年間の暇な時に何度もしらべたんだから」
足をパタパタさせながら顔に空気を入れていく。それが膨らんだのか、ぷくうっといじけ顔になる姿がなんとも愛おしく見えたのかフフッと可笑しく笑ってカーミットは見ていた。
「わかったわ。だから、今度の日曜日にあなたにチャンスを与えようと思ってね。」
「チャンス?」
シャウロックは首をかしげ、旅団の意味を照らし合わせる。カーミットは自慢気に条件を思いながらシャウロックを見ていた。そんなカーミットの条件は意外と面白いものであったのだ。
「そう、今度の日曜日に私の酒場に来た人をスカウトできたら旅団のこと許してあげる。でも、このチャンスは一度切り、旅団長になるんだったら一発でスカウトしてみなさい。もし、それが出来なかったら、諦めてここの酒場を継ぐと約束して」
笑顔で話すその棒の先は五人の棒人間へといつの間にか移っていた。彼の目には承諾という文字が映っている。
「うん、わかった絶対に約束だよ。」
それを母と子で笑顔で承諾する。そこには母と子の温かい信頼と感動的な場面が咲いていた。
だが、その母親の裏の顔にどす黒い血が混じっていたのはシャウロック十一才は知りもしなかった。
約束の日が訪れた日曜日
母カーミットはいつものように酒場の仕事をしている。そんな中、シャウロックはというと。
この日のために用意しておいたマントを首に纏いながら、お気に入りのゴーグルを頭にかけ色々と酒場をしていた。はたから見ればおかしな人間に見えるが彼はまだ幼く、夢がそれならばいたしかないことだった。さぁいよいよ、が、彼は酒場を目で物色しながら、自分がスカウト出来そうな人を探すが、彼から返ってきた反応は拒否を遠回しにした薄い言葉であった。シャウロックが旅団員になってくれますか? と頼めば……
「ごめんな、俺はもう別の旅団にはいっているからさ」や
「お前さんが!? いやー、旅団ってもっと腕力のある仕事だからよ。お前さんなんて旅団長になるなんて百年はやいよ」と罵倒されたり、
「いやー、おじさんな、ちょっとそういうのは、収入だって安定しない仕事でしょ? 依頼だって上手く行かなければ報酬なんてもらえないし、君が旅団長? 少し心配だな」と皮肉を言われたりされていた。
シャウロックは旅団長になって旅団を作ることが少しばかり甘い考えだったのかという不安に満ちていた。しかし、話によれば十三才で旅団員になっている人間もいるという話に何かと不思議を感じていた。
そんな時、シャウロックは酒場の様子を一辺見る。何かと様子がおかしい。酒場の常連がニヤついて、自分の方を見ているのに彼は気がつく。カーミットの方を見ると彼女も何故か少し笑顔でいる。何かあったのか? 彼は少し気になり始める。カーミットはフフフッと笑う。作戦が上手くいった…… カーミットは気分よくグラスを磨いて、存分にその景色を眺めていた。
母カーミット。彼女が考えた作戦が行われたのは丁度先週の月曜日のことであった。