【プロローグ】
「だから…… 旅団長に僕はなりたいんだ」
明るいぼんやりとした夕暮れ時、食卓を囲いながら父と母に話すシャウロックはこの時七才であった。彼の頬にはパンくずを口の周りにデコレーション、夢について語りだす。
薄暗いほんのりとした食卓にはテーブルだけが炎の光を浴び、シャウロックの反対側には母親のカーミットとその隣には父ショーンが座っている。彼らは仄暗い背景と共に声に反応してシャウロックを見つめていた。
旅団長、この国では旅人の軍団を旅団と呼び色々な国を回りながら依頼をこなしていく職業柄だ。依頼の内容が大きければ大きいほど有名になっていき、王国から優遇される者がいれば、はたまた伝説の旅団として語り継がれる者も、まさにこの世界の優遇職といったところだった。そのせいか旅団を夢見ているシャウロックはこの時目を輝かせながら父と母にそう話すのであった。しかし、母親カーミットの考え方は彼を押し殺す。
「ダメよ。そんな事をしたらお父さんみたいに収入が確実に取れなくなるわよ。なんのためにお母さんが一生懸命酒場を経営しているのかわかっているの?」
カーミットはパンをナイフで切りながらきっぱりと言うと、父親ショーンは焦り始めては、下を向いて冷や汗を書きメガネを曇らせていた。ショーン画家である。彼の描いた作品には不幸の呪いがつくといわれ、購入者は死の淵を体験したなどの感想が上げられている。そのせいかある意味購入者がいて、その人達は大抵プレゼント用にしているらしい。どういうことか皆さんには勿論わかるであろう。しかし、それだけでは家族を支えるだけの収入は取れなかった。
職に安定しなく、購入者は一度切りも多い彼の職、それに比べてカーミットが経営する酒場は大反響であった。「カーミットの酒場」という名で小さな酒場だが、常連が多くなぜか昼時に客が多い酒場だった。その理由はカーミットが作るミートソーススパゲティが美味しく時々、料理人が視察にくるほどのものであった。だから、彼女が息子の夢を反対するのは家族のために父の負債を負ってせっせと働いていたからでもあったのだ。でも、シャウロックはしゅんとして母親に訴えかける。
「でも……」
「でも、じゃないでしょ。あなたはここの酒場を継ぐのよ」
目の淵の涙が今にも崖から落ちそうだ。そんな姿を見ていたショーンはカーミットを見て恐る恐る彼女に彼の一歩に助け舟を出す。
「母さん。ちょっとそれはあまりにもひどすぎるじゃないのかい。いくら何でも幼い自分の息子の夢を潰すことはないだろ」
「お父さんは黙ってて!」
キリッと睨みつけるその眼光は一瞬でショーンを黙らせる。ショーンはカーミットから目を離すと目をウルウルさせながら自分を見ているシャウロックに目を触れてしまう。ショーンはそんな彼にこう言う。
「シャウロック、もう少し母さんのところの酒場でお手伝いしなさい。そうすればきっと良いことがあるよ」
ショーンはそう言って、すたすたと自分の仕事場へ逃げる。するとカーミットはシャウロックの涙に折れたのか、ため息をついてこう話す。どうやら彼女も少し言い過ぎたことは確からしい
「あなたが十一才になったら考えてあげるわよ」
その言葉が希望に満ちたのか、シャウロックの涙の潮が引いた。
その言葉に少しの不思議を持つかもしれないが、この世界にとっては当たり前の制度である。十才で成人とみなされるこの国の制度、また旅団になるためにはメンバーの加入する旅団やら一人で旅団を行うもの。そんな色々な試練を元に彼自身はそんな苦難に立向うのであるがそんなことは本人も考えていなかっただろう。
シャウロックの目が輝き出し、上を見上げる。旅団、彼の目の中には丘に立ち、風が強く吹いている光景が映し出されている。名も知らぬ強者の頂点に自分が存在していることの妄想に浸っている。彼の手からパンが落ちる。ふと我に返ると、現実の世界の食事という作業に取りかかるのであった。
その場で了承をしてしまったカーミットであったが、彼女の心は四年もあればそのうち忘れてしまうであろうと思っていた。
しかし、それから四年が経ち、彼の夢への意志が変わらないことはカーミットには災難であった。
コミティアで連載中の作品です。良かったら見ていって下さい。