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最終話 思い出を背負って俺達は走り始める

 出会いの打ち上げ花火。告白のキャンプファイヤー。想いを伝える大会。2人だけのクリスマス。

 星川小学校の恋の伝説。兄貴やその友達、さらにはかりんまでがその伝説を成功させてきた者達だ。この伝説は彼らによって受け継がれてきた。

 一時は失われかけた伝説だが俺の時代でまた息を吹き返した。そして、今でもこの伝説は受け継がれている。ずっと歳の離れた後輩から成功の報告を受けるたび心が温かくなり残してよかったと今でも思っている。

 だが、その伝説は俺には微笑んでくれなかった。

 花火も見た。告白もした。大会で優勝もした。クリスマスも二人で過した。なのに…なのにあいつは俺に振り向いてくれなかったんだ。ずっと慎也だけを見ていた。やつも知らず知らずのうちに伝説を再現していたんだよな。でも、慎也にも伝説は微笑んでくれていない。そもそも、慎也の相手は本当に慎也が好きなやつだったのだろうか。

「伝説は一途で素直ないい子にしか微笑んでくれないのら。神様はいい子にしか優しくないのら」

 大昔にかりんに言われた台詞。今でもしっかり覚えている。もし、かりんが本当に神様だったら、俺の願い事なんて聞いてくれないだろうなと思ってしまう。

 自分に嘘をついて嫌いなことを好きになろうとした。

 友達を騙して自分に都合のよいように動くようにした。

 嘘をついて舞があらせて落胆させた。

 真実を告げて悲しめ利益を得た。

 自分だけのためにみんなを利用して一人で笑っていた。たった一人で。

 俺はそれでもいいと思った。俺が得をすれば後はどうでもよかった。慎也と出会ってからずっと俺の頭の中の計画は着々と進んでいた。伝説の失敗も小さな誤差だと俺は思っていた。

 小さな誤差など俺の計画には問題ではなかった。だが、計画は成功していない。

 どれだけ頑張っても、どれだけ考えても、どれだけ嘘をついても、どれだけ人を傷つけても、どれだけ一人になっても、どれだけ………。

 考え続けて、頭が痛くなって、苦しくて、寂しくて、孤独だった。たった一人で俺は…。

「な〜に寝てんだよ」

 体育館の真中で大の字で寝ていた俺の前にいたのは、バスケのボールを持った慎也だった。

 昔のことを思い出している間に寝てしまい、虎之耶もどこかにいってしまったようだ。

 慎也がボールを俺に見せた。

「久々にやるか?」

 慎也の誘いに俺は立ち上がった。お互いあの秋の試合が終ってからバスケを引退していた。中学になってからもバスケ部には幽霊部員として入っていただけだ。

「言っておくが、俺は強いぞ」

 自信ありげに言うと慎也は呆れた顔をした。

「誰が制服で本気でしあうんだよ。軽くパスだけだ」

 そういうと慎也は一回バウンドしたパスを出した。俺もそれを真似してお互い歩きながらパスをしあった。

 そのパスは受け取りやすく小学校から変わっていない。無理矢理なパスに見えて確実なポイントにボールを投げてくれる。キラーパスなのに受け止められなくてすまないと思ってしまうほど優しいパスだ。

 その慎也はいつも俺のライバルだった。バスケだって、友達の信頼だって、恋愛だって、いつも慎也は俺の前にいたように見えた。そんな慎也に勝ちたかったが今まで俺が満足した勝ち方はしていない。

「誠、考えるのって疲れないか」

 突然の慎也の問いに慌てたが平然を装った。

「別に考えてなんかないぞ」

「俺にはそう見えるんだけどな」

「例え考えていたとしても俺は疲れたりはしないな」

「なら、無理でもしてるのか」

 リズムよく続いていたパスが止まった。俺がボールを取り損ねたのだ。

「おいおい、なに動揺してるんだよ」

「動揺なんてしてねぇよ」

 慎也に強めのパスを出した。それを慎也は片手で受け取った。

「ま〜いいけどよ。友達、だよな。俺達」

「あたりまえだろ」

 俺は今まで通した台詞を出した。友達、口ではそういっているけど本当にそうだろうか。俺があれだけ騙して利用しているのを知ったとしても友達でいてくれるのだろうか。

「……誠。中学の卒業式少し前になるんだが、教室でした話覚えているか」

 俺は何かあったら忘れないようにしている。いつ何時役立つか分からないからだ。記憶力には自信があったが、慎也の言っていることを思い出せないでいた。

「何かあったか?」

「お前。俺がどんなに変わろうと友達でいてやるって言ったんだ」

 言われても思い出せない。中学時代?あのころも色々あって大変だったことは覚えている。

「あの時の返事。まだはっきりとはしてなかったな」

 慎也はボールをつきながらゴールに近づいていった。フリーシュートラインにたった慎也は俺を見た。

「例え、お前が嘘をつこうと、俺を利用しようと、俺は構わない。お前が必死だって分かった。だから、俺は俺にできることでお前の力になってやる。力になって、助け合って、相談できて、気付かせてくれて、騙されても笑顔になれて、本気で語り合えて、本気で喧嘩できて、そんなもん全部ひっくるめて、それができるのが友達って言うなら。誠、お前は俺の友達だ」

 参ったな。やっぱり慎也には勝てないや。考えでも、人間としても俺はこいつより大きくなれそうにないな。

「なあ、慎也。小学校時代に全校に恐れられた超ロングシュート。今でもできるか」

「さ〜な。ここ数年試合してないからな。でも…」

 ゴールのすぐ下にいた慎也はゴールに向けてボールを投げた。すぐ側にあるゴールではなく、反対のゴールへだ。小学校時代のコートの倍はある高校のコート。慎也がシュートを試みた距離は小学校時代の限界の倍以上はあった。

 投げられたボールは気持ちのいい音を立ててゴールに入って行った。

「俺の夢はプロのプレイヤーだ。ライバルのお前に忘れたとは言わせないぞ」

「この化け物が。今すぐアメリカに行っても問題ないんじゃないか」

 そして俺達は笑った。気持ちよかった。計画が成功するまで取っておこうと思った最高の笑顔だ。慎也と出会ってから初めてした本当の笑顔だ。

「誠、そろそろ行こうか。かりんに愚痴られるぞ」

「そうだな」

 これから三年間。慎也たちといられる短い時間。これだけの時間で今まで数年間溜めていた本当の笑顔をすべて出し切れるだろうか。そのためにはまず……。

 もう考えるのはよそう。本当の気持ちでこいつといたら、そんなこと簡単なことだとすぐに分かった。

「なあ、慎也」

「ん?なんだ」

「お前が俺の友達第一号だ!」

 俺達は笑い声を上げながら廊下を全力で走った。

 高校生活も全力で走り抜ける。

 最高の友と一緒に。


長い間、読んでくださってありがとうございます。

慎也の小中学生時代と誠の小学生時代を少し楽しんでいただけましたか?

歯切れが悪い!そう思われる方もいらっしゃるかもしれません。

なぜなら、これはただのプロローグです。え!長すぎるって!

だって、これだけ予備知識として知っておいて欲しかったんです。

今後、慎也たちの高校生生活の連載が始まる予定です。

ですが、この作品は自分の初作品だったので続けてよいものか疑問です。

なので、高校生編はみなさんの反響しだいですね。

厳しい評価やこんな所がよかった。こんな展開を希望しますなど多くの声を頂けたらと思っています。

では、自分の子供たちがまた皆様の前で踊れる日が来ることを願って、しばしのお別れを…。

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