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第7話  道化師とお姫様

映画館の近くに来た時左手を引かれた。俺の手を握っている斎条は小さなアクセサリーショップを指さしていた。商品を広げて真中におじさんが居るだけでお祭りなどの出店のような所だ。並んでいる商品は手作り感のある物で安い物が多かった。

「これ欲しいな」

 斎条が手にとって見ているのは星と月が付いているネックレスだった。

「あっ、壊しちゃった」

 慌てた目で俺に助けを求めていた。斎条の手にはさっきまで一つだった星と月が二つに分かれていた。

「いいんだよ。それは元々二つに分かれるようになってるんだから」

 おじさんはネックレスを簡単に一つに戻した。

「………これ、買ってやろうか」

「えっ、わるいよ。それにこれ高いよ」

 確かに、一文無しに近い斎条にとっては高価な物だが今の俺にとってはそこまで困る値段ではなかった。

「そうか、なら」

 俺はおじさんに代金を渡してネックレスを受け取った。そして、星と月に分けて星を俺のくまに月を斎条のくまに付けた。

「これで間違えることないだろ」

「ありがとう、中本君」

「礼ならくまに言ってもらいたいんだがな」

「ありがとうくま」

 斎条はくまの手を取って上下に動かしていた。

「恥ずかしくないのか」

「かなり恥ずかしいいですぅ」

 そこに伊藤が迎えに来た。俺は斎条を渡した、帰っていく斎条は手を振っていて俺も手を振って見送った。

「いい加減隠れてないで出て来いよ」

「いやー面白いもん見れて良かったぞ」

 柱の影から五十嵐が出て来た。ついて来ていたのは知っていたが、一部始終を見られていたと思うと恥ずかしくなってくる。

「あんなんでよかったのか」

「上出来上出来、伊藤も気付いていないようだし」

「何を企んでいるんだ。わざわざ大金をはたいて席まで買い占めやがって」

 五十嵐は、みんなから回収したチケットの束で仰いでいた。

「一公開分全部買うと安く済むんだぜ。それに上手くいけばこんな出費痛くない」

「そんなにお前にとってメリットになったのか」

「メリットというより確信を得ることができたんだよ」

「確信って何のだよ」

「斎条はお前のことが好きだって言うことだよ」

「何を今更、そんなこと誰でも知ってるだろ」

 小学校の時、斎条は俺に大々的に告白してきたのだ。誰に構うことなく己の意思を俺に伝えてきてそれが問題になったときもあった。それを五十嵐が知らないはずないのだが

「それと、斎条の意思は伊藤に影響を与えるってことだ。お前が斎条を上手く使えれば伊藤をひいては女子全員を動かすことができるかもしれない」

「それの何が楽しいんだか、やるならお前一人でやってくれ。俺は自分の欲望のために誰かを使うなんてことはしないんでね」

「そうか、お前がそう思ってるなら止めておくか」

 つまらなそうな顔をして五十嵐はゲーセンの中に入ろうとした。入る直前に何かを思い出したように振り向いた。

「そうだ。報酬代わりに情報提供。松島が来てるらしいぜ、伊藤の懐刀と歩いているのを見たから気をつけたほうがいいかもな」

「何が言いたいんだ」

「なーに、ここには欲しいものが沢山あるなって思ってさ」

「………たく、松島が何処にいるか分かるか」

「元副議長の情報網を舐めてもらっては困りますよ。今はCDショップ辺りに居るらしい」

「ありがとな」

 俺は重い足取りで松島の居るらしい所に足を向けた。

「みんな楽しく遊んでるんだから頑張ってくれよ」

「やかましい」


 CDショップの前には伊藤の友達の椎名がいた。彼女は表では体育会系のいい子なのだが、裏では伊藤の命令を忠実に実行する子だ。伊藤自身で手を下すことは少なくほとんど彼女がやっているのだ。本来なら喧嘩の仲裁や問題解決をしているのだが、あの時は椎名自身の意思とは反して色々やっていた。その忠実さが彼女の長所であり短所でもあるのだろう。

「仕事ご苦労様です。椎名さん」

 肩を震わせこっちを見た。

「中本、仕事って何のことかな」

 椎名は知らない顔をした。演技、行動、考え、彼女は昔と何も変わっていない。椎名がここにいるなら今松島に何をさせようとしているのかも分かる。なんと幼稚な考えというか在り来たりというか椎名の考えることは相変わらずつまらない。

「この俺を誤魔化せるとでも」

「いや思っていませんよ。それに、私はただここに立っているだけ、中本が何をしたって私には関係ない。私はここに遊びに来ているだけなんです」

「いいのかよそれで」

「未来さんには悪いけど休日労働はしたくない方なので」

「夏休みずっと付きまとってた人がよく言う」

「違いない。じゃあ私からのご褒美、最高の愛華の笑顔を見せてもらったから一時間だけ未来さんの仕事はなかったことにしてあげる」

 椎名はショップから離れていった。俺はショップの中に入り松島を探した。

 ショップの隅にある演歌コーナー、そこに松島が居た。松島の趣味を疑うわけではないが、演歌コーナーで二〇分も動かないのは明らかに不自然だ。手を出したり引っ込めたり、辺りを見渡したり今からすることをみんなに教えているようだ。

 さらに一〇分経ったころようやく松島が動いた。手に取ったCDを鞄の中に入れすぐにその場を立ち去ろうとした。

「待てって」

「ごめんなさい」

 腕を掴んで止めたとたんに謝り始めた。謝るぐらいなら始めからしなければいいものを

「いいから、顔を見てみろ」

 深く頭を下げていた松島はゆっくり頭を上げ俺の顔を見て安堵した顔を見せてくれた。

「なんだ、中本君か」

「黙ってろ、こっちに来い」

 俺は、ショップの隅に松島を引っ張りこんだ。

「あの、見てたの」

「ああ、俺以外にも五十嵐と店員が二人ほど」

 いつのまにかに五十嵐がお供を連れて来ていた。

「本当に、全然気付かなかった」

 棚から顔を出して確認しようとした松島を無理やり戻した。

「馬鹿、自然を装え。確認したいなら上だ」

 上には万引き防止用の鏡がありそれで店員がこっちを見ているのがはっきりと分かった。

「どうしょう」

「うろたえるな。いいか、ここの店は出入り口にセンサーがあって、商品を持ったままだと出れないようになってるんだ。商品を戻せばいいだけだから出すんだ」

「うん」

 商品を棚に返して早々に帰ろうとした時、松島が店員に呼び止められた。が、五十嵐達の助力もあり逃げ切れた。

 俺達は映画館まで逃げてきた。入り口付近は広く時間待ちに使えるように椅子や自販機があり松島を壁沿いの椅子に座らせ俺はその横に座った。

「あのね、あれは」

「言わなくてもいい、分かってる。心からやりたかったわけではないだろ」

「うん」

「相手に合わせてみろって言ったけどよ少しは考えろよ」

「うん、分かった」

「ならいい、五十嵐にお礼言っておけよ」

「うん……羨ましいな助けてくれる友達がいるって」

「いい友達を作るのにはそれ相当の努力が必要なんだよ」

「努力?全くしてなさそうだけど」

 ようやくいつもの笑顔が戻ってくれた。しかし、これ以上問題を起こされても困る。

「そうだな、ある国のお姫様と道化師のお話をしてやろう」

「道化師?王子様じゃなくて」

「それは話を聞けば分かる」


『ある国にお姫様が居ました。お姫様は笑うことも泣くこともせずいつも退屈な日々を送っていました。それを不憫に思った国王は、道化師を呼びお姫様の相手をさせました。その道化師は、国中の民に人気があり彼が居るだけで周りの雰囲気が明るくなるぐらいでした。お姫様は道化師と出会ってからは毎日笑うようになりました。しかし、その笑顔は道化師を滑稽だと笑っているのではなく恋焦れる男性と一緒に居られて幸せだから笑っていたのです。それを知った国王は道化師に賞金を掛けました。人気者だった道化師でしたが国民に命を狙われるようになり国に居られなくなりました。国王が道化師を追い出した理由は、道化師と姫が結ばれることは都合が悪くただ身分が違うというだけでした。道化師と引き離された姫は泣きました。何日も何日も泣き続けどんどん衰弱していきました。国王は国中の医者を集めましたがどの医者も口をそろえて同じことを言うだけでした。そんな日々が続いたある日、姫の前に仮面を付けた男が現われました。その仮面は無表情のものでその男のことで分かるものは声だけでした。ですが姫はその男が誰なのか分かりました。姫だけではなく国王も国民も誰でも分かったはずでした。分かっているのに誰もその男を捕らえようとはしませんでした。姫が昔のように笑ってくれるようになったからです。その後、仮面の男はずっと姫の側にいるようになり幸せに暮らしましたとさ』

「道化師って中本君のことでしょ。そのことなら聞いたことあるから」

「まーな、俺も色々頑張っていたんだぞ」

「そうなんだ」

「おう、みんなを笑顔にするのは大変だったんだぞ」

「でもそれってお姫様や国王様は幸せかもしれないけど、仮面の子自身は幸せなのかな」

 松島に見られてその質問をされると即答できない。確かに昔に比べたら今の方がみんなよく接してくれるし輪から外れることもなくなった。でも、昔にはあった満足感は未だに手に入れていないような後味の悪さがある。でも、俺は仮面を外さないと決めたのだ。

「どうしてそんな事が言えるんだ」

「んー、お姫様と話している時や国民のみんなを笑わせている時は、仮面さんはどんな顔をしているのかなって思ったの。仮面は無表情だけど仮面の中の顔は笑ったり怒ったりしているんじゃないのかな」

 目の前に顔を出してきたので横を向いて目線を逸らした。

「さーな、どんな顔をしてるんだろうな」

「今は笑ってるんじゃない」

 しばらく笑顔を見せた松島は、深く息を吐き真面目な顔に戻った。

「道化師さんは仮面を付ける事を選んだけど、私はそれを選ぶのは止めた。今日のこともそうだけど自分の本当の気持ちを隠すのはよくないと思うの。どんな顔をしてようとそれが本当の私なんだから本当の私を見てもらいたい。私はそう思う、たとえ村娘でお姫様に近づけなくてもそれでいい」

「それで今の状況に居ると」

「うぅぅそれを言われると痛いかも」

「まっ、それがお前の生き方なら何も言わないから」

 俺はそのまま帰ることにした。これ以上ここに居る理由もやることも資金もないからだけではない。これ以上友達とか計画とか厄介ごとに巻き込まれるのが嫌だからだ。


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